第26話 ベースキャンプ巡りとショートカット

「う~、どうしてこうなった……」


 決闘騒ぎが収まり、周りにいたプレイヤー達からドン引きされた私は、またベンチに座った状態で頭を抱えていた。

 いやうん、分かってるよ? 決闘ってログに残るみたいで、後から自分でも見返してみたんだけど、これはやばい。何この幼女、バイオレンス過ぎるんですけど? 大の大男を叩き伏せてタコ殴りにする幼女なんてどこにいるの?


 いや、ここにいるんだけども。


「やっほーベル、なんか大活躍だったみたいだね?」


「うん?」


 一人悶々としていたら、突然話しかけられた。

 顔を上げてみると、そこにいたのは一人の女性プレイヤー。

 和の雰囲気を醸す忍装束に包まれているのは、すらりと引き締まった健康美溢れる体付き。頭の後ろで纏められた髪が、手を振るのに合わせて尻尾のように揺れ動く。

 フレンドリーな笑顔が魅力的なその顔を見て、私はすぐにそれが誰かを悟った。


「あ、蘭花……じゃなかった、エレイン! 合流出来てよかったー」


 ゲームの中でも変わらない雰囲気を纏う親友に向け、私もまた笑顔で手を振り返す。

 私や雫はゲームの中で大分ガッツリ見た目を変えてるけど、蘭花とエレインはそんなに違いはないね。分かりやすくてこういう時は助かるよ。


「良かったーというか、あれだけ派手に決闘してれば誰だって気付くよ。しかもあんなえげつないフルボッコ」


「いや、フルボッコって言っても、私も結構ギリギリだったからね? HPあとちょっとしかなかったし」


「あの鬼神っぷりじゃ、説得力ないよ。むしろ、追い詰められて力を発揮する戦闘狂っぽかった」


「えぇ……」


 おかしいな、私は雫が気に入ってくれる可愛らしい幼女キャラにする予定だったのに、このままじゃただの脳筋DV幼女だよ。

 うーん、でも雫がもっていたゲームに、小さい女の子がでっかいハンマー振り回して暴れるようなものがあったし……そう考えると、守備範囲ではあるのかな?


 ……ちょっと雫の将来が心配になってきたよ。いや、どんな趣味でも私は受け止めるけどね?


「ま、まあ、そんなことより! 今日はベースキャンプのこと色々教えてくれるんだったよね? お願いね、エレイン」


「うん、任せて。いつも勉強で助けて貰ってるし、今日は私が教える側ってことで!」


 少し強引に話を逸らし、そのままエレインと連れ立って歩き出す。

 これまでは、とにかく雫に追いつくことだけを考えていたから、ベースキャンプを単なるログインポイントくらいにしか見てなかったけど……回ってみると、結構色んなお店がある。


「まず、ベースキャンプで一番お世話になるのは消耗品を買うNPCショップだよね。プレイヤーショップの方が性能が高いポーションが置いてあったりするけど、そっちは数に限りがある上に、ラインナップもころころ変わったりするから、普段使いはみんなこっちだよ」


 そんな中で最初に訪れたのは、身長よりも大きな背嚢を背負ったおばあちゃんNPCのところ。

 ショップというからにはお店を広げているのかと思ってたけど、どうやらそうじゃなかったらしい。

 前にモンスターの素材を売った時は、どこでもいいかと思ってその辺の串焼き屋台みたいなところで売ったんだよね……場所によって違ったりするのかな?

 それ以前に、買い物自体が初めてなわけだけど。


「そういえば、私ポーションって全然使わないなぁ、エルダートレントと戦った時が初めてかも?」


「いや、ポーション使わないで普段どうしてるの? 戦ってればHPとかMPとか、減っていくでしょ?」


「いやほら、放っておけば戦ってる間にも自然回復するからさ。なくてもいいかなー、なんて」


 実際、エルダートレント戦でもMPポーションとステータス増強アイテムは使ったけど、HPポーションは最後まで使わなかったしね。

 そう言うと、エレインは頭痛を堪えるように頭を押さえる。


「普通は厳しいんだけど……ベルはそれで行けちゃってるからなぁ。もしかしなくても、アイテム使用ショートカットキーも知らないでしょ」


「えっ、ショートカットなんてあるの?」


「あるよ。まあ、これも訓練施設で教わることだから、知らなくても仕方ないけど……いざという時に使えると便利だから、今の内にショートカットから素早くアイテムを使う練習はしておいた方がいいよ。この後ベルが習得しようとしてる《投擲》スキルだって、基本的には投げるアイテムをショートカット設定しておかないと使いにくいし、何なら装備品を相手に合わせてショートカットで使い分けてるプレイヤーもいるよ」


