パン屋さん


 さあ!今日はパン屋さんに行ってみるぞ!良さそうなところだったら雇ってもらって、自分の力で生活できるようにならなくちゃ。ちょびっとだけ、パンに囲まれたいという願望もある。


 焼けた小麦の香りに、辺りはパンだらけなんて素敵だ。一度はパン屋さんで働いてみたいと思ってたんだよね。まさか死んでから叶うとは思わなかった。いつ天国に行けるか分からないし、物は試しにやってみよう。


「ましろちゃんおはよ〜」


「おはようございます!今日はいい天気ですね」


 魔法使いさんが欠伸をしながら階段を降りてきた。うわ、すごい。絵本で見るような帽子を被ってる。本当に被る人いるんだ。


「その帽子なんて言う名前ですか?」


 頭の上で帽子のジェスチャーをして聞いた。


「ナイトキャップだっけ?」


「あぁ!結構そのままなんですね」


「そうみたい。ところでましろちゃん、今日はなんか元気だね?」


 魔法使いさんは顎に手を当てながら言った。こてんっと効果音が付きそうだ。可愛い……成人済み(?)男性に当てはまる言葉か分からないけど、小動物みたい。


「はい!今日は念願の夢を叶えられるかもしれない日なので」


「念願の夢……?」


「帰ってからのお楽しみです!」


 魔法使いさんは私の言葉を気にしている様子だったけれど、今日は構っていられないのだ。ワクワクドキドキしながら出かける準備を進めた。鼻歌だってしちゃう。


「じゃあ行ってきます!」


「一人で大丈夫?僕ついて行くよ。というかどこへ行くんだい?」


 魔法使いさんはさっきからずっと質問の嵐だ。でも、確かに一人だと道に迷う可能性がある。

 

「確かに一人だと道に迷ってしまうかも知れないですね……。商店街に行きたいんですが、まだ覚えきれてないので誰かに道案内してほしいです」


「それこそ僕の出番じゃないか!道案内から移動までおまかせあれ!」


 自慢気な表情で、声高らかにそう言った。心做しか鼻も高く見えた。童話に出てくる鼻の高い人形みたいだ。


 ワープで商店街へ着くと、真っ先にパン屋さんへ向かった。魔法使いさんに着いてきてもらってよかった。道を間違えそうになった回数は片手じゃ収まりきらない。


 意を決してドアノブに手を乗せた。ゆっくりとドアを開けて顔だけを中に入れる。すると、焼けたパンの匂いがスっと鼻をくすぐった。あぁ、ここで働くことができたらなんて幸せだろうか。パンの匂いは人を幸せにする成分とか入ってると思う。


「いらっしゃいませ〜!」


 カウンターの中から、優しそうな女性が言った。いかにもパンを作ってそうな人だ。私のパン屋イメージとピッタリで興奮してしまった。


 まずは、パンを見させてもらおう。いきなり働かせてくださいなんて言う勇気は私には無い。買い物客を装って、後から仕掛けよう。


「どれも美味しそうですね」


「そうだね、ここのパンはここら辺じゃ一番なんて言われてるんだよ」


 私が魔法使いさんに話しかけると、彼は、得意気にそう言った。まるで自分のお店みたいだ。


「あら、魔法使いさんじゃない!最近来てくれないから心配してたのよ」


「あぁ、ちょっと色々あってね。でももう大丈夫さ!」


「あら、そうなの?何かあったら相談に乗るからね」


「ありがとうルイーダ!君にも紹介しておくよ。ましろちゃんです!」


「えっ!あ、あの椿屋真白です……。よろしくお願いします!」


 急に紹介されるから吃驚しちゃった。そっか、魔法使いさんはここら辺に住んでいるんだからみんな知り合いなんだ。昨日も思ったけど、結構顔広いな。


「可愛い子だね!私はルイーダって言うんだ。よろしくね!」


「は、はい!よろしくお願いします!あの、私ここで働きたいと思って今日来たんです。働くことは出来ますか?」


 もう言っちゃえ、と働きたいことまで言っちゃった。何事も勢いが大事だと誰かが言っていた気がする。


「魔法使いさんの知り合いなら歓迎だよ!ところで、ましろちゃんは何歳なの?」

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ようこそ幽霊街へ 藤川 成文 @cater

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