第15話 特訓と必殺技
「さあ、今日は特訓だ!」
追試のために学校に残ることになった蘭花を置き去りに(別れ際めっちゃ泣いてた)、私は家に帰ってFFOへとログインした。
親友を見捨てるのかー! なんて言われたけど、まあ追試になったのは自業自得だし、仕方ないよね。
そんなことより、エルダートレント討伐に向けて頑張らないと。
「まずは、あのやたら手数の多い攻撃をどうやり過ごして懐に飛び込むかだよねー」
ボストレントの足元に並ぶ根の動きに連動して、足元から根が飛び出したり、飛び出した後も鞭みたいにしなって攻撃してきたりする。それは分かった。
でも、飛んで来るリンゴや、接近した時に振るわれる枝の一撃。そういうのが合わさってくると、反応しきれないんだよね。
「んー、取り敢えず、もう少しこのアバターに馴染むところから始めようかな」
ぐるぐると小さな腕を振り回しながら、私は呟く。
ゴブリンとかゴーレムとか、普通の雑魚モンスターを相手にする時はそんなに気にならなかったけど、余裕がなくなると現実との体格差から来る間合いのギャップが気になるんだよね。
ぶっちゃけ慣れの問題だと思うから、まずはそこから練習しよう。
今日はココアちゃんも用事があるみたいだし、どうせボストレントを倒すまではレベル上限に引っ掛かるから、死に戻っても問題なし。大分無茶やれるね。
「《マナシュート》!!」
というわけで、やって来ました森林エリア。
動きの素早いモンスターが多いこの場所を全力で駆け抜けながら、私は目についたモンスターに魔法を当てまくる。
私に気付いたモンスターが次々と追い掛けて来るけど、一旦無視して次のモンスターへ。
続々と後ろに連なっていくモンスターが、私に攻撃を仕掛けてくる。
まあ、私のAGIじゃ逃げに徹したところで振りきれないから当然なんだけど、それをひょいひょいと躱しながら、そのままモンスターを集めていく。
時々出くわす他のプレイヤーに「どうもー」なんて挨拶しつつ、巻き込まない距離感を保って進むことしばし。十体ほど集まったところで、ひらりと踵を返して待ち構える。
「さて、そろそろやるよ!」
このモンスター達が、ボストレントの繰り出す根の代わりだと思って訓練だ。
右手にアクアスノウ、左手に木の杖という昨日と同じスタイルで、押し寄せるモンスターの群れに立ち向かう。
「うりゃああああ!! 《魔法撃》!!」
真っ先に突っ込んで来たキラービーを叩き潰し、続けて飛び込んできたフォレストウルフの噛み付きを躱す。
ゴブリンの棍棒が正面から振り下ろされるのを横に躱し、突っ込んできたキラービーの針を転がって避ける。
すると、昨日は見なかった普通のトレントが、私の足元から根を突き出して来た。
地面との接触面積が大きかったから気付けたけど、危うく即行でやられるところだった、危ない危ない。
でも、こんなんじゃダメだ。躱してばっかりで攻撃が出来てない。
動画の中で、雫はただ躱すだけじゃなく、一手も二手も先を見据え、動きの全てを次の攻撃へ繋ぐ布石にしていた。
攻撃パターンをただ暗記して、予備動作から反応してたんじゃ遅い。覚えたものを吸収して、応用しろ。
間合い、直前の行動、攻撃の繋ぎ、射線……もっと早い段階から次の動きを予想して、どんどん最適化を図るんだ。
私の動きさえパターン化して、条件反射で考えるより先に仕留められるくらいに。
「ゴブリンが動きながら攻撃する時は唐竹割り一択、キラービーは突撃から次の突撃まで最短五秒は間が空く、フォレストウルフは……」
声に出して確認しながら、その通りに飛んで来る攻撃を躱していく。
ゴブリンがぐっと力を溜めた瞬間に一歩踏み込んで杖を叩き込み、続けて飛んできたキラービーの攻撃を身を捻って躱したらそのまま無視、飛びかかってくるフォレストウルフに対処する。
モンスターをチラリと見た時点で先の行動を予想して、それに合わせて事前に行動を決めて回避していくと、次第に反撃する余裕も生まれてきた。
「ガルゥ!!」
「わわっ!?」
とはいえ、ちゃんと見てるわけじゃないから、勘違いから対処を間違うこともある。慌てて距離を置いて、大きく息を吐いて仕切り直しだ。
