第13話 森林エリアとエルダートレント
「さて、今日も張り切っていこー!」
学校から帰った私は、早速FFOにログインした。
今日の目標は、雫からの課題である森林エリアの攻略。そして、出来ればフィールドボスがどんなモンスターなのか、軽く情報を探ることだ。
「よろしくね、ココアちゃん」
「私は私で目的があるだけだから、気にしないで」
そんな私の隣には、雫のフレンドであるココアちゃんもいる。
まるで私を待ち構えていたかのように、私がログインしたまさに目の前に立っていたココアちゃんと、今日もパーティを組むことになったのだ。
こんなに可愛いんだし、誘えば私より上手い人が手伝ってくれそうなものだけど……雫と同じで、あんまり積極的に他人と関われない子なのかな?
だとしたら、これだけ私に付き合ってくれてるのは嬉しいね。
「そっか、何か手伝えることがあったら、何でも言ってね。私、頑張るから!」
「ありがと。でも大丈夫、ベルはベルのやりたいようにやって」
協力を申し出てみたものの、すげなく断られちゃった。
うーん、遠慮してるって感じでもないし、本当に手伝えることはなさそうだ。残念。
「分かった、何かあった時は言ってね」
「うん」
「それじゃあ、森に向けて出発!」
そんなやり取りを挟みつつ、向かった先はベースキャンプの西側、森林エリア。
実は荒野エリアよりもモンスターが弱くて、初心者装備を脱却するまではここで戦うのが基本だったらしい。私のイメージした本来の“ゴブリン”も、このエリアで出るんだとか。通称森ゴブリン。
まあ、荒野で上手く行ったからいいよね!
「って、結構キツくない!?」
そう思って、まあぶっちゃけ油断してたんだけど、森林エリアは予想していたよりも厳しかった。
いや、緑のゴブリンは別に大したことなかったんだよ。特にスキルとか使わなくてもワンパンだし、動きそのものは荒野のサンドゴブリンと同じだったから、《パリィング》を習得した今の私からすれば、何体群がって来ようが敵じゃない。私が敵を倒して、ココアちゃんが採取に精を出す余裕もあった。
でも、その先で現れた“フォレストウルフ”と“キラービー”っていう二種類のモンスターがすんごい厳しい。
確かに、ゴーレムに比べれば打たれ弱いし、攻撃力も低いけど、とにかく素早いし数がいる。
私ってATK特化で大振りの一撃が多いから、こういうのはちょっと厳しいんだよね。
更に言うと、人型じゃないっていうのが地味に厄介。
ゴブリンにしろゴーレムにしろ、人の形を取っていれば、初見だろうと予備動作から何となくどんな攻撃が来るか予想出来るんだけど……流石に、狼と蜂の動き方まで把握してないよ。避けにくくて仕方ない!!
「《エスケープオーラ》!! ベル、焦らずに一体ずつ処理して、少しずつ減ってくから」
「うぐ、分かった!」
ココアちゃんにAGIを引き上げて貰いながら、言われた通り一体一体処理していく。
飛び掛かって来たフォレストウルフの攻撃をパリィで弾き、再度攻撃。続けて飛んで来たキラービーの針を大きく後ろに跳ぶことで回避して、体勢を立て直しつつ次の攻撃を待つ。
ジリジリと後退しながらの各個撃破。今のところ普通に持ちこたえられてるし、問題ないと言えばないんだけど……うーん、もう少し上手くやれないものかな?
「せめて杖以外でもパリィが出来たら楽なんだけど……!!」
パリィ自体、本来ならスキルの効果が乗った武器で相手の物理攻撃を迎撃することで発動するシステムだ。それを、新しく習得した《パリィング》の効果で普通に振っても発動するようになったとはいえ、流石に手足で直接攻撃しても意味がない。
せめて、もう一つ手があれば……と思った時、ふと思いついた。
「そうだ、別に手に持つ武器が一つじゃなきゃダメなんて決まりはないよね」
早速試してみようと、私はメニュー画面からインベントリを開き、素早く目的のアイテムをタップ、目の前に出現させる。
「ベル、危ない!」
その一瞬の間に、フォレストウルフが一体、キラービーが二体、それぞれ別方向から攻めて来た。
でも、大丈夫。私はココアちゃんの警告を背中に受けながら、目の前のそれ――昨日の朝まで使っていた《木の杖》を握りしめる。
「うりゃああああ!!」
右手に《大棍杖アクアスノウ》、左手に《木の杖》を持ちながら、両手でそれぞれの杖をぶん回す。
あくまで“攻撃”による相殺じゃないとパリィは発生しないから、襲って来るモンスター達の順番を見極めつつ、体全体をコマのように回転させて左、右、左と勢いを乗せた一撃を叩き込んでいく。
「グギャウ!?」
「「ブブブ!?」」
狙い通り、杖を二本持っていても、ちゃんと“武器”でさえあればどっちもパリィが発生するらしい。
これなら、いける!!
