第28話 投擲練習と忍者プレイ
「よいしょっと!」
無数の木々に覆われたエリアの中、スキルの力で加速された石ころがヒュン、と宙を駆ける。
狙い違わずゴブリンの胴体に命中したその一撃で、森林エリアに生息するゴブリン……通称森ゴブリンは「グギャ!?」と奇声を上げながら怯んだ。
その結果を見て、私は微妙に表情を渋くする。
「うーん、《マナシュート》よりはマシ……かな? 流石に大ダメージとはいかないね」
「そりゃあ、投げてるのはただの石ころだからね、それでダメージ大きかったらみんなメインで使ってるよ」
私の不満に、エレインはけらけらと笑う。
私は今、習得したばかりの《投擲》スキルを試すべく、森林エリアへと狩りに来ていた。
まずはスキルの具合を確かめるお試しの意味もあって、そこら辺の石ころを拾って投げてるわけだから、エレインの言う通り威力なんて出なくて当たり前なのかもしれないけど、これで本当に飛行型モンスターに通用するのか、どうしても不安になる。
「大丈夫、お金を惜しまず、キチンと弱点部位を狙う腕前さえあれば、ちゃんと使えるスキルだから。見てて」
そう言って、エレインが取り出したのは小さなナイフ……いや、クナイ?
それを両手に持ち、私がちょっかいをかけたことで迫って来たゴブリンへ振り向くと、おもむろにその顔面を踏みつけ、跳び上がった。
「ほいっ!」
「グギャ!?」
空中でくるりと体を回転させながら、放たれたクナイがゴブリンの眉間に突き刺さり、半分以上残っていたHPを消し飛ばす。
すごい、ちゃんと弱点部位に当てる精度もそうだけど、いつどのタイミングで投げたのか、速すぎてよく見えなかった。
でも、それだけで終わらない。
「もういっちょ、《三連投げ》!!」
くるりともう一回転したかと思えば、いつの間にか残る手に持っていたクナイが三本に増え、投擲と同時に三方向に拡散する。
それらのクナイは狙い違わず別々の場所にいたゴブリン達の弱点を射抜き、全てあっさりと仕留めてみせた。
「何今の!? すごい!」
「ふふふ、私は盗賊、DEXはかなり高いからね、結構無茶な動きしながらでも狙ったところに当たるんだよ。ついでに、今使ったのは《投擲》スキルを使い込んでると解放される攻撃スキル。あまり種類は多くないけど、これと適切な武器選びさえすれば、中々悪くない強さになるよ。まっ、素直に弓使った方が強いだろうけどね、あはは!」
エレイン曰く、ガチの《盗賊》は弓がメインで、護身用の短剣をサブ、《投擲》は保険くらいの感じらしい。
一方で、エレインは《投擲》と短剣がメイン。なぜそんなスタイルかと言えば……
「でも、こっちの方がカッコいいでしょ? 忍者っぽくて!」
にしし、と笑うエレインに、私も釣られて吹き出した。
周りなんて気にせず、自分の好きな道を行くのはなんともエレインらしい。そういうところは、友人として素直に尊敬出来るところだ。
まあ、少しくらいは周りを気にしてもいいと思うけどね。学校の勉強とか宿題とかあと勉強とか。
「それじゃあ、そのカッコいい投擲術の極意、エレインから教わっちゃおうかな?」
「ふふふ、任せてよ!」
胸を叩き、得意気な顔で請け負ってくれる親友とひとしきり笑い合い、一緒になって森の奥へと歩を進める。
森ゴブリンが姿を消し、代わりに現れたフォレストウルフやキラービーを相手取りながら、私は投擲スキルの練習を続けた。
「とりゃ!!」
「ギャウ!? ガウ、ガウ!!」
「うきゃー!?」
ただやっぱり、石ころを投げ付けてもモンスターの怒りを買うばかりで、中々後が続かない。
威力不足で、当てても効果が薄いっていうのは確かに理由の一つなんだけど……問題はもう一つある。
「よっと! ベル、大丈夫!?」
