第91話 姉妹の立場と微笑みの視線

「いやー、危ないところだったねー、助かったよココア」


「もう、ベルは変なところで抜けてるんだから……」


 ぶつぶつと呟くココアに対して、私は「たはは」と笑って誤魔化す。


 ウィングブーツの効果時間をすっかり忘れていたせいで、危うく落下死するところだった私は、《エアドライブ》とココアの残り僅かな効果時間を使って、どうにか元の場所まで戻ってこれた。


 ココアの方も残り数秒しかなかったし、中々ギリギリの生還劇だったよね。まあ最悪、《マナブラスト》で自爆すればどうにでもなったと思うけど。


「反省してる……?」


「してますしてますごめんなさい」


「全く……」


 雑な返答をする私に、ココアが腕を組みながらぷりぷりと怒る。

 いやもう、実は反省させる気ないのでは? 可愛すぎてご褒美なんだけど?


『やっぱりベルちゃんの方が妹っぽいよな』

『ココアちゃんの方が間違いなくしっかりしてる』

『何ならリアルでもこんなやり取り繰り返してそうな雰囲気』

『それな』


「そ、そんなことないから!!」


 言っとくけど、私は長年一人で家事をこなしてきた実績がありますからね? とてもしっかりしたお姉ちゃんだと近所(美森さん)にも評判ですよ?


 このやり取りが日常的だっていう意見は的を射てるから、いまいち否定しづらいけどね!!


 案の定、『否定が弱いな』『声震えてる』『これは図星』とか言われちゃってるし。ぐぬぬ。


「ほら、早く先に進むよ、ベル」


「うん、分かった」


 正座する私に差し伸べられた手をとって、二人並んで歩き出す。

 いつもやってることだけど、こっちじゃ身長差が逆転してるから中々新鮮なんだよね。


『ほほえまー』

『悪いことして怒られたけど手を握って貰っただけですぐ仲直りというチョロさよ』


「いや別に悪さしたわけじゃないし!!」


 まあその代わり、こんなことを言われ続けることになるんだけど。


 ぐぬぬ、私は一体どうすればこやつらにお姉ちゃんだと認めさせられるのか……!


「やっぱりここはかっこよくモンスターをぶっ飛ばして分からせてやるしかないか」


『そういうとこやぞ』

『ここまで清々しい脳筋そうそういない』

『ヒーローに憧れる男の子みたいな思考してる』

『ん? そう考えるとやはりこの二人、お姉ちゃんと弟のおねショタなのでは?』

『今更気付いたのか? 俺はとっくに実はリアルでは……と脳内補完してるぜ!!』


「補完するならまず私をお姉ちゃんにしてくれない!?」


 本当にこいつら、人を全くお姉ちゃんと認めないんだから!

 いいもん、私はココアがそう思っててくれればそれで満足だもん!! ふーんだっ!!


「どうどう、落ち着いて、ベル」


 ぷんすこと機嫌を傾ける私を、ココアが撫で回す。

 うへへ、ココアが自然と自分から触れてくれる……嬉しい。


 ……はっ、いけないいけない、これじゃあ視聴者さん達の言う通り、ただのチョロ姉になってしまう。

 ここはあくまで姉の威厳を保って、余裕たっぷりに受け止め……受け……止め……うえへへへ。


『なんかめっちゃ百面相してるぞこの子』

『お姉ちゃんに甘えるの恥ずかしいけど甘やかされて嬉しい子供の図』

『可愛い』


「ぐぬぬ……!」


 だ、ダメだ、この方面からお姉ちゃん感を出すのは難しい……!

 ここは余計なことは言わずに、戦闘で頼りになるところを見せ付ける方針を貫こう。初志貫徹だ。


 というわけで、積極的にココアの前に立ち、ばったばったと襲い来るモンスターを薙ぎ倒す。

 突風エリアをいくつも飛び越え、一度倒したことで素通り出来るようになったフィールドボスの脇を抜けて、ついに前回は攻略を断念した足場の一切無い場所までやって来た。


「ここもウィングブーツで突破出来ると思うけど……どうする? エレインやボコミと合流してから行く?」


 エレインは、私達二人だけで進んでも構わないって言ってくれたけど、それはそれとして未知のエリア、推奨四人のこの場所を私達だけで踏破出来るかは分からない。


 そんな私の問い掛けに、ココアは少しだけ考え込む。


「そうだね……ちょっとだけ様子見しよう、どこまで行けるかだけでも探った方がいいと思う」


「よし、じゃあそういうことで!」


 方針は決まった。まずは、二人で行けるところまで突き進む。

 そうと決まれば、後はいつも通り突き進むだけ!


「行こう、ココア!」


「うん……!」


 二人手を繋ぎ、空へ向かってダイブ。

 さあ、姉妹二人の攻略開始だ!!

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