第三章 撲殺魔女と配信プレイ
第48話 待ちかねた言葉とパーティ提案
「ん……なるほど……レベルは34……現行のカンストである40までは今一歩……魔法スキルは炎、風が中級まで解放済み、と……」
いつもの朝食の時間。最近ではすっかり一緒に食べてくれるようになった雫が、重々しい口取りで読み上げているのは、私……“ベル”のステータス一覧。
この一か月、空いた時間で私なりに頑張ってFFOを進めて来た。
最近はちゃんとクエストの受け方も覚えて、資金繰りも大分好転してる。
ココアちゃんに作って貰った装備も、いくつか素材を加えて順当に性能を強化して貰ってるし、やれるだけのことはやったと思う。
後は、雫に認めて貰えるかどうか……!
「お姉ちゃん……」
ステータスが載ったスクリーンショットから、ゆっくりと顔を上げ……
「うん、いいよ。今なら私と組んでも問題ないと思う」
そう言って、私に笑いかけてくれた。
その言葉を聞いて、私は思い切り拳を握りしめ……天井に向かって勢いよく突き出した!
「いやったーーーー!! これでやっと雫と一緒に遊べる!! 雫、ありがとぉ!!」
「わぷっ!? こ、こら、ご飯が零れるでしょ、やめい!」
突き上げた勢いのまま雫の体にダイブすれば、顔面を手で雑に押し退けられる。
うおおお、でも負けないもん、この喜びの全てを雫に伝えるまでは、仮に今この瞬間世界が終わるとしても絶対に離さない……!!
「離れないと一緒に遊んであげないから」
「はいごめんなさい雫様どうかこの不肖の姉をお許しくださいませ」
しゅばばっと素早く雫から離れ、その場に平伏する。
うん、世界が終わっても離すつもりはなかったけど、雫の言葉は世界の終焉よりも大事だからね、仕方ないね。
「全く……お姉ちゃん、一応言っておくけど、ゲームの最中に抱き着いて来ないでよ。邪魔したらお姉ちゃんごと焼くからね」
「わ、分かってるって。戦闘中に抱き着いたりなんてしないよ」
「……戦闘以外、特に町中でもやめてよ?」
「…………」
ジト目で見つめて来る雫の視線から、そっと目を逸らす。
実は町中で抱き着いて、私と雫の仲を喧伝することで悪い虫がつかないように牽制しようと思っていたなんて言えない……!!
「はあ……まあいいや、どうせアプデ実装からしばらくは新エリアに籠りきりだろうから、抱き着いてる暇なんてないだろうし」
「えぇ!? そんなぁ!!」
せっかく、ゲームの中でなら雫を甘やかして撫で回して、至福の時間が過ごせると思ってたのに!! そうなっても大丈夫なようにあのアバター作ったのに!!
あ、嘘ですごめんなさい雫様、だからそんなゴミを見るような目で私を見ないで、お姉ちゃん泣いちゃう。
「そういうのは、ココアでもやれるし……それに、どうせやるならリアルでして欲しいし……」
「え、雫、何か言った?」
「なんでもない」
なぜか、顔を真っ赤にしてもじもじし始めた雫に、「トイレなら早めに行った方が」と注意したら、「ばかっ!!」と怒られてしまった。なんで?
「もう……それより、早くご飯食べるよ。明日のアプデに関しての情報はもう公開されてるから、一緒に確認しよ」
「うん、分かった」
雫に促され、改めてテーブルに着いてご飯を食べる。でも、その速度は本当にゆっくりだ。
元々、一人で食べていた頃も、待っていれば雫が来てくれるんじゃないか……って儚い期待を持ってゆっくり食べていた私だけど、今はそれに輪をかけて遅くなってるかもしれない。
だって、雫と一緒にご飯を食べられるこの時間を、少しでも長く味わいたいから。
「……そんなに見られてると食べづらいんだけど」
「ごめんごめん。ご飯食べてる雫の顔が可愛いから、つい」
今日の朝ご飯は、解した鶏肉とお野菜を使った味噌雑炊。
朝に弱い雫は、食べやすいのが好きだからね。こういう系が好きなのはいつものことだけど、やっぱり喜んでくれてる顔を直に見れると、喜びもひとしおだ。
そう思っていると、雫は誤魔化すように顔を赤くしてそっぽを向く。
「あ、あんまりからかわないでよ。私は、だからその……お姉ちゃんの料理が好きなだけで……」
「ふふ、ありがと。それなら、私のも食べさせてあげるね。はい、あーん」
「ふあっ!?」
そろそろ無くなって来たところで、私はちっとも進んでなかった自分の分の雑炊をスプーンで差し出す。
素っ頓狂な声を上げ、あわあわと視線を彷徨わせる雫。可愛い。
でも、そんなに恥ずかしがらなくても、小さい頃は普通にやってたでしょ? だから早く早く。
そんな感じで催促すると、ようやく雫が意を決して口を開き……ぱくり。
真っ赤な顔で食いついて、そのままもごもごと口の中で咀嚼した雫は、そのままゆっくりと口を離す。
「……おいしい」
「ふふ、良かった」
消え入りそうな声で感想を口にする雫にほっこりしながら、いい加減少しは食べなければとそのまま私も雑炊を一口。
うん、中々悪くない出来栄え。味はもう少し薄い方が雫好みかな?