「さあ、もういっちょ!!」
効果があった行動を反復して体に染み込ませ、より効率の良い動きを模索して頭を回す。
自分の間合いと速さを掌握して、どこまでなら回避出来るか、どこまでなら無茶をしても被弾しないか、パリィが発動する《通常攻撃》と認識されるにはどれくらいの速度で振る必要があるのか、全部体当たりで実践して頭と体両方で覚えていく。
向かってくるモンスターの攻撃を紙一重で躱し、迎撃しながら、弱点部位めがけて杖で殴る、殴る、殴る。
そうやって、被弾も恐れず、限界まで暴れまくって……
「ぬぎゃー! 死んだ!!」
はい、途中で力尽きました。
やっぱり、あんまり無茶すると魔術師は打たれ弱いね、うん。
「でも、まだまだー!!」
それでも、雫は同じ条件であれだけ隙だらけの攻撃を連発出来たんだ。相手が違うとはいえ、攻撃の密度は似たようなものだったし、単に私がまだ下手なだけだろう。
後は、私の方が間合いが近いっていう問題はあるよね……雫の動きをそのまま模倣は出来ないし、もう少し何か手が欲しい。
「んー……よし、今度は《マナブレイカー》試してみよう」
そこで思い出したのは、《パリィング》と同じくボスゴーレムとの戦闘で習得した、《魔術師》専用の物理攻撃スキル。
中々デメリットが多くて使ってなかったけど、もしかしたら私が思ってるより有用かもしれないし、まずは使って見ないとね。
「いっくよーーーー!!」
というわけで、再度実践。モンスターの群れを誘引し、人のいないところで対峙する。
普通に負けた最初の戦いと打って変わって、今回は《マナブレイカー》を使うため、ひたすらアクアスノウを腰だめに構えて回避し続ける戦いになった。
スキルの効果で削れていくMPゲージに比例して、杖の先端がどんどん強く光り輝いていくのがどことなく期待を煽る。
けど、回避するばっかりなら余裕かとも思ったけど、程よく反撃して数を減らせないっていうのもこれはこれでキツいね。
こうなってくると、ボストレント戦でも根をどうにか素早く破壊する手段を考えるか、回避ばかりで掻い潜る術を考えるか。悩みどころ。
でも、取り敢えずは目の前の敵だ。
「てやぁぁぁぁ!! 《魔法撃》、《マナブレイカー》ぁぁぁぁ!!」
私のMPを食い付くし、アクアスノウの放つ輝きが臨界に達したところで、スキルの名前を叫びながら全力で振り回す。
普通に振り回すのと違って、システム的な行動アシストみたいなのがあるのか、勝手に体が動いていく感覚には驚いたけど、横に薙ぎ払われた一撃だけで近くにいたモンスターが数体纏めて吹き飛ぶ。
そして、勢いそのままに頭上へと振り上げ――一気に振り下ろした。
轟音が世界を揺らし、光が衝撃となって吹き荒れる。
予想とは裏腹に、《マナブレイカー》は二段階攻撃だったらしい。込めたMPは300くらいだったから、威力四倍×2で八倍ダメージだ。
しかも、衝撃波によって見た目以上に攻撃範囲が広くて、周囲にいたモンスター全てが吹き飛び、十体近くいたモンスターが一発で半分以下に。残ってるのは、距離が離れていたキラービーとトレントくらいだ。
「うっわー、すごい……」
まだ敵は残ってるんだから、呆けてる場合じゃないんだけど、それでもそう呟かざるを得なかった。
うん、このスキルすごいね。これを上手く使いこなせれば、三分以内討伐もいけるかもしれない。
「……あ、でもCTが六十秒もあるのか。長いなぁ……」
ただでさえ最大威力を発揮するのに時間がかかるのに、そこから再使用可能になるまでがまた長い。
三分って時間を考えると……使えてもギリギリ二発かな。
「まあいいや、とにかく」
ブン! と振り抜いた杖の一撃で、飛んで来たキラービーを打ち倒す。
残る半分ほどのモンスター達を見据えながら、私は笑みを溢した。
「このまま仕上げて、ボストレントに挑まないとね」
ここまで来たら、後は私がどこまでやれるのか次第だ。
雫に認めて貰うために、もうひと踏ん張りだ!
そう自分を叱咤しながら、私はモンスター達へ向けて突っ込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます