第52話 変態共と今日の予定

「こ、こっち来い!」


「おおう」


 ココアちゃんの腕を引いて、ティアが私から距離を取る。

 そして、その場にしゃがみこんで何やらこそこそと話し始めた。


(なにしてんの? なにしてんの!? 言ったよね、普段通りにしてって言ったよね!?)


(うん、だから普段の雫ちゃんが思ってることをトレースして、ココアの口調で再現したよ。完璧でしょ?)


(全然完璧じゃない! わ、私あんなこと言わない!!)


(「ベルは私のもの」とか観衆の前で叫んだのに?)


(うっ……)


(いつも何かと理由をつけてベルを抱っこしてるのに? この間も、手斧の補充に来たベルに、「お金がないなら割り引きしてあげる」とか言って思いっきり……)


(うわぁぁぁぁ!! ちがうちがーーう!!)


 会話の内容はよく聞こえないけど、百面相状態のティアを見るに、よっぽど楽しい話でもしてるんだろう。本当に仲が良いんだなぁ、あの二人。


「ベルお姉様、一日ぶりですわぁぁぁぁ!!」


「あ、ボコミも来てたんだね。こんにちは」


「ぶべらっ!?」


 二人に気を取られている隙をついて(?)、既に来ていたらしいボコミが小屋の中から襲いかかってきた。

 とりあえず、挨拶代わりに杖を一発。地面に叩き伏せる。


 流石の私も、この仕打ちはどうなのかと思ったり思わなかったりするけれど……なぜか嬉しそうに伸びてるからまあいいか。


「それにしても、ココアちゃん、急にどうしたんだろ」


 今さっき、急に抱き着いて来たことを思い出し、少しばかり首を傾げる。

 んー、割と普段通りの行動ではあるんだけど、何か違和感が……


「ふふふ……お二人が来る間、ココアと散々に語り合って気付きましたわ……彼女はライバルである以上に、私の同志だと!!」


「へ? 同志?」


「そうですわ! ベルお姉様を慕う者同士、話せば分かるとはこのことですわね!! 私の知らないベルお姉様の魅力を存分に教えていただきまして……鼻血が出そうですわ」


「そんな話してたの!? なんかすっごく恥ずかしいんだけど!!」


 ボコミはなんか違う気がするけど、ココアちゃんに慕われてると思うとなんか照れる。


 そう思ってると、話し合いが終わった(?)らしいティアとココアちゃんがこっちにやって来て……ココアちゃんはそのまま私に抱き着いた。


「ふふふ、ティアが素直にならないなら、私がベルを貰う。というか、ベルはすでに私のものだし」


「くっ、ココアぁ……!」


 訂正、まだ話し合いは終わってなかったみたい。

 くすりと勝ち誇った笑みを浮かべるココアちゃんと、ぷるぷると顔を真っ赤にして震えるティアが、私を挟んで火花を散らす。


 う、うーん、これは一体どういう争いなんだろう? 話の流れから察するに、私を巡る争いみたいな?


 ……ティアが私欲しさに争ってる? なにそれ、鼻血出そう。うえへへ。


「この表情……ベルお姉様も割と同類な気がするのですわ」


「今気付いたの? ベルとボコミは結構似てる」


「似てないよ!?」


 ココアちゃんにしれっと断言され、私は思わず声を大にする。

 いくらなんでも、ここまでオープンな変態じゃないし! というか、私が妹を好きなのは生物学上当然のことなの! 自然の摂理なの! よってごく普通!!


 必死に抗議する私に、ココアちゃんはニヤリと悪戯っぽい笑み。

 ……この笑い方、やっぱり少し違和感あるなぁ。ボコミに変なこと吹き込まれたにしても、何かこう……いつもと違うような?