向かってきたキラービーをクナイで切り捨てたエレインが、そのまま私に飛び掛かってきたフォレストウルフへとクナイを投げつけた。
振り向き様……というより、もはやノールックに等しい早さで投げたにも拘らず、その一撃はしっかりとフォレストウルフの首元に突き刺さり、クリティカルダメージであっさりと打ち倒す。
それを確認し、私はほっと息を吐いた。
「うん、大丈夫……ふぅ、エレインすごいね、あんな投げ方で弱点部位に百発百中なんて」
そう、エレインの投げるクナイは、とにかく外れない。全部綺麗に弱点を射抜いてる。
私も流石に暴投やらかすようなノーコンじゃないとはいえ、そんな風に的確に当てられるほどの精度で物を投げられないんだよね。あまり適当に投げると普通に外れるし。
その辺りが、武器の性能差の上に更に乗っかることで、元々のATKで勝っているはずなのにこれだけ処理能力に差が出てる。そのことを素直に称賛すると、エレインは謙遜するように軽く手を振った。
「練習したから、っていうのも無くはないけど、一番は純粋なステータスの力だよ。DEXが上がっていくと、深く考えなくても狙ったところに飛んでいくようになるから」
DEX……器用度は、主に攻撃の命中率に影響するステータスだ。
それが高いと、AGIが上昇した時にやたら素早く動けるようになるのと同様、特に意識しなくても狙った場所に攻撃が吸い込まれていくらしい。なにそれすごい。
「ベルの場合はそのステータスが低いから、今すぐ私と全く同じは無理だよ。まあ、ベルならステータスなんてなくても真似しちゃいそうで怖いけど」
「あはは、流石に無理だよ」
あんな曲芸染みたクナイ捌き、私のステータスじゃどうやったって真似出来ない。
まあ、近接戦闘しながらクナイを投げ込むタイミングなんかは参考になるけどね。
「だよねー。まあとにかく、私の投げ方なんて真似しなくていいから、投擲を使うタイミングをしっかり覚えといて。このスキルを覚える一番の利点は、近接職が離れた敵にもちょっかいをかけられること。牽制と誘引、ついでに弱点部位を探すにも便利だから。あくまでベルの武器は杖なんだから、投擲に頼りすぎないように。それでいてここぞって時に赤字を恐れずアイテムを使い捨てる思い切りの良さが大事だよ」
「うん、分かった」
そんな感じでレクチャーを受けつつ、更に奥へ。
すると、再びフォレストウルフが現れた。
「よーし、それじゃあアドバイス通り、やってみよう」
石ころを構え、狙う先は眉間、このモンスターの弱点部位だ。
当たるかどうかは若干不安だったけど、今回はきっちりと狙った場所に飛んでいった。
「ギャオウ!」
ダメージは小さいものの、牽制には十分。一瞬足を止めた隙に、私は一気に距離を詰める。
「でやぁぁぁぁ!!」
アクアスノウを抜き放ち、脳天に一撃。そのまま仕留めた。
うん、確かにエレインの言う通り、足の遅い私にとっては、石ころ一つでもちゃんと杖と使い分ければ中々悪くないかも? 牽制しながらぶん殴れば、今までよりも安全確実に立ち回れる。
「ベルの戦い方、やっぱり何度見ても魔術師って感じしないよね。どこからどう見ても蛮族」
なんて思ってたら、エレインにそんなことを言われた。いやいや。
「私、ちゃんと魔術師だから! ティアとお揃いなの!!」
「いやぁ、そのスタイルでお揃いは無理があるんじゃ……せめて何か魔法を交えてるならともかく」
「むぐぐ! 分かった、それなら私、魔法を使った戦い方を考える!! ちゃんと魔術師らしくなるように!!」
「無理だと思うけどなぁ」
なぜか最初から諦めてるエレインに「むきーっ!」と噛み付いたり、軽くあしらわれたりしつつ。
その日はそのまま、《投擲》スキルの練習をして過ごすのだった。
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