第11話 ボスゴーレムと協力プレイ
「とりゃぁぁぁぁ!!」
全力で振るった杖の一撃が、ゴーレムの弱点部位であるコアを粉砕する。
着地の隙を狙うように、ゴブリンや他のゴーレムが押し寄せて来るけれど、問題はない。
「《エスケープオーラ》」
ココアちゃんの補助魔法が発動し、私の体を青いオーラみたいなものが包み込む。
《僧侶》だけが装備出来る、十字架をあしらったネックレス――《聖印》を使って発動する、味方に対する
AGIを引き上げる魔法の援護を受けて、私の世界が加速する。
ゴブリンもゴーレムも、その動きの全てを置き去りにするかのような速度で荒野を駆け、すれ違いざまに殴り倒していく。
「よしっ、勝利!!」
パキィィン!! っと、周囲に居たモンスター達が一斉に砕け、私達の経験値と成り果てる光景をバックに、杖を掲げて勝利のポーズ。
そこへ、ココアちゃんがパチパチと拍手しながら歩み寄って来た。
「おつかれさま。ベル、もうすっかりゴーレムもゴブリンも鎧袖一触だね……さすがというかなんというか」
「あはは、私もココアちゃんの援護がなきゃ、あんな動き出来ないよ。ありがとね」
一体一体、動きを見極めて攻撃を躱して、反撃として杖を叩き込む……っていうのが私の基本だったけど、ココアちゃんの補助でAGIが上がると、後手に回ることもなくこっちから殴り倒しに行けるから随分と楽だ。パーティを組んでるから、一体倒して貰える経験値は半減してるんだけど、効率としてはむしろ一人でやる時より良くなってると思う。
うんうん、やっぱり何事も一人より二人だよね!
「べ、別に私は……普通のことしてるだけだから」
ぴこぴこと嬉しそうにうさ耳を動かしながら、照れたようにそっぽを向くココアちゃん。
可愛いなぁ、見てて癒されるよ……。
雫が世界一可愛いのは間違いないんだけど、ココアちゃんもその次くらいに可愛いかもしれないね、うん。
「さあ、この調子でこの先にいるボスゴーレムも倒しちゃおう!」
「うん。……うん? この先にいるボスゴーレムって、まさかジャイアントロックゴーレムのことじゃ?」
「うん、そういう名前だったよ」
ボスっぽい名前だったからそう呼んでるけど、私が勝手にそう呼んでるだけだから、ココアちゃんにはあまり伝わらなかったみたい。
補足するようにその特徴を伝えると、ココアちゃんの表情がどんどん引きつっていく。
「もしかして、勝てなかったゴーレムってそれのこと?」
「うん、そうだよ?」
「……なんでそんなのに挑んでるの?」
「そこにいたから?」
「えぇぇ……」
私がそう答えると、ココアちゃんがまたも頭を抱えて蹲っちゃった。大丈夫?
「ゴーレムっていうから、普通のゴーレムの話かと思ったら……いや今までの動きで倒せてないっていうのも変かとは思ってたけど、まさか初心者装備でボスに挑む人がいるなんて……」
「ココアちゃん?」
「……なんでもない」
立ち上がり、「まあ、別にいいか、ベルだし」と呟くと、何やら諦めたような表情を浮かべるココアちゃん。
私、何か間違ってたのかな? まあ、別にいいってことは、それほど問題になるようなことじゃないだろうし、いっか。
というわけで、私達二人でゴーレムやゴブリンをバッタバッタと倒しつつ、進むことしばし。私一人でやった時よりもずっと短い時間で、ボスゴーレムとの交戦地点までやって来た。
「さあ、やるぞぉ!!」
「やるのはいいけど、ボス戦は戦闘開始と同時にそれまでかかってた強化も含む状態異常とスキルの効果を全部キャンセルされるから、私が魔法で支援入れるまでは近くにいてね」
「はーい」
ココアちゃんの使う《僧侶》の魔法は便利だけど、《魔術師》のそれに比べて射程が短いから、バフをかけるならある程度近くにいて貰わないと困るらしい。
一応、《魔術師》に比べれば打たれ強いのもあって、ステータスの割り振り次第じゃ回復魔法と併用して前衛を張れなくもないみたいだけど、ココアちゃんは真っ当なサポートメイン。出来れば後ろにいて、ボスに近付きたくないとのこと。
「来るよ」
そうした作戦とも呼べない作戦を立てていると、昨日と同じく上空から降ってくるボスゴーレム。
派手な土埃を上げ、カッコ良く登場シーンを決めている内に、ココアちゃんが次々と魔法を発動する。
「《オフェンシブオーラ》、《エスケープオーラ》、《ワイズオーラ》」
ここに来るまでの道中では、AGIを引き上げる《エスケープオーラ》だけだったのが、今回はボスということもあってか、三種類同時という大盤振る舞い。
AGIに加え、ATKとINTが上昇し、能力上昇を示す赤い状態異常マークが視界の端で三つ点灯する。
それを確認するなり、私は杖を握り締めて駆け出した!
