第27話 訓練施設と的当てクエスト
「また会ったな嬢ちゃん! ようこそ訓練施設へ!」
エレインに連れられ、やって来たのはベースキャンプの桟橋近くにある訓練施設。
聞いていた通り、見覚えのある船乗りさんに出迎えられた私は、軽く手を振って話しかけた。
「船乗りさん、お久しぶりです! 訓練お願いできますか?」
「おう! どんな訓練をするんだ?」
船乗りさんの問いかけと同時に、私の前にウィンドウが表示され、訓練内容がずらりと並ぶ。
えーっと何々……? スキルの使い方、魔術師の基本戦術、採取の基本、その他諸々……チュートリアルでやったのとほぼ同じ内容もあるけど、どれも報酬として1000クレジットと記載されていた。
全部やると……二万クレジットくらいかな? 確かに結構高い。
それにしても……チュートリアルの時も思ったけど、訓練を受ける立場の私が、なんでお金貰ってるんだろうね? いや、助かるけども。流石ゲームと言うべきか。
「どれからやろう? ……と言っても、どうせ全部やるんだし、上からでいいか」
「いいと思うよ、偶に面倒なのもあるけど、そういうのは後回しでいいし」
エレインのアドバイスに頷きつつ、上から順番に訓練をこなしていくことに。ちなみに、エレインもせっかくだからとその“面倒で後回しにしていた”訓練をこなすことにしたらしい。
というわけで、一番上のは、と……
「まずは採取の基本だな、採取する際には、近くまで寄ってそれが採取可能なものであるか確かめる必要がある」
採取についての訓練だった。
ココアちゃんがやってるのは何度か見たけど、そういえば自分ではやったことないね。
船乗りさんの指示に従い、訓練施設の中に入ってみると、そこには体育館くらいの広さの運動場? みたいな場所があった。
『それじゃあ、訓練内容を説明するぜ』
到着すると、船乗りさんの顔がウィンドウで表示され、採取のレクチャーが始まった。
訓練場の中に生えている草むらの中から、《薬草》を見つけ出せっていうクエストなんだけど、遠目からじゃよく分からない。近づいてみると、アイテムになる草はうすぼんやりと光ってるから分かる感じ。
一つ、二つ、三つ……残りはどこ? あ、岩の裏にあった。
『こんな感じで、アイテムは予想外の場所に隠されていることもある。行くのが難しい場所に思わぬレアアイテムが落ちていることもあるから、エリアの探索は入念に行うといい』
「なるほどー」
レアアイテムかぁ、私はそれほど興味ないけど……ココアちゃん、生産職だしそういうのあげたら喜ぶかな?
エルダートレントの時に何度もお世話になったし、お礼も兼ねて何か探してみるのもいいかもしれない。
「よし、これでクエスト達成!」
なんて考えている間に、あっさりと一つ目の訓練クエストは達成。1000クレジット稼ぐことが出来た。
所要時間は三分あるかないか。うん、これは楽だね。ついでに経験値も貰えたみたいで、レベルが21になったし。
「さて、どんどんやっていこう」
そのまま、順調に一つずつ訓練内容を消化していく。
後半になるにつれて難易度が上がっていったけど、『弱点部位を攻撃して倒せ』とか『敵の攻撃をパリィで防げ』なんてのはいつもやってることだし、何の問題もない。
逆に、初級訓練の『魔法スキルで近づけない位置にいる敵を倒せ』みたいな訓練はすごく時間かかった。私の《マナシュート》、やっぱり弱すぎない?
「待たせてごめんね、エレイン」
「いや、私も結構苦戦したから問題ないよ」
というわけで、塵も積もればなんとやら、結構な時間をかけて訓練を全て終える頃には、当然エレインも未クリアだったものは全て終わらせていた。
なんでも、一定以上のダメージで確率発生する状態異常、《気絶》状態を発生させるクエストが難しかったらしい。エレインの職業は《盗賊》で攻撃力が低めだから、どうしても発生確率が低いんだって。
私? 《魔法撃》で頭を殴ったら一発で気絶させられたよ。レベル的にはエレインより全然低いんだけどね、私。
「それじゃあ懐も温まったところで、《投擲》スキル習得クエストだ! どんな内容なの?」
「ボールみたいなのを貰って、それを使っての的当てだよ。設定された数だけ当たればクリア。他にもいくつか習得クエストはあるけど……まあ、ベルなら暇なら習得すれば? ってくらいの重要度かな?」
訓練施設で受けられるスキル習得クエストは、全部で三つ。
一つ目は、私が習得を目指す《投擲》スキル。物を遠くまで投げられるようになったり、命中率や威力に補正が乗る。
二つ目は、《採取》スキル。採取する時は近づけば採取可能アイテムだって分かるようになるんだけど、その範囲を拡張するスキルらしい。それから、採取ポイント一つから取れるアイテムの量が増える。
三つ目は、《調合》スキル。二つ以上のアイテムを混ぜ合わせ、別のアイテムに変えるスキルだ。生産職はまず、このスキルから全てを始めるらしい。
確かに、戦闘メインの私にはあまり関係ないかな? 採取スキルは狙うのもありだけど、すぐに欲しいってわけでもないしね。
「あ、ちなみに、的当てはDEXが高い方が楽なんだけど……ベル、ステータス振ってる?」
「ううん、全然。無いとクリアできないとか?」
「あー、いや、無理ってわけじゃないよ。要するに当たればいいんだし」
ただ、難易度は上がるけど、とエレインは語る。
まあ、DEXが低いからって謎の暴投が発生しなければ、何とかなるかな?
