第58話 戦果確認と小さな違和感

「おかしい、こんなの絶対おかしいよ……!!」


 ティアとの初めての配信、樹海エリア攻略を終え、リアルに戻って昼食を食べ終えた私は、FFOに再ログイン。自分用の配信アカウント(FFOのアカウントと連動しているやつ)のコメントを見ながら、愕然としていた。


 というのも、視聴者の人達が全く私の料理の腕前について信じてくれなかったから、今日のお昼は大分気合を入れて作ったの。で、それを配信アカウントでネット上にアップした。

 ハンバーグに、トマトスープに、ポテトサラダ。普段は雫が小食だから少な目に作るところを、余った分は晩御飯に回すことにして出来るだけ豪勢にしたの。


 結果、どんな反応が返って来たかと言えば……


『えっ、この冷凍食品どこの銘柄? 普段食ってる奴より美味そうなんだけど』

『出前では?』

『というか学生っぽいし普通に親が作った奴では』

『ほら、ベルちゃん撲殺魔女だから、食材を潰す系の料理は得意なんだよきっと』

『ハンバーグにポテトサラダ……なるほど一理ある』

『焼くのはティアちゃんの担当だな』

『焼き加減はお手の物です』

『黒焦げになりそう』

『なっとらんやろがい!』


 こんな感じ。

 いや本当に、泣くよ!? 私だって泣く時は泣くからね!?

 というか、ハンバーグとポテトサラダは確かに潰す系だけど、トマトスープは違うでしょうが!! 意図的に無視するな!!

 もう、お前ら全員殴り倒して屍の上で泣いてやるんだからぁーーーー!!


「まあ落ち着けって、みんなネタにしてからかってるだけで、誰も本気になんてしてないよ。オレはその……お姉ちゃんが作ってくれる料理、ほんとはいつも感謝してる……から、さ」


「うぅ、ティアありがとぉ! やっぱり私の味方はティアだけだよ、愛してる!!」


「あ、あいっ……!? や、やめろばかぁ!! いくらフィールドだからって、他にプレイヤーもいるんだからな!?」


 思いっきり抱き着いていつものように叫んだら、ティアが顔を真っ赤にして叫び出した。

 うん、正直私の声より、ティアの声の方が目立ってる気がするけど、特に迷惑そうな人もおらず……むしろ微笑ましげな感じの視線を感じるから、問題ないと思う。多分。


「ほら、もうココアのホームに着くよ! いい加減離れろって!」


「ああん……」


 ぐりぐりと引きはがされて、渋々ティアから離れる。

 うーん、ベルの姿ならたくさんスキンシップ取っても許されると思ったんだけどなぁ、結局いつもと変わらない……おかしい。


 そんな思いを抱えながら、いつものようにココアちゃんのホームに足を踏み入れる。


「ベルお姉様、おかえりなさいませーー!!」


「ココアちゃん、戻ったよー」


「ぶべらっ!?」


 扉を開けた途端、何か飛んで来たので反射的に拳で迎撃。地面に叩き伏せ、中に入るついでに踏んづける。

 我ながら酷い扱いだと思うけど、足元から「あぁん、もっとぉ!」とか聞こえてきたから、気にしないでおこう。


「おかえり、待ってたよ、ベル。会いたかった」


「むぎゅ」


 などと、変態(ボコミ)の扱いについて頭を巡らせている隙に、私は音も立てず近付いて来たココアちゃんに抱きしめられていた。

 ぜ、全然気付かなかったよ……


「だ、だから、ココアは何してるの!?」


「何って、いつも通りの行動?」


「いいい、いつもそんなことしないから! し、してないよね、お姉ちゃん!?」


「えっ? うーん……確かにいつもと違うかな?」


「ほ、ほら!!」


「いつもはもっとベタベタ触られるかも」


「ふえっ!!?!?」


 ティアの口から、なんかすっごい鳴き声が漏れた。可愛い。

 でも実際、ココアちゃんに抱っこされると、いつも頭とかほっぺとか色々触られるんだよねー。なんというか、ぬいぐるみで遊ぶ子供みたいな感じ?

