第6話 ゴーレム乱獲とボスゴーレム

「とおおりゃああああ!! 《魔法撃》!!」


「――――!?」


 ゴーレムの腕を駆け上がり、ジャンプしながらスキルを発動。限界まで引き上げられたステータスを全てつぎ込まんと雄叫びを上げ、ゴーレムの胸部を杖で強打した。

 ただの一撃で満タンだったHPが尽き、ポリゴン片へと変じていく岩の体。それが完全に失われる前に、私はゴーレムの体を蹴り飛ばし、再度宙へと跳び上がる。


「そ、こぉ!!」


 跳んだ先には、予め適当に魔法を撃っておびき寄せておいた他のゴーレムの姿が。

 間合いに飛び込み、ゴーレムが攻撃モーションに入るよりも先に、杖を弱点へと叩き込む。


「まだまだぁ!!」


 そのまま、同じ要領でゴーレムの体から体へと飛び移り、《魔法撃》の効果時間の許す限り、一撃の下に狩り尽くす。

 ほんの三十秒しかない効果時間が終わるのと、近場のゴーレムがごっそりといなくなるのはほぼ同時だった。地面に降り立った私は、大きく息を吐いて杖を掲げる。


「ん~っ、勝利!! はあ、結構良いペースで来てるなぁ」


 《魔法撃》のCTクールタイム……再使用可能になるまでの待機時間が開けるまでの間、私は荒野に転がる適当な岩に腰掛け、しばしの休憩を取ることに。



名前:ベル

職業:魔術師Lv12

HP:105

MP:260

ATK:131

DEF:16

AGI:16

INT:42

MIND:16

DEX:22



「うん、レベルも結構上がってるね、良い感じ良い感じ」


 足をぶらぶらさせながら、自分のステータス画面を見て思わず笑みが零れる。

 このゲームを始めて、既に四時間。サンドゴブリンに引き続きロックゴーレムを狩り続けたことで、順調にレベルが上がってきた。

 当然、ステータスも相応に上昇を見せ、さっき習得したスキルを合わせれば、もはやゴーレムすら敵じゃない攻撃力がある。

 ATKとINT、二つのステータスを勘違いしていたことには驚いたけど……現状何も問題ないし、ひとまず、レベルアップで貰えるステータスポイントは全てATKにつぎ込んでる。お陰で他のステータスとの差が凄い。


 《魔法撃》の効果を考えると、もう少しINTに振ってみるのもアリかもしれないけど……私が今装備してる《木の杖》ですら、INT+5っていう効果があるんだよね。ちゃんとした装備になるといくつ増えるのか分からないし、もうしばらく様子を見よう。


「……というか、装備ってどうすればいいんだろう。ベースキャンプで買えるのかな?」


 とにかく早く強くなりたくて、チュートリアルが終わってからすぐに荒野を突っ走って来たけど、装備の充実だってゲームの強さには大事だよね。

 すっかり忘れてたけど、船乗りさんにお金も貰ってるし、モンスターの乱獲で手に入ったドロップアイテムもある。

 そろそろインベントリがいっぱいになって来たから、一度戻ってそういう装備品も探すのもアリかもしれない。


「んん~、でもなー、せっかくここまで来たのに、戻るのもな~」


 そう、今の私のHPとMPは、自然回復もあって既に満タンだ。戦闘するのにアイテムも消費してないから、体力が続く限りずっと戦い続けられる。

 進めば進むほど敵が強くなるということは、戻れば弱くなるということ。装備を整えるためにベースキャンプに戻れば、それだけレベルアップまでにかかる時間が増えてしまうのだ。


「……よし、ここは一度、勝てないモンスターが出るまで先に進み続けよう!」


 考えた末、私はそう結論を出す。


 現状、初期装備のままでもどうにかなってるからね。新しい装備について考えるのは、負けてからでも遅くない。

 行けるところまで行って、ダメならその時考える。今はとにかく、少しでも前へ!


「そうと決まれば、休憩終わり! 先に進もう」


 岩から飛び降り、荒野の先に見える山を目指して歩き続ける。

 しばらくは特に変わりなく、ゴーレムの相手ばかりしていたけど、途中でゴブリンも一緒に出くわすようになって来た。ちょっとキツイ。

 でも、これまで狩って来たモンスターには違いないし、ここで引くのもなぁ。


「……おお? ここは……」


 二種類のモンスターによる度重なる攻撃を掻い潜り、全てを経験値に変換しながら進むことしばし。これまでとは毛色が違う場所にやって来た。

 岩がゴロゴロと転がり、偶に枯れ木が伸びる程度しかなかった赤茶けた大地。それがぷつりと途切れ、ちょっとした広場みたいになっている。

 その奥に見えるのは、天まで届けと言わんばかりに上空へと伸びる上り坂。

 ベースキャンプから見えた山の麓に、ついに辿り着いたのだ。


「おお~、ここまで来たかぁ」


 ひとまずの目的地に辿り着いたことに、私は満足して一つ頷く。

 でも、ここからまた遠そうだなぁ。ベースキャンプを拠点に活動しているプレイヤーの人達は、どうやってこの山を登ってるんだろう?