「ちなみに、エレインはいくつくらいで達成したの?」
「私はDEX120くらいでやったかな? 確か、推奨は100以上だったと思うけど……ベルは今いくつ?」
「えーっと……38」
うん、推奨ステータスの半分以下だね。エレインもなんか微妙な表情になってるし。
でもまあ、うん、出来ないわけじゃないならやってみよう!
「それじゃあ、行って来る!」
「うん、がんばってー」
ベルならなんやかんやあっさりクリアしそうな気がするし、という謎の声援を受けつつ、いざクエスト開始。
さっきまでと同じ訓練場で、モンスターを模した色んな模型が動き回っていた。
『ほう、投擲スキルを覚えたいと? あれは俺の秘伝の一つ、そう簡単には教えられねえぜ?』
物を投げるだけのスキルが秘伝なのかー……それとも、何か変わった攻撃スキルが使えるようになったりするんだろうか? と割と失礼な感想を抱いていると、私の前に十個のボールが出現した。
『そのボールで、訓練場にいる模型モンスターを七体倒してみろ。それが出来たら教えてやる』
「なるほど、確かにエレインの言っていた通り、普通の的当てだね」
なら、普通に当てていけばいいんだし、簡単だ。
そう思って、私はボールを一つ手で掴み、手近な的に投げつける。
このゲームを始めたばかりの頃だったら、手足の長さの違いに戸惑って上手く投げられなかったかもしれないけど……エルダートレント戦のために散々特訓した今の私なら問題ない。
投げ付けたボールは狙い違わずゴブリンの模型を倒し、無事一体撃破。
『なかなかやるな!』
当てたからか、船乗りさんからお褒めの言葉が。
それに調子を良くした私は、そのまま少し離れた場所にあるゴブリン模型、歩いているゴブリン模型と立て続けに倒していく。
『筋がいいじゃないか。だが、これからはどうかな?』
次に当てやすそうな的は、前後左右、色んな方向へ走り回るゴブリン模型だった。
どうでもいいけど、ゴブリン率高くない? と思ったりはするけど、確かにこれまでに比べたら当てにくそう。動きも不規則だし。
ただ、まあ。
「これくらいなら大したことないよね」
不規則と言っても、精一杯そう見せようとしているだけで、やっぱり一定のパターンからは逃れられない。
あっさりと見切って命中させ、次の的へ。
その後は、動きの速いフォレストウルフ模型や、的の小さなキラービー模型など出てきたけど、特に問題なし。調子良く倒していき、後は一体だけ。
まだ一発も外してないし、この分なら余裕かな? と思ったけど、流石にそうは行かないらしい。
『やるじゃないか! もう教えてやってもいいくらいだが、最後にこいつを相手にして貰う!』
そう言って出てきたのは、私が山岳エリアで散々苦しめられ、死に戻りすらさせられたエアコンドルだった。しかも模型じゃなくて本物。
いや、どういうことよ!?
『驚いたか? 俺のペットなんだ。ああ、倒せって言うんじゃないぞ、当てれば文句はない』
ペット!? あれペットなの!? あの暴れ鳥を飼い慣らすなんて、この船乗りさん何者!?
『さあ、やってみせろ!』
ま、まあ、この船乗りさんが何者だったとしても、この習得クエストには関係ないか。当てればいいんだし。
そう思って、エアコンドルの動きを見据え、その移動先目掛けボールを投げる。
貰った! と確信した私の一投は、けれどエアコンドルにひらりと躱され……って、えぇ!?
「ちょっ、回避行動取るなんて聞いてないんだけど!」
文句を言ってみるも、それで何か変わるわけでもなし。
一応もう一個投げ付けてみたけど、やっぱり躱された。これじゃあ当てられない。
「ボールは残り二個……こうなったら、二個ほぼ同時に投げて、回避行動を取った瞬間を狙うしかないか」
今投げた二回、回避の仕方はほぼ同じだった。それなら、回避予想位置目掛けてあらかじめ投げておけば、回避出来ずに当てられる……かもしれない。
行動サンプルが少なすぎて賭けに近いけど、どうせ残るボールは二つしかない上、失敗しても何度でも挑戦出来る。やるだけやってみよう。
というわけで、私は二個のボールを両手に持って、それぞれ構える。
「とりゃあ!!」
まずは左手、真っ直ぐ飛んでいったボールの軌道は、間違いなくエアコンドルへの直撃コース。
でも、その一回は間違いなく回避されるだろうから、それを見越して素早く右手のボールを投げる!!
「いっけぇ!!」
一個目は、ものの見事に回避される。でも、その動きは予想通り。
回避した先に、二個目のボールがすぐさま襲いかかり……バシンッ!
見事、エアコンドルの体を捉えた!
「やった! クエストクリアー!」
『うおお!? マジかよピー助、お前が負けるなんて! やるな嬢ちゃん、お前になら、俺の秘伝を託す価値がある……!』
あのエアコンドル、ピー助って名前なんだ……船乗りさん、割と怖い感じなのにネーミングセンスは結構可愛いね。
そんなことを思いながら、私は目的通り、《投擲》スキルの習得に成功するのだった。
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