第49話 必死の誤魔化しと勢い発言

「い、いやそのっ、私はアップデートの日、用事があって……!」


 雫との話し合いが終わった後、FFOにログインした私は、いつものホームで早速ココアちゃんに新エリア攻略を打診してみたんだけど……断られちゃった。


「そっかぁ……ココアちゃんとも一緒にやりたかったけど、用事があるなら仕方ないよね」


「うっ……その、ごめん……」


「気にしないで、誰だってそういう時はあるよ」


 トレードマークのうさみみをしゅんと垂れさせるココアちゃんの頭を、軽く背伸びしながら優しく撫でる。

 新しいエリアなら、今までにないアイテムとかたくさん出るだろうし、ココアちゃんも行きたかったはず。

 ゲームは楽しいけど、あくまでリアルあってのゲームだからね。そっちの用事も大事にしなきゃ。


「ふっふっふ……ココアが行かないというのなら、いよいよ私の番ですわね!! ベルお姉様、新エリアには是非ともこの私、ボコミを連れていってくださいまし!!」


 そんな風に思っていると、金髪ロールを振り乱し、勢い良く会話に割り込んでくるド変態……げふん、ボコミの姿が。

 カサカサと素早い動きで私にすり寄ってきた。怖い。


「どうしてあなたがここにいるの……呼んでないんだけど」


「どうしても何も、フレンドだからですわ! ココアさんも私とフレンド登録したでしょう!?」


 渋い顔をするココアちゃんに、ボコミは心外だとばかりに叫ぶ。


 そう、あの決闘以来、何かにつけてボコミが私達の前に現れては、決闘を挑んでくるようになったんだけど……そうやって何度も戦ってる内に、私達はフレンド登録したのだ。


 ココアちゃんもその一人なんだけど、未だに警戒心が解けたわけじゃないみたい。ジトーッと、可愛らしくボコミを睨んでいる。


「したけど、ボコミみたいなド変態はベルの教育に悪い。だから帰って」


「ぐふっ、あなたも中々容赦ない口撃をお持ちですわね……悪くないですわ」


「えぇ……」


 なぜか喜んでるボコミに対して、ココアちゃんはドン引き。

 でも、あまり積極的に他のプレイヤーと関わろうとしないココアちゃんが、これだけズバズバと本音を口に出来るっていうのも、それはそれでボコミの人徳なのかもしれない。


「と、ともかく、ボコミがベルのパーティメンバーなんて、私は認めないから」


 ひしっ、と私の体を抱き締め、ボコミから隠すように後ろへ回すココアちゃん。


 そうそう、もう一つの変化として、ボコミがフレンドになってからというもの、ココアちゃんはなぜか以前よりも増して私をぬいぐるみよろしく抱くことが多くなった。


 別に嫌じゃないからいいんだけど、どういう心境の変化なんだろう? よく分からない。


「ですが、話を聞くにお姉様のパーティはあなたが入らなければ一枠空くのでしょう? 四人攻略推奨の《天空の回廊》へ挑むのであれば、フルメンバーにしておいた方がいいのは明白ですわ」


 それに、と、ボコミは勝ち誇った笑みでココアちゃんを見下ろす。


「ベルお姉様が殴り魔、ティアお姉様が正統派魔術師、もう一人のエレインさんは盗賊なのでしょう? そのメンツなら、タンカーである私がいればより一層の連携が取れることは間違いなしですわ! サポート役のココアさんよりも確実に!!」


「くぅ……!?」


 それこそ、どこの悪役令嬢かと言わんばかりの表情で告げるボコミの言葉に、ココアちゃんが呻く。


 まあ実際、変態なのを横に置けば、ボコミのタンカーとしてのスペックは凄く高いし、パーティにいてくれると助かるんだよね。何せ、私が全力で攻めても押さえ込まれたくらいの実力なんだし。