「……ん?」


 そんな疑問を覚えていると、少しだけ視界に違和感を感じた。

 なんて言えばいいのか……世界がズレたというか、ノイズが走ったというか。


 その正体が何なのかも分からないうちに、続けてもう一つ。空から、黒い何かが降って来た。

 目を凝らせば、それはただただ巨大な岩だった。


「えぇ!?」


 山の上から転がって来るならまだしも、なんで空から!?

 そんな疑問を覚えている間に、まるで隕石のように広場の真ん中へと岩が落ち、大きな地響きと共に砂埃を巻き上げる。

 何事かと目を凝らす私の前で、砂に隠れて薄らと見える岩の影。それが、ゆっくりと立ち上がった。


「え……これって、もしかして……」


 ビコン、と赤い光が灯ったかと思えば、砂埃を振り払ってその姿が露わになる。

 ロックゴーレムの体を、一回り以上大きくしたような岩の体。

 頭の中央には赤い宝石が埋め込まれ、それがまるで目玉のように私を真っ直ぐに見据えている。

 明らかに、これまで戦ってきたゴーレムの上位個体。そんな私の考えを肯定するかのように、頭上に表示された名前にはジャイアントロックゴーレムと記されていた。

 でも、それ以上に目を引くのが、表示された名前の色。

 まるで血のように真っ赤に染まったそのフォントは、今の私が戦うべきではないと、親切なゲームシステムに忠告されているかのような気がした。


 やっぱり、このモンスター。


「フィールドボスって奴だったり……する?」


「――グオォォォ!!」


 ビリビリと、空気が震えるほどの咆哮が目の前のゴーレムから放たれる。

 まるで私の問いかけに答えるようなそれを聞いて、私の体は震えあがった。


 恐怖……とは違う。

 これは、歓喜だ。


「ふふっ、森のフィールドボスが本番だから、その前哨戦にはちょうどいいよね」


 雫が条件に提示するくらいだから、きっと森にいるっていうフィールドボスは相当強い。多分だけど、三分以内っていうのもかなり無理のある数字なんじゃないかな?


 だったら、こんな山の前に居座ってるボスくらい、簡単に倒せるようにならないと!!


「よーし、行くぞぉぉぉ!!」


 杖を構え、ボスゴーレム(仮)に向けて全力ダッシュ。

 さあ来るなら来いと、その挙動をじっと注視する私の前で……ふっ、と、ボスゴーレムの全身から力が抜けた。


「はい?」


 どういうことかと足を止める私の前で、ボスゴーレムの体が前のめりに倒れて来る。ちょうど、私の真上目掛けて。

 ちょっ、まさかののしかかり!? これは予想してなかったよ!!


「わきゃああああ!?」


 大慌てでその場から退避した私の後ろで、ドゴォォォォン!! と凄まじい音が響き、衝撃で私の小さな体が吹き飛ばされる。

 地面を転がり、近くにあった岩に激突。HPバーがガクンと減少し、残ったのはもはや一割以下。うわぁ、直撃してたら即死だったよ。


「うぐぐっ、やったなぁ……!! お返しだ!!」


 急いで体を起こし、杖を構えて再び駆け出す。

 幸い、ボスゴーレムは自分の攻撃で倒れてるから、今なら完全な無防備だ。やりたい放題出来る。

 私が受けたダメージ、倍にして返してあげるよ!


「とりゃあ!! 《魔法撃》!!」


 スキルを発動し、ボスゴーレムの後頭部をぶっ叩く。

 けど、


「……硬っ!?」


 ガキィン!! と弾かれた杖を見て、愕然とする。

 うっそ、ただのロックゴーレムなら一撃で倒せるのに、効いてない!?


「ぐぅ、やっぱりボスゴーレムも弱点を突くしかないか……!!」


 そういう意味では、この攻撃は厄介だ。確かに隙だらけだけど、肝心の弱点が地面との間に挟まって全く手出しできなくなってる。

 仕方ない、起き上がるのを待つしかないか。

 起きる途中ならまだ無防備なままだろうし、見るからに弱点っぽい顔面をぶん殴るチャンスも絶対ある!


 そう考え、じっと待つこと数秒。ようやく、ボスゴーレムがもぞもぞと起き上がり始めた。

 地面に手を突き、顔を上げて……よし、今!!


「とりゃああああ!!」


 地面についた腕を足場に駆け上がり、ボスゴーレムの顔面目掛けて大ジャンプ。狙いすました一撃を全力で叩き込む。

 真っ赤に輝く弱点部位は、流石にそこまで硬くないのか。《魔法撃》の効果も合わせ、しっかりとダメージが通った。


「よし、これならいける!!」


 流石にボス(?)なだけあってHPが多いみたいで、これまでみたいに一撃で何割も削れたりはしなかったけど、通じることだけでも分かれば十分だ。私でも戦えるって証明だからね。


 と、そんな考えに気を取られていたのが良くなかったのか。突然、私が殴った赤い宝石部分が光り始めたことに対して、反応が遅れた。


「……へ?」


 なんか、嫌な予感がする。そう思った、次の瞬間。

 真っ赤な光線が私の体を貫き、残された微かなHPを綺麗に消し飛ばした。


「……そ、」


 そんな攻撃ありーーー!?


 心の底からそう叫ぶも、ボスゴーレムが敵である私の嘆きなんて聞き入れてくれるはずもなく。

 私はここでついに、FFOで初めての死に戻りを経験するのだった。

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