「《魔法撃》ぃ!!」
私の基本技を発動し、流れるように右のアクアスノウを手近なフォレストウルフへ。
一撃で叩き潰され、ポリゴン片となって霧散するモンスターを見送る暇もなく、ぐるりと体ごと回転しながら木の杖をキラービーへ。
「ブブッ!?」
でも、キラービーが一撃で倒せず、ギリギリのところで持ちこたえたのを見て、少し驚いた。
当たり所の問題もあるだろうけど……なるほど、《魔法撃》を使っても、アクアスノウのINT補正はアクアスノウにしか乗らないのか。だから、左右の杖で威力が変わると。
それなら、基本は木の杖で防御、アクアスノウで攻撃って感じで攻めれば……!!
「《プロテクションギフト》!!」
と、新たな発見に浮かれている私をココアちゃんの魔法が包み込み、突っ込んで来たもう一体のキラービーが弾き返されていた。
おっといけない、見落としてたよ。
「ベル、実験するならもっと余裕がある時に!」
「ごめん、ありがとね! でも、お陰でコツは掴めたから……一気に行くよ!」
こうなればもう、やりたい放題だ。
正面から突っ込み、襲って来るモンスターの攻撃を片っ端から迎撃、隙を見せたところにアクアスノウを叩き込んでいく。
そんな私を見て、ココアちゃんが「やばすぎないこれ……」とか呟いてるのが聞こえたけど、このやり方、何かデメリットあるのかな? 今のところ、特にダメージも受けてないけど。
まあ、本当に拙かったら何か言ってくれるはず! というわけで、このまま突き進もう!!
なんて考えで、モンスターを片っ端から殴り倒しつつ、サポートの必要が減ったココアちゃんが時折採取のために足を止めるのを守ったりして、森林エリアを攻略していく。
採取ついでに、そのアイテムの簡単な用途なんかも習ったけど……回復ポーションの素材になる《薬草》なんかはともかく、火をつけると爆発する《バクハソウ》って物騒過ぎない? 流石ファンタジー。
なんか、それを素材にして有用なアイテムが作れるらしいけど、後のお楽しみだってはぐらかされちゃった。残念。
とまぁ、そんな感じで先に進むことしばし。私達はついに、フィールドボスの元まで辿り着いた。
「さて、ここまでは辿り着いたけど……どんなボスが待ってるのかなぁ」
ボスゴーレムと戦った時と同じ、ぽっかりと開けた空間を前にして、私は思考の海に沈みこむ。
森に関係するモンスターだとは思うけど……うーん、まあ見てみないと分かんないか!
「ベルは今、何レベルだっけ?」
「え? ああ、19だよ。それがどうしたの?」
「ここのボスは、レベル20以下でしか戦闘出来ないから、もし最高記録(レコード)を狙ってるなら注意してね」
「なるほど」
とりあえずぶつかってみようかと足を踏み出しかけた私に、ココアちゃんがそうアドバイスをくれる。なんでも、レベル20になった時点で上限解放クエストが発生して、ここのフィールドボスの討伐と同時に次のレベルへ上がってしまうらしい。
うーん、そういうことなら、ここのフィールドボスを倒せるのは良くて後二回か。
「じゃあ、今回の一回で攻略の糸口を掴まないとだね。ココアちゃん、協力してくれる?」
「いいよ。私もどうせ倒さなきゃならない相手だから」
二人で頷き合い、最後の一歩を踏み出す。
途端に、視界に走る一瞬のノイズ。これはエリアが切り替わり、ボス戦闘専用の個別エリアとして隔離される時の感覚らしい。
そして次の瞬間、地面が割れた。
突然の地割れに驚く間もなく、その中心から現れたのは巨大な樹。
幹がパックリと割れて凶悪そうな三日月の目と口が現れ、ひび割れた地面から無数の蔓のようなものが這い出て来る。
エルダートレント――その名前が頭上に表示されると同時、樹が発するとは思えない重々しい咆哮が響き渡った。
「来るよ!」
「え?」
戦闘開始と同時に響く、ココアちゃんの警告。でも、ボストレントはその場から動いてない。
どういうことかと思いつつ、ひとまず距離を取ってみると、足元から根が一本飛び出して来た。
「地面からの攻撃!? これじゃ防げない……!」
この森林エリアでは、常にパリィを連打して優位を形作って来たけれど、ここに来てそれが通じない攻撃が来た。
まあ、ボスゴーレムだってその手の攻撃は持ってたしね。気にしても仕方ないか。
「ベル、その根はあのトレントの一部。攻撃すればダメージは通るし、部位破壊も出来る。トレント本体と違って通るダメージは少ないし、これに限らず特殊攻撃ばっかりだからパリィは無理だけど」
「なるほど、つまり最短を目指すなら、根を全部躱して本体を殴ればいいわけね!」
「まあ、そういうこと。……出来るかはともかく」
ボソリと酷いこと言われちゃった。でもまあ、分からなくはない。
根を殴って地道に削っていくなら、外側からちょっとずつやっていけば……時間はかかるけど確実に勝てる。
でも、トレント本体を殴ろうと突っ込めば、大量の根全てを一度に相手しなきゃならない。こうなると、防御も素早さも足りない私がやるにはキツそうだ。
「それでも、やってみせる!!」
木の杖を仕舞い、アクアスノウ一本を構え直すと、私は地面を蹴って走り出す。
それに合わせて、地面から次々と根が襲い掛かって来るけど……注意すれば、飛び出る寸前に地面が小さく揺れてるのが分かる。
全力で走ってると気付きにくいし、早歩きくらいの方がいい? いや、もっと他に判断基準は……。
「《ディフェンシブオーラ》!!」
足元に注意を向けていると、ココアちゃんの鋭い声が響く。
顔を上げれば、目の前には赤い球体……リンゴが迫っていた。
えっ、リンゴ?
