第10話 装備完成と試し振り

「はい、出来たよ、装備」


「おお! ありがとう、ココアちゃん!」


 ココアちゃんに着せ替え人形にされ、たくさん撫で回された末、ついに私の専用装備を作って貰うことが出来た。

 普通に楽しかったから、対価としてどうなんだろうと思わなくもないけど、本人がいいと言うんだからいいのかな?


「えへへ、どうかな?」


「うん、ばっちり」


 渡された装備を早速装備して、軽くポーズを決めながら披露すると、ココアちゃんはぐっと親指を立てた。


 まず目を引くのは、空に掲げた大きな杖。

 "ベル"としての私の身長と同じかそれ以上の長さを誇るその杖は、私のパーソナルカラーでもある白銀に染め上げられ、先端には蒼の宝石が嵌め込まれている。

 ただこう、その宝石がこれまた大きくて、ぱっと見だと杖というより、巨大なハンマーって感じになってるんだよね。杖ってなんだっけ?



名称:大棍杖アクアスノウ

種別:杖

装備制限:レベル12以上、ATK30以上

効果:INT+50、MP+20



 棍ってこれ、棍棒ってことだよね? 用途を考えれば間違ってないけど、やっぱりハンマーだこれ! 杖扱いだけど!


 まあ、それは一旦置いといて、次は身に纏う衣服。

 元々は野暮ったい冒険者服って感じだったんだけど、今は純白のローブとなって私の動きに合わせてふわりと浮かぶ。

 中に着込んだインナーは、ワンポイントとして胸元に小さなリボンが添えられたキャミソールに、紺色のミニスカートだ。


 飛んだり跳ねたりして戦う私のスタイルを考えると、ちょっと足元が無防備過ぎる気はするけど、ココアちゃん曰く、謎の光ならぬ謎の影で見えないから大丈夫なんだそうだ。

 謎の光とか影って、何?



名称:「新雪の魔女」シリーズ

種別:ローブ、インナー、ブーツ

装備制限:レベル12以上

効果:DEF+20、MIND+30、AGI+30



 ともあれ、これだけで随分とステータスが上がった。

 新しい杖、アクアスノウを振り回すと、やっぱり大きくなった分少し重量に引っ張られるような感覚があるけど、慣れれば大丈夫そう。

 そして、防御力の方は確かめようがないけど、素早さAGIは明らかに変わったのがはっきり分かる。体が軽くて、その場で思い切り跳び上がってみれば、ちょっとびっくりするくらいジャンプ出来た。

 なるほど、AGIを上げるとこんな感じなのかぁ。

 これはこれで楽しいけど、やり過ぎると逆に戦いづらい気がする。慣れでどうにかなるのかな?


「ベル、着てみた感じはどう? 出来るだけ要望に合わせて、可愛さ……げふん、動きやすさを重視しつつ、火力とリーチを両立出来る杖にしてみたけど」


 今、可愛さ重視って言おうとした? 代金代わりに要求してきたことといい、ココアちゃん、何気に私のこの体気に入ってるよね。

 雫も、出来ればこれくらい気に入ってくれるといいんだけどなぁ。

 あ、いっそさっきのスクショ少し分けて貰って、後で雫に見せてあげよう。そうしたら、もしかしたら条件のことなんて忘れて一緒に遊んでくれるかも。


「ベル?」


「あ、ごめんぼーっとしてた! うん、ばっちりだよ、ありがとね、ココアちゃん!」


 こてりと首を傾げるココアちゃんに、私は慌ててお礼を言って誤魔化した。

 いけないいけない、話してる最中に他の人のこと考えてたらダメだよね、反省。


「よし! それじゃあ早速、あのにっくきゴーレムにリベンジだー! というわけで、ちょっと行ってくる!」


「ま、待って、私も一緒に行くよ」


「へ? ココアちゃんも?」


 思わぬ申し出に、私は目を瞬かせる。

 装備を作っている最中、ココアちゃんから生産職についていくつか教えてもらったけど、確か生産をメインでやっているプレイヤーは、戦闘にはあまり参加しないっていう話だった。

 それを言った本人が、まさか私の戦闘について行くと言い出すとは思ってなかったんだけど、どうやらそれにも理由があるらしい。


「戦闘しないって言っても、肝心の生産をするためには素材がいる。採取をするには戦闘職の人と一緒に動いた方が私としては安全だし、ベルにとってもサポート役がいた方が楽だと思うよ。ドロップアイテムを高めに買い取ってあげたりとか、ポーションなんかの提供も出来るし……私は《僧侶》だから、サポート用の魔法も使える」


「なるほどー」


 確かに、言われてみればその通りかもしれない。

 雫と遊びたいばっかりですっかり意識から抜け落ちてたけど、他のプレイヤーだって大勢いるんだから、そういう人達と一緒に遊ぶのは普通のことだ。

 いざ雫と一緒に遊ぶ時、どうしたらいいか分からなくて右往左往するなんてかっこ悪いしね。練習だと思えばむしろありがたい。


「そういうことなら、一緒に遊ぼうか! あ、それなら行く場所も荒野以外が良かったりとかする?」


「ううん、ゴーレムから摂れる鉱石系の素材は武器作りに使えるから、それでいいよ」


「分かった! それじゃあ、行こう!」


 おー! と杖を握った拳を振り上げつつ、ココアちゃんとパーティを組み、共に荒野へ向かう。

 最初に出くわすのは、当然のようにサンドゴブリン。それも、三体固まって寛いでる。


 砂色の肌が保護色になって遠くからだと見辛いけど、近付けば普通に分かる上、ゴブリンの方はかなり間近に迫らないとプレイヤーの存在に気付かないから、実のところ保護色の意味があるのかはかなり疑問だ。