「なるほど、それは便利かも」


 そういうわけで、早速私はエレインにショートカットキーの呼び出し方や設定を教えて貰った。

 エルダートレントとの戦いでも、MPポーションが手早く取り出せたらもう少しスムーズに勝てていたかもしれないし、これは重要だ。

 五つ設定できるみたいだし……ひとまず、HPポーション、MPポーションを設定しておこうかな? 余った枠には……まあ、後で何入れるか考えよう。


「一応、少しアイテム覗いてく? 気になるのがあれば覚えておいて損はないと思うし、状態異常回復薬は最低でも持っておいた方がいいよ」


「あ、そうだね。おばあちゃん、アイテム何があるの?」


「あい、ゆっくり見て行っておくれ」


 私がおばあちゃんNPC――“行商婆”という名前だった――に話しかけると、すぐ目の前にウィンドウが現れ、販売中のアイテム一覧が表示された。

 えーとなになに……HPポーション30クレジット、MPポーション50クレジット、それに解毒薬、消臭薬……消臭薬? 何に使うんだろうこれ。


「とりあえず、状態異常に効果がありそうなのは一通り買って、と……」


 解毒薬のほかに、麻痺状態を解除する解痺薬、睡眠状態を解除する解眠薬と、混乱状態を解除する気付け薬に、呪い状態を解除する解呪薬なんてのもあったから、一通り五本ずつ購入。お値段それぞれ100クレジット、解呪薬だけ200クレジットだった。

 ついでに、何の用途に使うかは分からないけど、消臭薬も。こちら150クレジット。


「ああ、それね、山岳エリアの奥にある火山エリアで使うアイテムだよ。硫黄の匂いが凄くて、長時間いると消耗品が使えなくなっていくから、それを使って予防するの」


「なるほど」


 そういう意味では、今はあまり役に立たないアイテムだったかな? まあ、お金はまだあるし、いいか。


「……っとと、またインベントリがいっぱいになってたよ。アイテム売らなきゃ。おばあちゃん、これでいくら?」


「どれどれ……んー、5946クレジットだね」


 余っているアイテムを範囲選択してウィンドウの売却一覧に乗せると、おばあちゃんからそんな返答が。

 消耗品の購入代金は3750クレジットだったから、ざっくり2200クレジット黒字か。うーん、微妙。


「へー、ドロップアイテムだけで6000クレジット近くなんて、随分溜め込んだね。まだベースキャンプ近くしか回ってないのに」


「結構乱獲したから。……ていうか、これ多いの? ココアちゃんは何万クレジットもするようなものをポンポン買ってたし、プレゼントまでしてくれたんだけど」


「ココアって、ティアのフレンドだっていう初心者の生産職だっけ? 生産職はまあ、確かに戦闘職より儲かると言えば儲かるけど……そこに至るまでが長いから、序盤はむしろ全然儲からないはずなんだけど。良くてベルと同じくらいだと思うよ?」


「えっ、そうなの?」


 思わぬ情報に、私は目を丸くする。

 だとすると、ココアちゃん、私の装備作るのに結構無理してた? だとしたら悪いなぁ、何かお返し出来ればいいんだけど。


「うーん……ティアのフレンドっていうくらいだし、実は誰か有名どころのサブアカ……? でも、ティアはあまりフレンドいないはずだし……まあいいか。それよりベル、お金稼ぎに関しては、モンスターの乱獲よりクエスト達成した方が早いよ。せっかくだから、これから行く訓練施設のクエスト、一通りやる? すぐ終わる割には結構貰えるよ」


「そうなんだ? じゃあ、やってみる!」


 目的は《投擲》スキルだけど、クレジットはいくらあったって困ることはない。お金は大事だ。

 そんなことを話しながら、私はエレインの先導で訓練施設目指して歩き出した。

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