「よっし、行くよぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げ、一直線にボスゴーレムへ吶喊、そのまま足に杖を叩き付ける。
ダメージはあまり通らなかったけど、これを怠ると魔法を使ったココアちゃんにボスゴーレムの狙いが集中して危ないらしい。ここに来るまでの戦闘で教わったことだけど、早速実践だ。
結果、ボスゴーレムは逃げるように距離を取るココアちゃんより、間近で攻撃してくる私を標的と認識したらしい。真っ赤な一つ目がギョロリと私の方を向いた。
「よいしょっとぉ!」
すぐさま飛び退いた私のいた場所を、ボスゴーレムの巨大な拳が叩き付ける。
初見の攻撃ではあるけど、他のゴーレムとの戦いで同じものを散々見てきたから、衝撃波の発生範囲だってほぼお見通し。しっかり効果範囲外まで離脱して余計なダメージを避ける。
「オォォォ!」
「あっ、やばっ!」
そんな私を追うように、ボスゴーレムの一つ目が輝きを増しながら私を見た。
何が来るのか察した私は、即座に横に飛ぶ。
直後、ボスゴーレムから放たれた赤い閃光が地面を薙ぎ払う。
光なだけあって、見てから回避はほぼ無理だね。発射ギリギリまでこっちに照準を合わせ続けるみたいだし、今みたいにタイミングを合わせて飛ばないと直撃しちゃう。
「ベル、サポートするからもう一度突っ込んで。《カースドエスケープ》、《カースドディフェンシブル》!」
そうやって私が狙われている隙に、大きく回り込んでボスゴーレムに接近を果たしたココアちゃんが、新たな魔法を発動する。
味方ではなく敵に作用し、そのステータスをダウンさせる、
「ありがとう! よし、思いっきり行くよ!!」
AGIとDEF、二つのステータスが下げられたボスゴーレムは、どうにかココアちゃんを攻撃しようと振り向くんだけど、壊れたネジ巻き人形みたいな動きじゃ全然追い付けていない。
その隙に、私は地面を蹴ってボスゴーレムの体へと跳び上がり、岩だらけのそれを這い上がっていく。
「《魔法撃》!!」
ココアちゃんの補助魔法、更に新しい装備で二重に上昇しているINTを、全てATKに変換。さっきとは比べ物にならない攻撃力と化したそれを、思い切り弱点の一つ目へと叩き付ける。
一割も行かないくらいだけど、初めてパッと見で分かるほどのダメージを受けたボスゴーレムは、たまらず体をよろめかせた。
「よし! もういっちょ……って、わっ!?」
そのまま連撃に繋げようとした私は、けれどボスゴーレムの予想外の動きで振り落とされる。
やるとしても私に向かってくると思ったのに、なんとこいつ、ココアちゃんを狙って歩き出したのだ!
「くっ、デバフ系のヘイト値が思ったより多い……! いつもの感覚じゃダメか!」
慌ててその場から逃げるココアちゃんだけど、少し遅い。
そんなココアちゃんに向け、ボスゴーレムはその巨大な拳を降り下ろす。
「させるかぁぁぁ!!」
「べ、ベル!?」
そうはさせじと、ボスゴーレムの正面に躍り出た私は、向かってくる拳の横っ腹を殴り付ける。
ドゴンッ!! と重々しい音を響かせた岩の拳は、なんとその勢いを反転させて大きく後ろに流れ、ボスゴーレムを仰け反らせた。
えっ、さすがにここまで大きく弾き飛ばせるなんて予想外なんだけど?
