第7話 姉妹の食卓(?)と状況報告
「ぬあー! 悔しい!!」
HPがゼロになり、ベースキャンプへと強制的に戻された私は、時間も時間だったから一旦ログアウトすることに。
ベッドの上でひとしきり叫んで満足した私は、そのまま台所へ。雫のお昼作らないとね。
本日のメニューは、子供ならみんな大好きハンバーグ。
食が細い雫のため、豆腐を混ぜ込んで脂身を抑え、一つ一つを小さく纏めることで食べやすいようにしてるのが個人的ポイント。
後は栄養バランスを考えたサラダで彩りを添え、炊きたてご飯と雫の大好きなミルクココアを合わせれば……うん、今日も完璧!
「雫~、ご飯だよ~、一緒に食べよ~?」
『却下。そこに置いといて』
だがしかし、相変わらず雫から返ってくるのは素っ気ない返事。
ぐすん、雫は今もFFOに夢中なのかなぁ。面白いのは十分分かったけど、出来れば温かいうちに食べて欲しいんだけどなぁ。
いつもならここから、雫の気が変わってリビングに来てくれるのを期待して、一人寂しくものすご~くゆっくりご飯をつつくところだけど……もうずっとそんな調子で来てくれないし、ここは自分から行動あるのみ!
「じー……」
というわけで、まずは雫がどのタイミングでご飯を食べているのか確かめるべく、廊下の隅に隠れて観察開始。
すると、予想していたよりもずっと早く、雫が部屋から顔を出した。
私がいないか確認しているのか、きょろきょろと辺りを見渡す仕草が小動物染みていて凄く可愛い。兎さんみたい。
はあ、癒される……。
などと妹の可愛らしい姿を堪能していると、雫は料理が載ったお盆を手に、部屋の中へ戻っていった。
それを確認すると、私はすぐさま扉越しに声をかける。
「……雫! 一緒にご飯食べよ!」
「わっ!? い、いきなり何、一緒になんて食べないから! 入って来ないでよ!」
私が押し入って来ると思ったのか、牽制するように雫は叫ぶ。
ふふふ、でもまだまだ、読みが甘いね!
「大丈夫、部屋には入らないから! 代わりに、ここでご飯食べる!」
『……はい?』
「雫の部屋の前で、雫とお喋りしながらご飯食べるの! それなら問題ないでしょ?」
『えっ、いや、問題ないけど……え?』
「ありがとう!」
雫の許可を取り付けるや、私はミニテーブルを部屋の前に設置し、手早く料理を載せたお盆を運んでくる。
床に直座りで食べるのはお行儀が悪いって? ふふん、そんなの百も承知。
雫と楽しく食べる食事のためなら、私はマナーも風習も、法律だってぶち破ってみせる!!
『ばか姉がまたばかなこと考えてる……』
そんな私の覚悟を知ってか知らずか、扉越しに「はあぁ」という雫の深い溜息が聞こえてくる。
でも、そんな私のバカに付き合ってくれる気になったのか、小さく「いただきます」という声が聞こえてきて、私は顔がにやけていくのを止められなかった。
「ねえ雫、お姉ちゃんのご飯どう? 美味しい?」
『……まあ、いいんじゃないの、よく分からないけど』
「そっか、良かったぁ」
雫は、不味い時や嫌いな物があった時はハッキリズバッと言ってくるから、素っ気なくとも「良い」と言ってくれたのは相当気に入ってくれたと見ていいはず。
雫のために長年試行錯誤してきた甲斐があった、と喜んでいると、その後も更に嬉しいことが続いてくれる。
『……お姉ちゃんは、FFOやってみてどうだった?』
なんと、雫の方から話題を振ってくれたのだ!!
元々、その話がしたくてこんな強硬な手段に出た私としては、もうこれだけで泣きそうだ。
うぅ、雫、やっとお姉ちゃんに興味を持ってくれたんだね……!
『……お姉ちゃん?』
「あ、うん! 初めてだけど、ゲームって楽しいね! 雫が夢中になるのも分かるよ」
『でしょ?』
「あ、でもいくら面白いからって、夜更かしはダメだからね?」
『けち』
そこからは、私がゲームを始めてから辿った軌跡をざっくりと話して聞かせた。
雫と同じ《魔術師》を選んだこと。
それなのに、なぜか殴った方がダメージが大きかったこと。
ゴブリンやゴーレムと戦って、ようやくATKとINTを間違えていたことに気付いた件(くだり)では、雫の呆れたような溜息が聞こえてきた。
『……本当に、ばか姉は何でも出来る癖に、何やってもどこか抜けてる。よりによって、そんな理由でネタに走るなんて……』
「うぅ、否定出来ない」
昔からそう、私は物覚えが良くて大抵のことは人並以上にこなせるけど、最後の最後で詰めが甘い。
マラソンでぶっちぎり一位だったのに最後でコース間違えたりとか、テストで満点だったのに名前書き忘れたりだとか……思い出したらキリがないよ。
『……まあ、そんなお姉ちゃんも……だけどさ』
「うん? 何か言った?」
『なんでもない』
今何か喋ってた気がするけど、扉越しじゃよく聞こえなかった。
まあ、きっと私のやらかしを思い出して笑ってたんだろう。私自身ですら笑うしかない失敗だって何度かやったし。
『それよりお姉ちゃん、このまま殴り魔で行くの? ぶっちゃけ、無理あると思うけど』
「いや、確かにあのでっかいゴーレムにはしてやられたけど、今度は負けないから! ちゃんと装備整えて、絶対リベンジする!」
さっきは予想外の挙動が多くて不意を突かれたけど、今度はそうは行かない。
雫と一緒に遊ぶためにも、あんな岩の塊なんかに負けるもんか!
