第57話 戦闘リザルトと理論火力

「決まったぁ~……! 私の勝利だわぶっ!?」


 戦闘が終わるや否や、ティアに頭からポーションをぶっかけられる。

 何するのと抗議の視線を向けてみれば、ティアが指し示したのは頭上に浮かぶ私のHPバー。残り一割を切り、もはや雀の涙ほどしか残っていないそれだった。


「お姉ちゃん、あと三秒で死に戻ってたぞ。ただの火傷状態にしては長すぎるし、《フレアドライブ》は解除するまで状態異常が続くタイプみたいだな」


「あー、そっか、私が死ぬよりは早くトドメ刺せそうだったから、倒した後のことは頭から抜けてたよ」


 あはは、と笑う私に、ティアはやれやれと呆れ顔。

 コメント欄も、そんなティアに追従するように盛り上がりを見せていた。


『おつー』

『すんごいバーサーカーぶりだった』

『ノーダメ勝利なのに死にかけという謎』

『というか自分の残りHPくらいちゃんと管理しなさいよw』

『HPが残ってさえいればミリでも全快でも変わらないというこの潔さ』

『攻撃極振りビルドの鑑』

『惚れましたわ。抱いて』

『↑通報した』


 うん、一部変な人が混じってるけど、概ね好感触。

 というか、こんな幼女捕まえて、抱っこしたいならともかくして欲しいなんて、変わった人もいるもんだねえ。


「お前ら、あんまりはしゃぐと百回焼くぞ?」


『『『すみませんでした。でも是非焼いてください』』』


 カメラに向かって凄み、一斉に平伏コメント……と、ついでに変な要望を吐き出させたティア。


 うーん、うちの妹、ゲームの中だと中々に過激だね。あいや、リアルでも似たようなものか。少し前は毎日のように枕投げつけられてたし。


 えっ、それは私が無理矢理部屋に押し入ろうとするのが悪いって? おっしゃる通りで……。


「っと……あれ?」


「うん? お姉ちゃん、どうかしたか?」


「いや、また知らないうちに新しいスキル習得してたみたいで。メッセージ届いてた」


 どのタイミングで来たんだろう? また戦闘中かな?

 私、夢中になると結構この辺り見落とすから、気を付けないとなー。


 さて、どんなスキルが来たのか……


スキル:背水の底力

分類:強化スキル

習得条件:【共通】残りHP10%未満での総戦闘時間、および敵の撃破数が一定値を突破。

効果:残りHPが20%以下の時、ATK大アップ。


『うおっ、なんじゃこれつえぇw』

『大アップってどんくらい上がるんだっけ?』

『1.5倍くらいじゃなかった?』

『数字で言われるとリスクの割にはなんか微妙な気がしてくるなw』

『いや一旦落ち着けお前ら、この子は魔法撃とフレアドライブも持ってるんだぞ? 2倍と1.3倍と1.5倍で……えーといくつ?』

『3.9倍かな?』

『僧侶の支援もつけようか。オフェンシブオーラで』

『鬼人の丸薬を忘れて貰っては困る』

『どっちも小アップだから1.1倍だな』

『4.719倍』

『マナブレイカー乗せようぜ! ベルちゃん今MPなんぼ?』


「え? えーっと……フレアナイトも合わせて、643かな?」


『6.43倍追加』

『30.34317倍』

『計算はえーよw』

『つーかそうだな、このゲーム重ね掛けしまくれるもんな、最終的な数値やべーわなんだこれ』

『お前ら忘れてないか? フレアドライブは炎属性の強化魔法。つまり、下手すれば全属性分同じようなのがある』

『どこまで強くなんねんw』

『夢が広がるな』


 私のスキル習得を機に、色んな想像が組み合わさってどんどん私のATKがやばいことになってる。


 えっ、今の私のATK? 随分上がって、284だよ。300も目前。

 最初は55だったから、5倍くらいにまで膨れ上がってるね。視聴者のみんなが頑張って計算してくれたのを全力でやると、今の私は理論上、レベル1の時の150倍近いダメージが出せることになる。


 うん、我ながら凄いとこまで来たなー。


『素のステータスで300目前か……今は攻撃スキルがマナブレイカーしかないけど、普通に連発出来る奴習得したらヤバそうだな』

『マナブレイカーほどじゃないにしろ、スキルにもかなり補正乗るからな』

『いやいっそ、このまま強化スキル祭りにして素の数値で殴る化け物になって欲しいw』

『もう化け物だろJK』

『せやな』

『異議なし』


「いやおかしいでしょそれは!?」


 本当に好き勝手言うねこの視聴者達!? 私はどこにでもいるごく普通の女の子です!!

 それを言うと、視聴者どころかティアにすら「えっ?」って顔で見られた。


 うぅ、泣くよ!? あんまり虐められたらお姉ちゃん泣いちゃうからね!?


「ちなみに、お姉ちゃんは《フレアドライブ》の先……があるかは分からないけど、それを目指すか、他の属性を解放するか、どっちにするつもりだ?」


「うーん……みんな期待してるっぽいし、他の属性、とりあえず風を解放してみようかな? 《フレアドライブ》も出来るだけ使っていきたいけど、火傷対策がまだないし、それはココアちゃんに相談してからにする」


『それがいいよ』

『俺らの希望を叶えてくれるベルちゃんマジ天使』

『天使というより悪魔では?』

『近接火力の限界が見たい』


「あはは……と、いけない、そろそろご飯の時間だ。私は落ちないと」


「あ、そういえばそうだね。一度終わろうか」


 ワイワイと盛り上がるコメント欄に苦笑しつつ、ふと時計を見た私は、もう十一時を回っていることに今更ながら気が付いた。

 そんな呟きを拾ってか、コメント欄には新たに『ん?』との文字。


『昼には早くね?』

『さっきベルちゃんが家事してるって言ってた』

『本当にしてるのか……てっきり見栄張ってるのかと』

『なんか心配になってきたな。出来たら写真アップしてクレメンス』


「本当にみんな、全く私の家事能力信用してないね……? 分かった、とびっきり美味しそうなの作って、度肝抜いてやるから!!」


『期待してる』

『火傷しないように気を付けなよ』

『包丁で指切らないようにね』

『ダークマターでも笑わないから!』


「そのセリフが笑われるよりよっぽど泣けるよ!?」


 私の戦闘スタイル、見直すべきだろうか?

 半ば本気でそんなことを考えながら、ココアちゃんとボコミに十四時頃に再集合する旨をメッセージで送ると、私はティアよりも一足先に配信を終え、FFOからログアウトするのだった。

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