 なぜだか嫌な感じがしないからされるがままになってるけど、下手するとFFOにハラスメント認定されるから少しは自重した方がいいかもね。


「……き、気を付けます……」


「いや、なんでティアがそれ言うの? ココアちゃんの話だよ?」


「っ!? そ、そうだよ、ココア、少しは自重して!!」


「大丈夫、限度さえ弁えればいくら触ってもBANはされない。むしろ、ティアはしないの? 姉妹なのに?」


「そ、それは……!」


 挑発的な笑みと共に私を撫でるココアちゃんと、それを見てむぎぎと歯を食い縛るティア。

 ココアちゃんって、ティアの前だとこんな感じなんだね。……何というか、すごく既視感があるような。


 うーん、なんだろう? なんというか、これと似たノリをリアルでも経験しているような……


「ベルお姉様、私はもちろん一切合切全ての接触を許可しておりますので、どうぞ存分に嬲ってくださいまし!!」


「いや、たとえ全部許可してても限度はあるからね? 利用規約にも書いてあったでしょ?」


「そんなの読んでいませんわ!! 『公序良俗に反する行為を行った場合、アカウントの凍結に至る場合もあります』なんて文言全く知らないですとも!!」


「知ってるじゃん、丸暗記じゃん!」


 完全に確信犯なボコミの態度に、私は思わずため息を溢す。

 いやまあ、決闘システムもあるわけだし、フレンド同士多少ボコる程度は実際問題ないんだけどね。ボコミも、言われるまでもなく一応の限度は弁えてるのか、決闘の時みたいな不死性を発揮して何度も殴られには来ないし。


 というか、いきなり割り込んで来たボコミの相手してたら、何を考えてたか忘れちゃったよ。

 えーっと、確か……


「それで、すっかり聞くの忘れてたけど、二人は予定の素材集まったの?」


「あ、うん。問題ないよ」


 ココアちゃんに問いかけられたことでまたも思考が中断され、ひとまずは午前中に集めたアイテムを渡す流れに。

 とりあえず後でいいかと思いながら、アイテムを一通り手渡し、全てを一旦アイテムボックスへ。何でも、後日纏めて調合するんだって。


「ただ、まだいくつか素材が足りてないから、出来れば午後も素材集めと行きたいんだけど……どうする?」


「ベルお姉様! 午前中はティアお姉様と一緒だったのですから、午後は私と行きましょうそうしましょう!!」


 ココアちゃんの言葉に、真っ先に反応したのはボコミだった。

 食い気味に私へ迫って来る姿に若干引きつつ、私は首を横に振る。


「ごめん、ボコミはティアと動いてくれる? 午後は私、ココアちゃんと話したいことあるからさ」


「ガーン!? またしてもフラれてしまいましたわ……! あ、でもティアお姉様と二人きりというのもそれはそれで悪くありませんわね。はあはあ……」


「オレ、ソロで動くから、ボコミもソロで頼むなー。今日中に準備は終わらせたいし、三組に分かれようぜ」


「ティアお姉様にまでフラれましたわ!?」


 がっくりと両手両膝を突くボコミに苦笑しながらも、残念ながら欲望丸出しのボコミに賛同する人は誰もおらず、結局三組に分かれることに。

 本番こそはベルお姉様の肉壁になってみせますわーーー!! なんて息巻くボコミを見送りながら、私もまたココアちゃんと一緒にフィールドへ繰り出す。


 通い慣れた荒野エリアで、たった二人。話し声が聞こえるほど近くに他のプレイヤーがいないことを確認した私は、ごく軽い調子でココアちゃんへ声をかけた。


「ねえ、エレイン。今日はどうしてココアちゃんのアカウントでログインしてるの?」

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