なんて、次の料理の構想を考えながら顔を上げると、雫はなぜか余計に顔を真っ赤にしていた。んん?
「どうしたの? まだおかわり欲しい?」
「な、なんでもない! そんなことより、は、早く食べて! じゃなきゃいつまで経ってもアプデの話が出来ないでしょ!!」
「そう? じゃあ遠慮なく」
あまり待たせるのも悪いから、ぱくぱくと手早く食べ進めていく。
先に部屋に行って待ってるかと思いきや、今日の雫はやけにじっと見つめてくる。
まあ、見られて不快とかそんなことは全然全く欠片もないんだけど、さっきからソワソワと落ち着きがないのがちょっと気になるなぁ。
首を傾げつつ、食べ終わった食器を流しに片付ける。
軽くすすぎ、洗浄機に入れて戻って来ると、雫はリビングのソファに座って手招きしていた。
「ほら、お姉ちゃん、こっち」
「あ、うん」
どうやら、部屋のパソコンじゃなくてスマホで見るつもりらしい。
……見づらくない? と思ったけど、「詰めれば平気でしょ」と言われてしまった。
まあ、雫と合法的に密着出来るなら、私に文句なんてないけど。雫の方から言い出すのは珍しい。
「……いや?」
「全然嫌じゃないです」
些細な疑問を放り投げ、雫の隣に座った私は、手元のスマホ画面が見えるように顔を寄せる。
ふわりと香るのは、私が使っているのと同じシャンプーの匂い。
同じもののはずなのに、雫から漂ってくるだけで別物かと思うほどに吸い寄せられるのは、私が変態だからじゃなくて自然の摂理だと言わせて貰いたい。
「それで、アプデの内容だけど……」
割と必死に理性と欲望がせめぎ合う私の気持ちを知ってか知らずか、雫は画面に表示される内容を読み上げていく。
やけにゆっくりだなと思うのは、雫も同じ気持ちだと思いたい私の願望がそう感じさせているだけだろうか?
華奢で線の細い雫の体が私に寄りかかっているというだけで、抱きしめたい衝動が無限に湧き上がって来てしょうがないんだけど。
「まあ、そんな感じで、事前情報とあまり変わらないかな……」
そうこうしている間に、雫の口頭説明が全て終わってしまった。
うぐぐ、いざ終わってみるともう少し堪能したかったような……というのは一旦置いといて。
雫の話を聞いている中で、一か所だけ気になった部分について、私は極力平静さを保ちながら尋ねた。
「確かに、《天空の回廊》の情報は前とあまり変わってないけど……よく見たらこれ、パーティ攻略推奨ってなってるんだね」
「ああ、うん、そうだね」
スマホの一か所を指差すと、雫もこくりと頷いてくれる。
新エリア、《天空の回廊》。初心者から上級者まで楽しめるエリアを、ということでどんな感じかと思ってたけど、どうにも色々とエリア内にギミックが仕掛けてあるらしく、四人くらいのパーティ攻略が推奨されていた。
まあ、ソロや二人でクリアできないってわけでもないみたいだけど……せっかくそうなってるなら、四人でやってみるのもアリだよね。
「じゃあさ、私達も四人でやってみない?」
「いいけど……あまり知らない人とやるのは、色んな意味でちょっと。共通のフレンド、そう何人もいるわけじゃないし」
「いるじゃん、ほら、エレインとか」
「まあ、確かにエレインなら信用出来るけど……他は……」
「後、ココアちゃん」
「なるほど、ココア……って、え?」
きょとん、と目を丸くする雫を見て首を傾げつつ。
私は、自分が考えていることを何の気なしに口にした。
「私と、
そう提案した私の言葉に、なぜか雫はあんぐりと口を開けたまま硬直するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます