第59話 ココアの正体と悪巧み

 私の問いかけに、ココアちゃんは少しだけ目を瞬かせて……すぐに、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふふ、よく気付いたね、ベル。私としては、結構真面目に演じてたつもりなんだけど」


「仕草とか、表情とか、結構違和感あったからね。あ、一番は抱き方かな? こう、言葉の割にいつもより密着度が低かったというか」


 特に誤魔化すでもなくあっさりと認めたココアちゃん……エレインにそう答えると、なぜか微妙な表情に。えっ、なぜ?


「いや、流石にそれが決め手になるとは思わなかったよ。なるとしてもいつもより積極的とかそっちかと」


「いや、あれは結構いつも通りだったし。二人でいる時は結構積極的に抱っこされるよ、私」


「……大分欲求不満だったんだなぁ」


 素直になればいいのに、と嘆息するエレイン。

 そのまま、「それで」と私に視線を送る。


「そこまで分かったなら、本当はもう気付いてるんじゃない? ココアの正体に」


「あはは……まあ、ここまで来れば流石にね」


 これまでも、何度か疑問に思うことはあった。

 部屋の外にほとんど出ることがないあの子が、蘭花や美森さん以外の人にああも信頼を寄せていたのもそうだし。

 ココアちゃんしか知らないはずの私のプレイ状況を、なぜかリアルタイムで把握していたこともそうだし。

 初対面のはずのエレインと、やたら連携バッチリだったことも、今思えばおかしな話だった。


 それに何より……エレインが、頼まれたとしてもここまでしてあげるような相手なんて、私は一人しか知らない。


「でも、そっか……まさか、ココアちゃんが雫だったなんてね……」


 そう考えれば、全部の疑問に辻褄が合っちゃうんだよね。だって、ティアもココアちゃんも同一人物だったんだから。


 半ば確認するように溢した私の呟きを、エレインは否定しない。

 ということは、やっぱりそういうことか。うん、この反応で確定だね。


 つまり……


「雫……私がFFOを始めてから、ずっと近くで見守っててくれたんだね……」


 やばい、やばい、やばい。そう考えたら顔がにやけるのが止まらない。


 FFOを始めて、一緒にやろうって言っても断られて、負けてたまるかってたくさん頑張って来たけれど、ココアちゃんの支援が無ければ、エルダートレントには勝てなかったし、もっと早く詰んでたと思う。


 私は、自分で知らなかっただけで……これまでずっと、雫と一緒に遊んでたんだ。

 それに……それに……!


「私、雫にいつもあんなにたくさん抱っこされた上にすりすりなでなでされてたなんて……! ティアと初めて対面した時、思ったより素っ気ない反応でちょっと不安だったけど、このアバターの外見、ちゃんと気に入ってくれてたんだね!! 良かったぁ!!」


「……ん? なんかちょっとズレてるような……」


 私の心からの叫びに、エレインは首を傾げる。


 いやいや、だってココアちゃんが私に対して積極的にスキンシップを図ってくれていたということは、つまり雫がスキンシップを図ってくれていたということ。

 リアルの雫がやたらと私のスキンシップを拒絶していることを思えば、つまり雫は私の作った美幼女アバターにメロメロになってくれているという証左!!


「よし、次からは私の方からもたくさん抱き着こう。そうしたらきっと喜んでくれるよね!!」


「待って。待って待って、早まらないでベル!」


 溢れる衝動のままに叫ぶ私に、なぜかエレインが待ったをかけた。

 何かあるのかと首を傾げる私に、エレインはびしりと指を突きつける。


「いい? 雫ちゃんはね、とにかく素直になれない子なの。鈴音の前では特にね。これは分かる?」


「う、うん」


 元々引っ込み思案な子だからね。私に対しては結構辛辣だけど、それでも時々言いたいことを我慢してるなって感じることはある。


「今、ココアがベルにたくさん抱き着いてくれるのは、あくまで“ココア”であって“雫ちゃん”じゃないからなの。もしその正体を暴いて、強引に迫るような真似をすれば……」


「す、すれば?」


「いつもみたいに、抱き着こうとしては蹴り飛ばされる、ボコミ状態になっちゃうよ」


「うん、それは嫌!」


 ボコミは拒絶されてなぜか喜んでるけど、私にそんな趣味はない。

 私は、この愛を雫と共有したいの!! もっともっと雫と触れ合いたいの!!


「だからね、ベル。ココアちゃんの中身については、今後も気付かなかったフリをするように」


「分かった。でも、出来るかな……」


 ココアちゃんには、今後とも同じように抱き着いて欲しいんだけど、当の私がココアちゃん=雫と分かってしまった今、同じように接していられる自信がない。

 ぶっちゃけると、それこそ今日の朝みたいに、出会い頭に抱き着いて頬擦りしたいくらいには。


「大丈夫、私にいい考えがある」


 すると、ココアちゃんの姿をしたエレインが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 私がその正体に気付いた切っ掛けの一つでもある、特徴的な表情をこれでもかと見せびらかしながら、エレインは言った。


「ベル、午前中の間に配信のやり方習ったんでしょ? この午後の探索で、“ベル”と“ココア”が“そういうこと”をしても当然っていう印象を、FFO中にバラ撒いちゃおう」

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