第23話 対空戦闘と獣使い?

 飛行型モンスター、と言われて真っ先に思い付いたのは、森林エリアに出没するキラービー。空を飛ぶ蜂型のモンスターだった。

 でも雫曰く、あれはFFOプレイヤーの間では飛行型モンスターの分類に入らないらしい。

 飛行型モンスターとそれ以外とを分ける最大の違いは、空を飛ぶこと。そして、


「とりゃあああ!!」


「キュオオ!」


「あ、ちょっ、それ以上上に行かれると届かな……あああーー!?」


 近接武器が物理的に届かない高空まで逃げるような挙動を見せるかどうかだ。


「あいててて、もう、厄介だなぁ」


 思い切りジャンプして盛大に空振った私を嘲笑うように高度を上げた飛行型モンスター……エアコンドルを見上げながら、ぐぬぬと歯を食い縛る。


 FFOにログインした私は、現在唯一気軽に戦いに行ける飛行型モンスターが出没するという、山岳エリアへやって来た。フィールドボスのジャイアントロックゴーレムを倒したことで解禁されたエリアだね。


 ボスを倒したお陰で、ベースキャンプから手軽に移動出来るようになったけど、今日はこのエアコンドルのせいで遅々として攻略が進まない。

 空から襲ってくる攻撃は素早いし、こっちから狙おうにもすぐ上空へ逃げられるんじゃ反撃出来ないんだよね。


 一応、攻撃の瞬間に反撃するっていう手段がないこともないんだけど……一撃一撃の間隔が長くて、制限時間のある《魔法撃》が思うように効果を上げられない。《マナブレイカー》に至っては対ボス用の超長いCTだし。


 結果、不毛な削り合いがどうしても増えて、基本的に打たれ弱い私はかなりの不利を被ることになっていた。


「こ、のぉ!」


「キュオ!?」


 向かってくるエアコンドルの一体を、《パリィング》で迎撃。落下はせず、少し高いところまで仰け反ったその個体目掛け、私は再度ジャンプする。


「てりゃぁぁぁぁ!!」


「キュオオ!?」


 気合い一閃、叩き付けたアクアスノウの一撃が、エアコンドルのHPをゴソッと削り落とす。

 一気にダメージを受けて失速、墜落していく姿を見て、私は思わず笑みを浮かべた。


「チャンス! 貰った!」


 一度地面に引きずり落としちゃえば、こっちのもの!

 そう思った瞬間、飛び上がった私に気付いたのか、別のエアコンドルがこっちに向かって突っ込んできた。


 ちょっ、流石に空中でいきなり対応するのは無理ぃ!


「キュオオ!!」


「きゃあ!?」


 最低限、盾代わりに構えた杖にエアコンドルの嘴がぶち当たり、思いっきり弾き飛ばされて地面を転がる。HPがガクッと減って、あっさりと残り半分以下に。


「うぐぐ、やったな~……!」


 対峙する二体のエアコンドルを睨みつつ、大慌てでポーションを使用し、HPを回復。

 相手がそんなに攻撃力の高いモンスターじゃないからどうにかなっているものの、これじゃあ本当にジリ貧だよ。


「どうしよっかな……よし、いっそゴーレム相手にやったアレで行ってみよう!」


 そこで思い付いたのは、荒野エリアで多数のゴーレムを相手取った時によくやっていた手法。モンスターの体を足場に連続跳躍しながら、本来なら届かないところにある弱点を攻撃していく……通称、八艘跳びだ(今決めた)。


 空を飛ぶモンスター相手に同じように出来るかは分からないけど、今の私に思い付くのはそれくらいだし、やってみよう!


「さあ、鳥さんかもーん! いつでもかかってきなさーい!」


 まずは一体、足が届く位置まで降りてきてくれないと話にならないので、適当に挑発してみる。

 効果があるかは知らないけど、どうせ待ってる間は暇だしね。仮に無意味でも、精神衛生上こっちの方がいい。


「キュオオ!!」


 すると、私の挑発の効果……ではないと思うけど、一体のエアコンドルが再び私を狙って急降下してきた。

 一度はやったことだし、一対一なら失敗はしない。タイミングを合わせて杖を振るい、エアコンドルの嘴を弾き返す。


「キュオ!?」


「今だ! はい、ちょっと背中失礼しちゃうよ!」


 程よい高さになったところで、背中側に回り込んでエアコンドルに飛び乗ってみると、案外あっさりと成功した。

 でも、そこからが難しい。


「うわっ、わっ!?」


 ゴーレムと違って素早く、バッサバッサと翼をはためかせながら舞い上がろうとするエアコンドルの背中は、控えめに言っても乗り心地最悪、一瞬の足場として利用するにも不安定だった。

 ココアちゃんからは、「ゴーレムの上で走り回れるのも大概おかしい」みたいなことを言われたけど、そんな私でもエアコンドルは無理かもしれない。


 大きな鳥の背中に乗って空の旅って、ファンタジーの定番な気がするんだけどなー。流石に、専用のスキルを取ったわけでもない私じゃ出来ないか。


「キュオオ!!」


「あ、やばっ!」


 そんなこんなで、背中の上でバランスを取るのに必死になっていると、もう一体のエアコンドルが私目掛け突っ込んできた。

 まずい、今の足場じゃ踏ん張りが効かないから躱せないし、正面ならまだしも後ろに向かって《パリィング》が発生するほどの勢いで杖を振る余裕もない!


「えーっと、えーっと……! あ、そうだ!!」


 そこで私は新たな閃きを得て、アクアスノウを迫り来るもう一体ではなく、今私が乗っかっている個体の翼目掛け叩き付ける。

 魔法撃もない一撃は大したダメージにはならないけど、上昇を続けていたエアコンドルを怯ませる効果くらいはあったらしい。かくんと高度を下げ、結果としてもう一体からの攻撃を回避することに成功した。


「やった! よーし、これなら対抗出来る!」


 このゲームに獣使いみたいな職業があるかは知らないけど、気分はまさにそれ。

 殴って高度調整して、上手く合わされば反撃だ!


 ……あれ、これ獣使いとしては最悪では?

 ま、まあ、私勝手に乗ってるだけだしね! このエアコンドルも敵なんだから、多少扱いが悪くても問題なし!


「とりゃあああ!!」


「キュアア!?」


 というわけで、二度目の突撃をかましてきたエアコンドルに渾身の一撃をかまし、今度こそ確実にトドメを刺す。


 よし、やった! 後は今乗ってる一体を仕留めるだけ……!


「キュオオ!」


「って、うわぁ!?」


 そう考えていたら、いい加減私を乗せたまま高度を上げるのに飽きたのか、そのまま急降下し始めた。

 全力で振り回され、危うく落っこちそうになりながらもどうにかしがみついた私は、辛うじて落下死を免れてほっと一息。


 ……吐く暇もなく、落下の勢いで再び上昇していくエアコンドルの向かう先には、また別のエアコンドルの姿が。


「ちょ、ここでおかわりは聞いてないよ!?」


「キュオオ!!」


「ちょっ、やめ、来ないでー!?」


 地面より遥か上空で、再びエアコンドルに襲われる。しかも、今度は無理矢理しがみついているエアコンドルが全速飛行中。

 いやうん、これはもう。


「無理ぃぃぃぃ!!」


 思わず涙目になりながら、迫るエアコンドルをただ見つめ続け。

 直撃した嘴の一撃で、私のHPは綺麗に消し飛ぶのだった。

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