「なので、ベルお姉様、どうか私をパーティメンバーに!! 容赦なく肉壁にでも囮にでも使い捨てて構いませんから!!」


「う、うーん」


 まあ、タンカーって囮役だし肉壁だから、何も間違ったことは言ってないはずなんだけど、ボコミが言うと変な意味に聞こえてくる……

 そうでなくとも、ボコミをティアに近づけるのは色んな意味で危ない。まあ、悪い子じゃないんだけどね? 悪い子じゃ。


「まあ、一度ティアに相談かな。あの子も結構人見知りだから、知らない子がパーティに入るのは嫌がるかもしれないし」


「むむむ、ティアお姉様のガードは相変わらずですわね……まあ、そうなったら仕方ないですわ。ベルお姉様、その時は代わりに踏んで慰めてくださぶべっ!?」


「ティアは絶対に拒否するから、今のうちから私が代わりにたっぷり踏んづけてあげる」


「ちょっ、私がお願いしているのはココアさんでなくベルお姉様ですわ! ただのちびっ子は黙っていてくださいな!」


「いや、ココアちゃんより私の方が小さいんだけど」


 ココアちゃんに踏まれながら抗議の声を上げるボコミの姿に、私は思わず苦笑を溢す。

 この二人、なんやかんやで仲が良いよね。やってることはちょっとアレだけど。


「ところでココアちゃん、用事って言ってもずっとじゃないよね? アプデの前とか後で空いてる日はあるの?」


「え? いやまぁ、それはもちろん。だからパーティには入れなくても、ベルのサポートはこれまで通り……」


「じゃあ、その時になったらみんなで一緒にやろうか」


「えっ」


 残念ながら、アプデ初日は用事があったみたいだけど、何もそのタイミングでしか一緒にやれないわけじゃない。また別のタイミングで集まればいいだけだ。

 そうでなくとも、一度集まって必要なアイテムの確認とかしたいしね。


「その時はボコミも来る? いきなり踏んでくださいなんて言ったらアレだけど、普通にしてればティアとも打ち解けられると思うよ」


「この態度は私のアイデンティティなので、FFOの中で曲げるつもりはありませんわ!!」


「ブレないなぁ……せめて自重はしてね?」


「善処しますわ(出来るとは言ってない)」


 全くその気が無さそうな発言に、やっぱりやめようかなぁって不安が湧いてくるけど……まあうん、今は大丈夫だと信じよう。ダメだったらその時改めて対処すればいいし。


 そうやって、ポンポンと予定を決めている間に、ようやく再起動を果たしたのか。ハッとなったココアちゃんが、私に食い付いてくる。


「ね、ねえベル、別に私とティアを無理に引き合わせなくてもいいんじゃない? ほら、私はサポートがメインだから、あまりパーティに入っても役に立たないし」


「え? 役に立たないなんてそんなこと全然ないでしょ? それに私、二人が普段どんな感じで付き合ってるのか興味あるんだよね」


 根っこの部分では同じ人見知りでよく似た二人だけど、表向きな態度は少し違う。

 ココアちゃんはオドオドした小動物タイプな一方で、動画で見たティアは、情け容赦一切持たない悪魔みたいな雰囲気だった。


 普段の雫を考えると、ココアちゃんと気が合ったのも十分理解出来るけど、ゲームの中でそんなこと分からないはずだし。

 どうやって二人が仲良くなったのか、前々から結構気になってたんだよね。この機会に色々聞いてみたい。


「いや……だからその、それは……」


 しかし、ココアちゃんはどうにも歯切れが悪い。

 何か問題があるんだろうかと思っていると、ボコミが唐突に「ははーん?」と訳知り顔で笑みを浮かべた。


「さてはあなた、ベルお姉様とティアお姉様で二股してますわね!?」


「ふたっ!? そんなわけないでしょ!?」


 そして飛び出した突拍子もない言葉を、ココアちゃんが全力で否定する。

 いやうん、この間のパートナー発言のことなら、確かにティアと私、両方の面倒を見てくれてるはずだけど、普通のことだしね。二股だなんてそんな。


「ふふふ、確かにティアお姉様もベルお姉様も、どちらも捨てがたい魅惑の攻めをお持ちですが、揺れているようではまだまだライバルとは言い難いですわ、ココアさん!」


「誰がライバル!? 後別に揺れてなんかないから!!」


 それともあれかな? ちょくちょく私を抱っこしたがるあれのこととか? 実は甘えん坊なのをティアに知られたくないとか。

 うーん、ココアちゃん、結構恥ずかしがり屋さんだし、それはあり得るかな?


「ココアちゃんココアちゃん」


「な、なに?」


 とりあえず、二人の間で話がどこまでもヒートアップしていきそうだったので、軽く肩を叩いて止め、ぐっと親指を立てる。


「私はティアを盗られない限り、何しても気にしないよ!」


「ベル、絶対何か変な勘違いしてるよね!? ああもう、いい、分かった!!」


 何か間違ったのか、ココアちゃんは頭を抱えながら、くわっと目を見開き――


「そんなに言うなら、ティアと会うよ。私もちゃんとパーティを組む!!」

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