「
「へえ、そんなのあるんだ」
結構タイミングがシビアで難しい、とココアちゃんは語る。
まあ確かに、攻撃をただ防ぐだけならまだしも、攻撃に攻撃を合わせて弾き飛ばすって難しいからね。スキルを使うのが必須なら尚更。
でも、今のボスゴーレムはココアちゃんの魔法もあって元々遅かった動きが更に遅くなってる。
これなら、簡単に行けそうだ。
「オォォォ!!」
「てやぁぁぁぁ!!」
ボスゴーレムが謎の雄叫びを上げ、拳を繰り出す。
それを、私は《魔法撃》が乗った杖による攻撃で弾き飛ばした。
「オォォ!?」
「もいっちょお!!」
体勢が崩れた隙を突いて、踏ん張ってる足を思い切りぶん殴る。
流石のボスゴーレムも、体勢が崩れた状態じゃ耐えられなかったのか、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
「もらったぁ!!」
隙だらけの首元に取り付き、弱点の一つ目を連続して殴り付ける。
絵面だけ見たら、幼女が巨人に取り付いてポカポカと効きもしない攻撃を繰り返してるように見えるけど、実際には一撃一撃ですんごい重々しい音が響いてるからギャップがすごいんだろうなぁ。
ココアちゃんも、心なしかドン引きしてるように見えるのは気のせいかな?
言い訳させて貰うと、これは偶々そういう戦闘スタイルになっただけであって、私がそういう趣味なわけじゃないからね!
「グオォォォ!!」
なんてことを考えている間に、ボスゴーレムが首元で暴れる私を引き剥がそうと、腕を振り回してくる。
起き上がろうとする動きと同時にやってくるもんだから、足元がぐらついて今から逃げることは出来ない。
でも、パリィなんて便利なシステムを知った今、対処するのは簡単だ。
「ほいっ!」
「グオォ……!?」
背後から迫る拳を、杖の一振りで弾き返す。
他の職業だとどうか分からないけど、《魔法撃》を使っていれば、時間内なら普通に弾くだけでパリィが成立するから楽でいいね。
グラグラ揺れるボスゴーレムに片手でしがみついたまま迎撃と攻撃を両立させるのは大変だけど……《魔法撃》の効果は後十秒、時間切れになる前に仕留める!!
「てやぁぁぁぁ!!」
殴る。殴る。殴る。偶に迎撃して、また殴る。
ごりごりと削れていくボスゴーレムのHPと《魔法撃》の残り時間を交互に見ながら、ひたすら無心になって杖を振り続ける。
よし! このペースで殴り続ければ、ギリギリ削り切れる!
「グオォォ……!!」
私がそう確信を抱くと同時、ボスゴーレムの全身からふっと力が抜ける。
これ、初めて戦った時にも見たのしかかり攻撃! 攻撃範囲はすっごく広いけど、分かっていれば動作自体は分かりやすくて隙だらけ。
今なら、パリィで弾いて隙を作ることだって簡単に……。
「ベル! それは特殊攻撃って呼ばれてる種類の攻撃で、パリィじゃ防げない!」
「えぇ!?」
思わぬ情報に驚くも、既に杖を叩き付けようと振りかぶってしまっている。今更止められない。
「《ディフェンシブオーラ》、《プロテクションギフト》!!」
その瞬間、ココアちゃんの魔法が発動する。
対象のDEFを引き上げる強化魔法と、一定量のダメージを肩代わりする盾の魔法、その二つがそれぞれ白いオーラと半透明のヴェールとなって私を覆い、当たれば即死だったボスゴーレムの攻撃から、ギリギリのところで私を守ってくれた。
「ココアちゃん、ありがとう!」
「お礼はいい、早くトドメ! 全く、いつも詰めが甘いんだから……!」
「えへへ、ごめーん」
ん? 私の悪い癖(?)、なんでココアちゃんが知ってるんだろ? 雫から聞いたにしても、まるでいつも見てたような……。
まあ、今は考えてる場合じゃないか!
「これで、終わりだぁーー!!」
ちょうどボスゴーレムが起き上がっていくタイミングでダメージから立ち直った私は、すぐさま杖を構えて突撃する。
忌々しげに私を睨む真っ赤な一つ目、ちょうど手頃な高さにあるそれ目掛けて、杖を叩き付けて――
ついに、ボスゴーレムのHPがゼロとなり、その体をポリゴン片へと変じさせるのだった。
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