撲殺魔女と対空戦闘

第22話 新たな進展とアプデ情報

「雫ーー!! 今日こそ一緒に遊ぼーー!!」


 エルダートレントの討伐、それも三分以内という目標を達成した私は、翌朝すぐに雫のいる部屋にそう叫んだ。

 OKしてくれるのか、はたまたいつもみたいに「うるさい」とか言われてしまうのか。

 ドキドキしながら審判の時を待っていると、キィ、と扉が開いて……えっ。


「……朝からうるさい。そのことについて話があるから、中入って」


 更には、自分から部屋に入るように促してきた。

 ちょっ、えっ? えぇ!?


「急にどうしたの雫!? まさか私を部屋にあげてくれるなんて、熱でもあるの!? 昨日の晩ご飯で何か食あたりでも起こした!? はっ、なんかすごい隈が出来てる、もしかして昨夜寝てないんじゃ!? ダメだよ雫、ちゃんと寝なきゃ! 取り敢えずお姉ちゃんが寝かしつけてあげるから部屋入ろうか!!」


「ちょっ、少し夜更かしし過ぎただけだから、騒ぐなばか姉! 後、驚くくらいなら押し入ろうとするな!」


 朝からぎゃいぎゃいと騒ぎながら、なんだかんだで本当に部屋にあげてくれる雫。

 無理矢理突入したことは何度かあるけど、毎回一歩踏み込んですぐ枕の迎撃を受けてるから、ここまで足を踏み入れるのは本当に久しぶりだ。


「うぅ……私、やっと雫の部屋に入れた……これが雫の部屋の匂い……はあはあ……」


「やめんかばか姉!」


「あいたぁ!?」


 雫にひっぱたかれて涙目になりつつ、足元に散らばるゲームや本を軽く片付けてると、「それはいいから」とベッドに着席を促された。

 言われるがまま座ると、雫も同じように隣に腰掛け、枕元に置いてあったノートPCを起動して膝の上でポチポチと。


 ……ねえ雫、もしかして普段、寝転がりながらパソコン弄ってるとかじゃないよね? VRギアはそういうものだから別にしても、パソコンは机があるんだからちゃんとそこでやろうね?

 その机の上が何かのアニメフィギュアで埋め尽くされてて、パソコン置く場所無さそうに見えるけどさ。


「お姉ちゃんのPSプレイヤースキルが化け物染みてるのは、動画を見るだけでもよく分かった」


 普段見たくても断片的にしか見れなかった雫の私生活について、少し心配になっていると、当の雫はパソコンを弄りながらそんなことを言い出した。


 いや、化け物じゃないよ? お姉ちゃんはお姉ちゃんですよ?

 そう言ってみたけど、しれっとスルーされた。解せぬ。


「だからまぁ……約束だし、一緒に遊んであげてもいい」


「ほんと!? ありがとう雫ぅ!!」


「最後まで聞けばか姉」


「のほげ!?」


 抱き着こうと思ったら、思いっきり足蹴にされて止められた。痛い。


 ていうか雫、今更だけど、いくら部屋の中だからってそのパジャマはちょっと薄すぎない? 夏が近いって言っても、それはさすがに無防備過ぎると思うな! 少し動いただけで下着見えちゃってるし!

 っていうか、その下着もなんか薄……!?


 なんて思っていたら、私の視線で自分の状態に気付いたのか、雫が顔を真っ赤にして足を引っ込め、バババッと見たこともないくらい素早く身なりを整え始めた。可愛い。


「と、とにかく! 一緒に遊んであげるのはいいけど……今すぐはダメ」


「ええ!? どうして!? もしかして、今雫のパンツ見ちゃったの怒ってるの!? 大丈夫だよ、確かに雫にはちょっと早いんじゃないかなーって感じだったけど、他人に見せないならお姉ちゃん何も言わないから!!」


「み、見せる相手なんているわけないでしょ、ばかっ!!」


「ぎゃふん!?」


 げしげしと再び踏みつけられ、私は強制的に黙らされる。

 うぅ、見せる相手がいないなら、なんでそんな大胆な下着履いてるの……お姉ちゃん気になる……


「はあ、もう、ばか姉のせいで全然話が進まない……ほら、これ見て」


「うんー?」


 説明するのが面倒になったのか、雫はノートPCの画面を私に見せ付ける。

 パッと見た感じ、FFOの公式サイトみたいだけど、これがどうしたんだろう?


