第53話 配信練習とベルのイメージ

「着いたー! ふふっ、ここに来るのもなんだか久しぶりな気がする。懐かしいなー」


 素材集めのため、そして配信の練習のため、ティアと一緒にやって来たのは懐かしの森林エリア、その最奥。

 エルダートレントを倒し、一緒に遊ぶ約束をティアと交わすことが出来た思い出の場所だ。

 まだ一か月しか経ってないのに、そんな感傷に浸っていると、ティアが隣でふっと笑みを溢す。


「ベルが初めて配信した場所だからな。やり方は覚えてるか?」


「うん。ええと、確かここを……」


「ああ、ちょっと待て。せっかくだから、宣伝も兼ねて一緒に配信しよう」


 そう言うと、ティアがメニューを操作し、近くに光輝く光の玉みたいなのが現れる。

 なんでも、これが撮影用のカメラみたいなものらしい。

 へ~、私はあの時、エルダートレントくらいしか目に入ってなかったから、知らなかったよ。


「んんっ……よお、今日も“爆炎魔法チャンネル”、配信やっていくぜ」


 軽く咳払いし、ティアがカメラに向かってしゃべり始める。

 特に宣伝とかしたわけでもなく、ほんの思いつきみたいに始めた配信なのに、もう視聴者がいるの? すごくない?


「今日は、最近話題のオレの姉ちゃん……ベルと一緒に、配信の基本レクチャーと樹海攻略やっていくぞ。慣れた人には今更かもしれないけど、新規さん向けってことで頼むな」


 今日の予定を説明すると、ティアは可視化されたコメント欄と一緒にカメラをこっちに向けた。

 何をしたらいいのか大体察した私は、光輝くそれに向かってにこっと満面の笑顔を浮かべてみせる。


「やっほー! 今ティアから説明があった、お姉ちゃんのベルです! みんなよろしく!」


『おー、かわいい』

『ロリ可愛い』

『お姉ちゃん?? どう見ても妹』

『元気でいいねえ』

『あ、撲殺魔女だw』

『エルダートレント討伐戦も決闘もログから見ました!』

『ドS幼女』


 私が挨拶すると、それに合わせてずらずらとコメントが流れていく。

 おおー、相手の顔は見えないけど、掴みは上々ってやつ、かな? 賑やかでいい感じ。

 ただ最後、誰がドS幼女だ。私は普通に優しいお姉ちゃんです!!


「それじゃあ、ベル、早速配信やっていこうか。メニューの方から……」


「お姉ちゃん」


「……へ?」


「やっぱり、ベルじゃなくてお姉ちゃんって呼ばれたい。ダメ?」


 じーーーーっと見つめながら頼みこんでみると、ティアは少しだけ「うっ」とたじろぎ、きょろきょろと視線を彷徨わせて……


「……お、お姉ちゃんがそう言うなら……いいけど」


 照れ臭そうに、そう言った。

 よしっ、ティアの口からハッキリとそう呼ばれれば、私が防波堤としてより機能しやすくなるはず! 狙い通り!!