ていうか、私が偶然作ったこのATK特化の魔術師、殴り魔なんて呼ばれ方してるんだね。初めて知ったよ。
『……まあ、お姉ちゃんがそうしたいならいいけど……でも、殴り魔装備か……』
「うん? 何か問題あるの?」
『大有りだよ。殴り魔なんて、半年やってる私だってまともに見たことないんだよ? 誰もそれ用の装備なんて作ってないから、どの店にも置いてないかも』
「えぇ!?」
装備がないって、それは流石に困るんですけど!?
まあ、真っ当なプレイから早々に外れてるのは自覚してるし、仕方ないと言えば仕方ないんだけど……うぐぐ。
『……しょうがない、私が少しだけ協力してあげる』
「えっ、雫、ついに私と遊んでくれる気になったの!?」
『ちっ、ちが……! 私はただ、そう! フレンドの中にまだ始めたばっかりの子がいて、その子が生産職やろうかなって言ってたから、お姉ちゃんに紹介してあげようかなって……それだけだから!!』
生産職というのは、素材を使って装備品やアイテムを作るスキルを習得したプレイヤーのことらしい。
装備品はNPCの経営するショップでも買えるけど、より自分に合った強い装備を手に入れようと思ったら、生産職のプレイヤーに作って貰うのが基本。だから、誰でも一人くらいは生産職のフレンドがいるものらしい。
うん、そういう生産職の必要性は分かったけど、それより気になったことが一つだけある。それは……。
「雫……初心者のフレンドがいるなら、私ともフレンドになってくれると嬉しいんだけど……」
私とは遊んでくれないのに、他にきっちり初心者のフレンドがいるなんて聞いてない!! ずるい!!
『……まあ、フレンド登録くらいはいいよ、してあげる』
「やったぁぁぁぁぁ!! ありがとう雫、愛してる!!」
『ちょっ、部屋に入って来ようとすんな、ばか姉っ!』
許可が降りたことが嬉しくて、思わず部屋に飛び込もうとした私だったけど、雫はこうなることを予期していたのか、ガッチリと押さえられているせいでドアが開かない。
ぐうぅ~! 今すぐ雫の顔を見たい、抱き締めたい! この溢れる思いをぶつけたい~~!!
『止めないとフレンド登録の代わりにブロックするからね』
「はい雫様、不肖の姉は誠心誠意反省しておりますのでどうかそれだけはご勘弁を」
すぐさま扉から離れ、その場で土下座しながら懇願する。
そんな私の行動が、扉越しでも伝わったのだろう。雫の深い溜息が聞こえてきた。
『全く……えっと、こっちも色々と準備があるから、生産職の子と引き合わせるのは夕方の……五時頃ね。それまでは適当にレベル上げなり、ドロップアイテム売ってお金にするなりしといて』
「分かった。ちなみに、その子の名前はなんて言うの?」
『まだ決めてな……えっと、それも時間になったらその子の方からメッセージ飛ばすように言っておくから、お姉ちゃんは気にしないで! 分かった?』
「うん、いいけど」
なぜか、少しばかり動揺というか、何か隠しているような感じがするんだけど……なんだろう?
はっ、も、もしかして……!
「雫、そのフレンドってまさか彼氏とか!? ダメだよ雫、そういうのはまだ早い!!」
『はあ!? 何をどう飛躍したらそういう考えに至るの!? 本当にバカなの!? ていうか、その子も女の子キャラだから!! そんなのあり得ないから!!』
「まさかの同性愛!? 雫、そういうのは否定しないけど、それならやっぱり私を倒してからじゃないと認めないからね!!」
『否定しないの!? ていうか仮にそうだったとして、なんで誰かと付き合うのにお姉ちゃんを認めさせないといけないわけ!?』
「そんなの決まってるじゃん。この世界で一番雫を愛してるのは私だから!! 私より雫を愛せるって認められる人にしか雫はあげない!!」
『っ~~!! ばかっ!! しねっ!!』
全力の罵倒が響き、それきり部屋の中から雫の声がパタリと止んでしまう。
しまった……ついエキサイトして、ちょっとばかり雫への思いを叫び過ぎちゃったよ。うぅ、あの子こういうの昔から嫌がってたからなぁ、嫌われてないといいけど……。
雫のこととなるとつい見境がなくなる自分の悪癖に溜息を溢しつつ、私は食べ終わった食器とテーブルを持ってとぼとぼとその場を後にする。
だから、私が去った後に呟かれた雫の言葉を、私が耳にすることは出来なかった。
『……五時までに、キャラクリと、最低限のレベル上げと、装備の用意か……急ごう』
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