「ほらここ、アップデートの予定ってあるでしょ」


「うん? あ、ほんとだ、えーっと、新エリア解放って書いてあるね」


 雫が指差した場所には、『運営からのお知らせ』というタイトルで、新しく解放されるエリアについて書いてあった。

 ベースキャンプから飛行船便とやらに乗って行けるようで、既存のプレイヤーから新規まで、幅広く楽しめるようなエリアを目指して開発中となっている。


「お姉ちゃんは強いけど、私とのレベル差が開いてることに変わりはないでしょ? 既存エリアを一緒に遊んでもいいけど、せっかくだから、来月オープンのこのエリアを二人で攻略しよう。それまで、お姉ちゃんは適当にレベル上げて私との差を埋めておいて」


 その方が楽しそうだし、と語る雫に、私の涙腺はあっさりと崩壊し、ぶわっ、と溢れだした。


「うわっ、お姉ちゃん、なんで泣くの……」


「だ、だってぇ、雫が、私と一緒に遊ぶこと、こんなしっかり考えてくれてたなんて思わなくて……私、嬉しい……!」


 雫の言う通り、私としては既存のエリアを一緒に回るだけでも良かったけど、それだけで終わらないように、同じ目線で楽しめるように、雫なりに考えて、計画を立ててくれてたんだ。

 お姉ちゃんとして、こんなに嬉しいことはないよ……!!


「全く、お姉ちゃんはいちいち大げさなんだから……でもその、ごめん。私も、これからはその……お姉ちゃんにできるだけ迷惑かけないように、がんばるから……」


「雫……」


 そっか、雫が急に部屋に入れてくれたから驚いたけど……これも、雫なりの頑張りだったんだ。

 ネットの中で人知れず大きく育った雫が、今度はこっちの世界でも大切な一歩を踏み出そうとしてる。

 そう思うと、いつも以上に目の前にいる妹が愛しく感じた。


「ゆっくりでいいよ。私は雫が元気に過ごせるなら、それだけで十分なんだから」


「お姉ちゃん……」


 そっと小さな体を抱き締めると、今度は抵抗されなかった。

 細くて柔らかくて、簡単に砕けそうなその体を優しく労っていると、耳元でくすりと笑う声が聞こえる。


「それじゃあ、私がこの家を出ていくって言ったら?」


「それだけはダメ絶対ダメ死んでも阻止する」


「私より、お姉ちゃんの将来の方が心配になってきたよ」


 はっ、思わず本音が。

 そう愕然とする私の顔を見て、雫がくすりと笑みを溢す。


「……大丈夫、私だってこの家から出る気なんてないから。だから、お姉ちゃんもあまり無理しないで。私と遊ぶためだからって、徹夜でレベル上げなんてしたらダメだよ?」


「徹夜したばっかりの雫に言われたくないなぁ。ふふっ、でもそうだね、せっかく雫と遊ぶ約束したのに、アップデートの日に体壊して寝込んでたら本末転倒だもんね。ほどほどに頑張ることにする。ありがと」


 ふふっ、と同じように笑みを返しながら……実のところ。

 今だかつてないくらい至近距離で雫の笑顔を目の当たりにして、私の理性は決壊寸前だった。


 もうなにこれ、うちの妹可愛すぎるんですけど。食べていい? もう食べていいかな?


「ああ、それからお姉ちゃん。いい忘れてたけど」


 と、私の内なる獣が騒ぎ立てる声を聞いたからかどうかは知らないけど、雫がするりと私の腕から脱出していく。


 ああ、雫の温もりがぁ……。

 およよ、と悲しむ私に、けれど雫は更なる追い討ちをかけるように、何気なく言った。


「次の新エリア、飛行型モンスターいっぱいで、対策しとかないと完封されるから……その辺り、考えといた方がいいよ」


「……へ?」

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