『ティアがデレた』

『うっそだろお前、ティアちゃんの照れ顔なんて初めて見たぞ』

『これは紛れもないお姉ちゃんですわ』


「うっさい、あまり言うと全員焼くぞ!?」


『ありがとうございます』

『ありがとうございます』

『ご褒美です』

『ありがとうございます』


「こ、この変態どもめ……! もういいっ、ほら、お姉ちゃん、配信!」


「うん、分かった」


 ワイワイと楽しげに騒ぐティアを見てくすりと笑いながら、カメラにも見えるように配信開始ボタンをタップ。

 同時に、それまでティアの周囲を漂っていたのとよく似た、光の玉が私の周りを漂い出す。


「アカウントの登録さえされてれば、これだけで配信出来るから便利だな。お姉ちゃん、視聴者は来てるか?」


「えーっと、わっ、結構来てる!」


 配信開始と同時に、どんどん増えていく視聴者数。

 エルダートレント討伐の時は雫を合わせても二人までしか伸びなかったから、まさに雲泥の差だ。


『こっちも来たよ』

『ティアちゃんの配信と二窓開いた』

『チャンネル登録しといたぜ』


「ありがとー! まあ、私は家事とかもしなきゃいけないから、ティアほど頻繁にはやれないと思うけど、これからよろしくね」


『えっ』

『えっ』

『えっ』

『家事……?』

『ベルちゃん家事出来たの?』

『ベルちゃん……物を破壊するのは掃除とは言わないんやで……?』


「ちょっと待って、家事くらい出来るよ!! みんな私のことなんだと思ってるの!?」


『撲殺魔女』

『脳筋幼女』

『破壊神』

『ドS』

『頭おかしい子』


「おっけーみんな表に出なさい、今すぐ私がぶん殴ってあげるから!!」


 私がカメラに向かって杖を構えると、ワイワイガヤガヤと一気にコメント欄が盛り上がっていく。

 全く、まさか私の悪名がこんなにも広がってたなんて……知らなかったよ。


「まあでも、お姉ちゃんの料理は本当に美味しいからな。どうせなら、こっちでも料理スキル取ってみたらどうだ? 上手く作れると、かなり長時間のバフ効果がついてお得だしな。はした金にしかならないモンスタードロップの使い道にもなるしよ」


「へえ、料理スキルなんてあるんだ」


 これまで戦闘一直線だったけど、少しはそういうのを取ってみるのも悪くないかも。私に張り付いたこの不名誉なイメージを払拭できるかもしれないし。


『料理、美味いのか……』

『イメージ出来ねえ……』

『あれじゃないか? ティアちゃんに比べて相対的に上手い的な』

『そ れ だ』

『ありそう』


「ぜっっっったいに目にもの見せてあげるから、見てなさいよ!?」


 失礼極まるコメント欄に噛みつくと、『可愛い』『怖い』『ころされるー!』とまたもひと盛り上がり。

 ちなみに、同じく料理下手のイメージを植え付けられたティアはと言えば、「否定できないっ……」って呻いてる。


 うん、こっちに関してはコメント欄の人達と同意見だよ。うちの妹可愛いよね!!


「まあ、今日は料理じゃなくて戦闘だけどな。視聴者さん達もそっち期待してるだろうし」


「うぐぐ……まあ、それは分かるけどね」


 料理によるバフは、効果時間が長い代わりに雀の涙、無いよりはマシ程度の強化しかなく、趣味スキルの領域を出ないらしい。

 そっち専門で色々と作っては動画にするプレイヤーもいるそうだけど、ティアは基本的に各エリアやボスとの戦闘、高速攻略を売りに配信してきたから、需要はそっちに傾いてる。今日も樹海攻略するって宣言してるんだし、料理はまた今度だ。


 いや、そもそもやるかも分からないけど。


「それで、ええと、後は何を言ってなかったか……そうそう、後は配信の終わらせ方は、ここをタップで……終わった後、アーカイブに動画を残すかどうかの設定。宣伝用のURLはここだな」


「ふむふむ」


 視聴者の人達と会話してたら、どんどん話が脱線しちゃうよ。というわけで、もう一度本題に戻って来る。

 と言っても、やっぱりそれほど難しい操作はない。ちょこちょこと配信に関する設定やボタン配置をレクチャーしたら、それでひと段落。


「こんな感じ。簡単だろ?」


「うん、これなら一人でもやれそう!」


『分かりやすい解説サンクス』

『あんまり自分でやる気なかったけど、こうして見ると楽そうだし試しにやってみるかな』

『配信者もっと増えろー』


 視聴者の人達にも好評だったようで、温かなコメントが流れていく。

 それを見て、もう説明は十分だと思ったのか。ティアが私に視線を向けてきたので、こくりと頷き返す。


「じゃあ、配信レクチャーはこれくらいにして、樹海攻略に行こうか」


「うん、行こう!」


『おっ、ついに来たか』

『爆炎の悪魔と撲殺魔女の夢の共演』

『果たしてどうなるか』

『地獄だな』

『間違いない』


「ねえティア、先にこの視聴者からやっちゃわない?」


「いいな、それ」


『ごめんなさい』

『許して』

『なんでもはしませんから!』

『いやしないんかいw』


 視聴者さん達のコメントは即行で話の本題を離れ、めいめいに盛り上がりを見せる。

 そんな賑やかなコメント欄を見て、私とティアは顔を合わせて苦笑を浮かべながら、樹海攻略へと乗り出すのだった。

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