「じゃあ、少し妹とじゃれあって。それで判断しよう」


「わわっ」


 とんっ、とココアちゃんに背中を押され、ティアのお腹にダイブ。

 顔を上げれば、突然のことでどうしたらいいか分からず戸惑うティアの顔。


 ふむ、可愛い。ならやることは一つ。

 背伸びしながら手を伸ばし、ティアの顔を抱き寄せた。


「わっ、ちょ、お姉ちゃ……ベル、何するんだよ!?」


「いやほら、妹とじゃれ合えって言われたから、その通りにしようかと?」


 体勢が辛くてその場に膝を突いたティアの頬に、自分の頬を触れ合わせる。

 ぎゅっと抱き締めることで伝わってくるティアの体温は、それが架空の物と分かっていても心地いい。


「……本当に仲がよろしいんですのね。姉妹というよりもはや恋人ですわ」


「だから言ったでしょ? ここに割って入るのは相当覚悟がいるって」


「くっ、どうにか私も……お二人の足掛け椅子でいいですから中に入れないものでしょうか……!!」


「ダメだこいつもう手遅れ」


「っ~~!! こら、そこっ……! 勝手に人の関係を変えるんじゃない……!!」


 ココアちゃんとボコミが盛り上がっているところへ、ティアが真っ赤になった顔で抗議する。


 あはは、まあ確かに、私達は姉妹であって恋人じゃないもんね。私だって、恋人相手だったらこんなこと、恥ずかしくて出来ないだろうし。


 まあ、雫がいる以上、私は一生恋人なんて作るつもりないけどさ。


「ほら、ベルももういいだろっ、離れろ!」


「あ~……」


 ティアの温もりが遠ざかっていくぅ~……ぐすん。

 まあ、今日の本題は私達の顔合わせに加えて、新エリア攻略に向けた必要なアイテムの確認だからね。

 足りないものがあれば、ココアちゃんに作って貰ったり……場合によってはフィールドに繰り出して素材集めしないとだし、時間はあまり無駄に出来ないのは確かだ。


 というわけで、泣く泣くティアの抱っこを断念した私は、他のみんなと一緒にテーブルに着いた。

 一人だけ床に足がつかずにプラプラさせたところで、「そういえば」と口を開く。


「来てからずっと騒いでたから聞きそびれてたけど、エレインはまだなの?」


「エレインなら、今日は用事があるってさ。必要なアイテムは事前に聞いておいたから、そこは平気だぞ」


「なるほど」


 エレインは用事があったのか。聞いてなかったけど、お店の手伝いとかかな?

 ティアが取り出したメモ用紙を見て納得した私は、改めて四人で話し合いを行うことに。


 ちなみに、ボコミとティアの自己紹介は不要だった。私と会う前から、既に結構な頻度でボコミはティアに挑んでいて、かなりの回数ボコボコにやられていたらしい。


「HP極振りは足が遅いし、継続ダメージ系で焼きながら、近づかれないようにノックバック系の魔法を連打して遠くからボコれば余裕だよ。警戒するのは一撃必殺のカウンターだけでいいからな」


 とはティアの言。魔術師はタンカー相手だと相性が良いんだって。

 だとしても、ボコミを一方的にボコボコに出来るなんて、やっぱりティアは凄いなぁ。私は結構ギリギリだったのに。


 なんてことを口にしたら、なぜか生暖かい目で見つめられた。いや、なんで?


「ベルのことは置いといて、今後のことだけど」


 閑話休題とばかりに、ココアちゃんが話を戻す。

 まず、ココアちゃんは新エリア解放初日は遊べないということで、まずはボコミを加えた四人パーティで攻略することになった。代わりに、その次の日はココアちゃんが参加することに。

 その上で、それぞれ必要なアイテムを挙げ、融通し合えるものがあるか、ココアちゃんに作って貰うのに必要な素材は何か、考えを纏めていく。


 そして、もう一つ。重要なポイントがあった。


「今回の新エリア攻略、動画配信しようと思うんだけど、みんな問題ない?」


「別にいいけど、ティアじゃなくてベルがやるの?」


「いやほら、ティアはティアでやるだろうけど、私もここらで練習しとかないとなって」


 以前、エルダートレント討伐の際に配信はしたけど、個人としてはそれっきりになってる。

 いずれはティアとコンビで動画配信していきたいと思ってるけど、それなら私も配信慣れしておかなきゃ話にならない。


「練習なら、配信を本格的に始める告知を兼ねて、今日は適当なエリアの攻略配信するのがいいかもな。どうせ素材集めは必要だし、一緒にやるか?」


「うん、やる!」


 ぴらぴらと、必要素材を書き起こした紙を振りながら提案するティアに、私は二つ返事で首を縦に振り回す。


 むふふ、本番前の練習とはいえ、ついにティアと一緒に初攻略、初配信だ! 楽しみ!


「そういうことなら、二手に別れようか。素材集めなら四人固まるより、そっちの方が効率良いし……ティアとベルはこれお願い」


 ワクワクしていると、ココアちゃんが必要なアイテムを記したメモを二つに分け、片方を私に差し出した。


 えーっと何々……《黒針樹の枝》、《精霊草》、それに《暗闇蔓》か。どれもエルダートレントを倒したことで行けるようになった、樹海エリアで手に入るアイテム……らしい。


 でも……


「効率の話をするなら、私とココアでは少々バランスが悪いのではなくて?」


 そう、私とティアはお互いアタッカーだけど、ボコミとココアちゃんの二人はタンカーとサポーターだ。二人で動くにはあまり相性がよろしくない気がする。


 懸念を口にするボコミに、ココアちゃんは大丈夫だと笑みを浮かべた。


「いいからいいから。まだボコミと話したいことあるし、一緒に行こう」


「まあ、そういうことでしたら……ベルお姉様、いつか私とも二人きりで組んでくださいまし!!」


「あはは、うん、その時はよろしくねー」


 ココアちゃんに手を引かれ、小屋の外へと引きずられていくボコミを苦笑混じりに見送る。

 残された私達は向かい合い、くすりと笑みを溢した。


「それじゃあ、私達も行こっか!」


「うん」


 当初の予定より少し前倒して、姉妹水入らずのゲーム配信。

 昂る気持ちを抑えながら、私達はフィールドへと繰り出した。

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