「むぎゃ!?」
どうやら、トレントが枝を振って実っていたリンゴを飛ばしてきたらしい。それに弾き飛ばされ、私のHPがガクンと減少する。
うわあ、ココアちゃんのサポートが無ければ今ので即死してたよ、危なかった。
ていうかこのトレント、リンゴの木なんだね。どうでもいいけど。
「ベル、情報収集するなら無理に突っ込むよりも、時間をかけて行動パターンを引き出した方がいい」
「わ、分かった!!」
ココアちゃんのアドバイスを聞きながら、ひとまず出来るだけ擦り足でトレントに接近する。
我ながらシュールな絵面だけど、確実を期するならこれしかない。
地面から飛び出る根をギリギリのところで回避していると、再び降り注ぐリンゴのシャワー。
さっきはちゃんと見てなかったけど、飛んでくる量が随分多い。そこまで早くないのが救いだけど、躱してると根の動きが掴みにくいし……結構難しい!!
「よっ、とっ、ふっ……!! んー、何か手は……」
リンゴ飛ばしは、枝を大きく振る動作があるから分かりやすいんだけど、地面から飛んでくる根の動作が分かりにくい。
地面の揺れ以外に、何か予兆は……。
そう思って見ていると、根が飛び出す少し前、トレントの足元に生えた根がぴくりと動いていることに気が付いた。
更に観察を続けると、どうも攻撃してくる根の本数と、トレントの周りに伸びる根の本数が一致するっぽい。それぞれ連動してるのかな?
だとしたら、あれを参考に回避すれば、このまま突っ切っても避けられるかもしれない!
「とりゃああああ!!」
トレントに注視して、根が動くのに合わせて大きく跳ぶと、直後に根が飛び出して来た。
よし、完璧!
「ちょっ……時間をかけろって言ったのに……」
そんなことをしてると、後ろから何だか呆れたような声が聞こえて来た。
いや、時間をかけたからこそ、この回避方法が分かったというか。だから、次の段階にね?
「いっくよぉぉぉぉ!! 《魔法撃》!!」
根の攻撃を避け、リンゴのシャワーを掻い潜る。
そして、アクアスノウを全力で叩きつけた!!
でも、やっぱりそんなにガッツリは減ってくれない。新装備で殴ったのに、一割も減らないのはボスゴーレムの時と同じだ。
「ぐぅ、流石に硬いなぁ……!!」
でも、ボスゴーレムだってへばり付いて殴りまくれば結構すぐに倒せたし、私もこのまま……!
「ベル!」
と思ったけど、ココアちゃんの声を聞いて「慎重にやれ」という忠告を思い出した私は、急いでその場を飛び退いた。
直後、ブオン! と風を切る音を立て、目の前を横切る巨大な樹の枝。
リンゴを飛ばす時も動いてたから、おかしくはないけど……このトレント、枝で近接攻撃までしてくるの!? 動けない癖に、思ったよりずっとハイスペックだね、この樹!!
「もう、冷や冷やさせる……ちなみに、もう三分経つよ」
「あはは、ごめんごめん。って、もう三分!? 早すぎなんだけど……」
私、戦闘開始してから一撃しか与えてないよ?
そう簡単に突破出来る目標とは思ってなかったけど、こうも高い壁だと中々がっくりとくる。
でも、まあ。
「どうせ一人でやらなきゃいけないことだし、今日のところはいいか」
今は、ココアちゃんと一緒にやってるんだしね。まずはここを突破して、エルダートレントの動きに慣れるのが先決だ。
「さあ、いっくよぉぉぉぉ!!」
「って、だからあんまり突っ込まないの……!」
ココアちゃんのサポートを受けながら、全力でエルダートレントに立ち向かう。
その後、私達二人は回避に専念しつつ、外側から根を一本一本切り崩すように攻め立てることで、何とかエルダートレントを初見討伐することは出来たけど……そのクリアタイムは、十二分三十七秒。
目標とする三分には、全然届かなかった。
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