 まあ、気分は出るからいいんだけどね。


「それじゃあ、早速試し振りだ! いっくよー!!」


「ちょっ、ベル!?」


 私が杖を掲げて走り出すと、ココアちゃんの慌てたような声が聞こえた気がするけど、既に私はサンドゴブリンの探知圏内。ギャアギャアと耳障りな声を上げて、三体纏めて向かってきた。


「よいしょぉ!!」


「グギャ!?」


 邂逅一発、特にスキルは使わず一番近くにいたゴブリンの肩口を殴り付けるも、これまでと特に変化はなし。一撃でごっそりとHPを削り取れたけど、倒すまでには至らなかった。

 まあ、この新装備で上がるのはあくまでINTだからね、物理ダメージに変化がなくても仕方ない。


 でも、リーチが伸びたのは思いの外大きい。

 これまでよりも広い視野を保った状態で攻撃出来るから、他の敵の動きを見失わないで済む。


「ギャッ、ギャッ!」


「甘い甘い!」


 二体目のゴブリンが繰り出した袈裟斬りを余裕を持って避けつつ、ぐるりと体ごと回転しながら杖を叩きつけ、脳天をかち割る。

 真っ赤なダメージエフェクトが散ったかと思えば、クリティカルダメージであっさりと二体目のHPが0に。

 ポリゴン片となって砕け散るゴブリンの体。その最期の輝きを目晦ましに、最後のゴブリンが突っ込んで来た。

 偶然だと思うけど、なんてタイミング。しかも、最初に怯ませた一体も復帰して、時間差で横薙ぎを放って来る。


 このゴブリン達、攻撃パターンは二つ三つしかないのに、集まると結構いやらしい攻撃してくるよね。まあ、当たらなければどうってことないけど!


「てやあぁぁぁぁ!!」


 装備の力で上昇したAGIをフル活用し、大きくジャンプ。

 襲い来る攻撃を共に回避しながら、体をコマのように回転させて全力で杖を叩き付ける。

 見事に頭にクリーンヒットした一撃で、二体ともまとめてポリゴン片と化して消えて行ったのを確認すると、私はくるくると回りながら地面にすたり。


「んーっ、よし! いい感じ!」


 勝利のポーズを決めながら、私は杖をくるくると回して背中に背負う形で固定する。

 いやー、木の杖とは大分感覚が変わるし、慣れるまで少し苦労するかと思ったけど、全然そんなことなかったね。むしろこの杖、すっごく手に馴染むよ。

 これも、ココアちゃんが私の要望を、上手く言葉に出来なかった部分までしっかりくみ取ってくれたおかげかな?


「えぇ……何今の……」


 改めてお礼を言おうかと振り返ると、ココアちゃんは顔を引き攣らせながら茫然と呟いていた。

 どうしたんだろう?


「ベル……さっきも思ったけど、なんで正面からゴブリンの攻撃避けられるの……?」


「え? 避けられるでしょ? そんなに速くないし。これなら中学生の振る竹刀と大して変わらないよ」


「いや、防ぐだけならまだしも、普通の人は中学生の竹刀だって正面から回避なんて出来ないから。仮に出来たとしても、二方向から飛んで来る攻撃を躱しながら、あんなアクロバティックな反撃に出るなんて……なんで宙返りしながら一振りで前後のゴブリンの頭を綺麗に殴り飛ばせるの? どこに目ついてるの?」


「どこって、ここだけだよ?」


 ぴっ、と自分の目がある場所を指し示すと、「はぁ……これだから……」とココアちゃんは思いっきり頭を抱えてしまった。

 うーん、まあ、確かに現実で宙返りはそんなに出来る人はいないけど、ここはゲームの中だ。AGIがある程度あれば現実の体よりずっと動けるし、怖がらずに思いっきり踏み込めば、誰でもあれくらい出来ると思うけどなぁ。


「まあいいや、お姉ちゃんに常識を説くのが無駄なことくらい、前から分かってたことだし……」


「えっ、今なんて?」


「ベルはすごいなって言ったの」


「ふふふ、でしょ? でもまだまだ、ティアに認めて貰うためにも、もっと頑張らないと!!」


 ぐっと拳を握りながらそう言うと、ココアちゃんは「ま、まあ頑張って」と応援してくれた。

 若干頬が引き攣ってるのが気になるけど、どうしたんだろう?


「……少なくとも、体捌きの点ではもう負けてる気がする……いや、私だって立ち回りを工夫すれば……くっ、負けてられない……!」


 うぎぎ、と歯を食い縛り、何やらブツブツと呟くココアちゃん。

 もしかして、私が一人で突っ走ったこと気にしてるのかな?

 どうしても新しい杖の試し振りがしたくて先行したけど、今はパーティを組んでるんだし、少し気を付けた方がいいかもしれない。


 そんなことを考えながら、私はココアちゃんと二人、山の麓に向けて歩みを進めていくのだった。

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