第102話 過熱する激闘と全身武器

「さあ、どうしたのかな? もう終わりということはないだろう?」


 剣を構えたまま、いい笑顔で挑発してくるアーサーさんに軽くイラッとしつつ、軽く深呼吸して気持ちを落ち着ける。

 《魔法撃》の制限時間もあるけど、ここで焦ってもこの人は突破出来ない。


「来ないのかい? なら、次はこちらから行かせて貰うよ! 《ソニックスラスト》!!」


「っ!!」


 それまでのゆっくりとした動作から一転、スキルエフェクトを纏いながら一気に距離を詰めて来る。

 でも、スキルなら動作も決まってる、突進系は何度も見て来たし、これなら防げる……!


 そう思って、《パリィング》を狙い振り抜いた杖は、アーサーさんのスキルが突然中断されたことで空を切った。


「なっ!?」


「スキルってね、発動中にモーションアシストに対して一定の抵抗が見られた場合は中断されるんだよ。知らなかったかい?」


「ぐっ……!!」


 防御が空振り、再び捻じ込まれる普通の斬撃。躱しきれずに逆袈裟に斬り上げられ、私のHPは早くも残り一割程度にまで落ち込んだ。


「ベル!!」


 抵抗らしい抵抗も出来ないまま、あっさりと追い詰められた私を心配する、ココアの声。

 こんなHPじゃ、《フレアドライブ》なんて使えば十秒ももたずに力尽きるだろうし、そうでなくても次の攻撃が掠っただけで終わり。《パリィング》以外の防御手段を持たない私が逆転するには、この上なく厳しい状況だ。


 でも、


「……はははっ」


 ……楽しい。


「む……?」


 笑みを浮かべる私を見て、アーサーさんが少しだけ警戒するように後ろへと下がる。

 それを見るや、私はその距離を埋めるように地面を蹴って突進した。


「来るか……!」


 最初と同じように、杖による足払いを仕掛ける。


「甘いぞ!!」


 これまた同じように、慣れた動作で剣による防御を行うアーサーさん。

 そこから流れるように反撃へ移る動きは、やっぱりどこか手慣れた感じがする。剣道でもやってるのかな?


 でも、それならそれで構わない。

 だってこれは、リアルの試合なんかじゃなくて……


「でやぁぁぁぁ!!」


 ルール無用の決闘なんだから。


「ぐっ!?」


 杖が弾かれた勢いを利用し、低い体勢のまま回転。もう片方の杖を足に叩き込む。

 ぐらりと体が揺れ、私のすぐ真横を反撃の剣が通り過ぎる。

 冷や汗一つ垂れ落ちるような錯覚を無視して、私はそのまま跳び上がるように杖を振り抜く。


「と、ぉ……!?」


 ギリギリのところで上体を後ろに逸らされ、顎を捉え損ねた。でも、代わりにお腹が無防備だよ。

 空中でぐるりと反転し、鎧に守られた腹をひと突き。ぐふっ、と空気が抜けるような呻き声を残し、アーサーさんが後ろへ吹き飛んだ。


「やるね……! だけど、まだまだ!」


 今の流れで減らせたHPは、僅かに一割ほど。

 私が二回も攻撃を受けて生きていることからしても、アーサーさんはあまりATKには振ってないのかもしれない。ボコミほどの頑丈さはないし、DEFとAGIにバランスよく振ってる感じかな?

 対する私は、変わらず残り一割。圧倒的に不利なのは変わらず、アーサーさんの目から油断の色が消えうせたことで、むしろ追い込まれたかもしれない。


 でも、構わない。


「はあぁぁぁぁ!!」


 雄叫びを上げ、《空歩》によって一気に前へ。猪武者のような突撃から繰り出す杖の一撃を、アーサーさんは剣の腹で受け止める。

 体を捻り、繰り出すは二本の杖による息をも吐かせぬ猛攻。独楽のように回転する小さな体から繰り出される杖の乱舞は、ボコミだって凌ぎきれなかったものだ。


 でもそれを、アーサーさんはたった一本の剣だけで防ぐ。AGIの差もあるんだろうけど、突き刺すような鋭い視線から鑑みるに、私の動きを予備動作から逐一読まれてる感じがする。


 本当に厄介。でも、だからこそ楽しいし……降し甲斐がある。


「っ……!! 一撃一撃が重くて、嫌になるね……AGIが低そうなのに、反撃の暇もないよ」


 若干焦ったように見せてるけど、逆に言えば防ぐ分にはまだ余裕があるってことだよね。実際、それほどHPは減ってないし。

 でも、こっちは大切な妹が見てるんだ。恋人にもなった妹の前で、カッコ悪いところなんか見せられない。


 杖二本の攻めで崩せないのなら……


「だけど、やられっぱなしっていうわけにもいかないし、そろそろ……!?」


 攻撃の手を増やすだけだ。


「おりゃあ!!」


「ぐふっ!?」


 二本の杖による打撃を警戒し続けて、その動きに慣れて来たアーサーさんの腹に向けて、思い切り突進。頭突きをぶちかます。

 杖で殴るよりも威力が落ちるとはいえ、今の私は《魔法撃》と《背水の底力》二つの効果が重なって、素の手足でもかなりの威力を誇る全身武器状態だ。

 それなら、何も杖だけを使って戦う必要はないよね?


「くっ、まさか頭が飛んでくるとは……」


「頭だけじゃ、ないよっ!!」


「ぐっ!?」


 杖を振るい、剣で地面へと受け流されればその勢いを利用して足を跳ね上げ、顔面を狙う。

 怯んだところへ再度杖を叩き込むと、反撃とばかりに振り下ろされた剣を躱し、軸足に向けて回し蹴り。

 ぐらりと揺れた体を頭突きで押し倒し、頭上から二本の杖を同時に振り下ろした。


「うおぉぉぉぉ!?」


 ズガンッ!! と、防御のために掲げられた剣と杖とが激突する音が決闘エリアを震わせる。

 ガリガリとHPを削り取り、アーサーさんも残り五割。このまま、押し切る……!!


「……あっ」


 そう思った瞬間、ついに私の《魔法撃》の効果が切れた。

 ATKがガクンと激減し、その瞬間を待っていたとばかりにアーサーさんの顔がニヤリと笑みの形を作り出す。


「《エレメントスラッシュ》!!」


「っ!!」


 咄嗟に飛び退いた私の前を、眩いエフェクトに覆われた剣が通り過ぎる。

 あっぶな……一瞬でも遅れてたらやられるところだったよ。


「ははは……それなりに出来る子だろうとは思ってたけど、まさか俺がこうもやられるとは思ってなかったよ」


 ……まだHP、五割しか減らしてないんだけど。どんだけ自信家なのこの人?

 でも、本人は至って本気のようで、ギラギラとした闘志を瞳に乗せ、私に対して剣を構え直す。


「ここからは本気で行かせて貰う。《剣身一体》!!」


 アーサーさんの体を、眩いエフェクトが包み込む。

 この感じ、何かの強化スキルかな? なら、気を付けないと……


 そう思って、警戒を高める私の前で、アーサーさんの体が一瞬だけブレ、気付けば目の前に迫っていた。


「えっ……」


「はあぁ!!」


 振りかぶられた騎士剣が、私の頭上から振り下ろされる。

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