買い物のひととき
ロゼさんのお店を出た私達は、服屋や雑貨屋などを回った。魔法使いさんと商店街の人々は顔見知りらしく、行く先々で声をかけられていた。
「お、かわい子ちゃん連れてるじゃないか。魔法使いの旦那!」
「そうだろう!あげないよ」
魔法使いさんはウインクをしながらそんなことを言う始末。私が恥ずかしくなるから止めてほしい。切実に。自分でも顔が熱くなっていると分かった。
「ちょっと魔法使いさん……!や、やめてください」
服の裾を引っ張りながらそう言うと、彼は振り返り私の手を握った。えっ、どういうこと?思ったより手大きいなとか、温かいなとか思ってないから!う〜どうしてこんな事になってるの。
「ふふっ、林檎みたいに真っ赤だ。ましろちゃんは可愛いんだから気をつけないと駄目だよ。悪い人が連れ去っちゃうかも知れないからね」
「うぇ!?ど、どうしたんですか?そんなこと急に言い出すなんて。魔法使いさんらしくないですよ!」
「旦那そこら辺にしといてやんなよ〜!逃げちゃうぞ〜」
「そうするよ。ご忠告ありがとう。じゃあまた来るよ!」
お肉屋のおじさんとそんな会話をすると、握っていた手をぱっと離してくれた。逃げちゃうとはどういう事だろう。私は魔法使いさんのおかげでこの地に住めているんだから、逃げるも何も出ていく側なのに。
とりあえず、手を離すきっかけをくれたおじさんには感謝だ。私は感謝の意を込めておじさんに会釈をした。
「ま、待ってくださ〜い!」
先に歩いていった魔法使いさんを追いかけて走った。
「急がなくていいよ。おいで」
魔法使いさんは手の平をこちらに伸ばした。え、手を繋ぐの?あんな事があった後だから恥ずかしくて無理だよ。そんな私の心情を知ってか知らずか、「冗談だよ」と手を降ろした。瞳に影が差しているように見えたが、気のせいだろう。
今日の魔法使いさんはどうしちゃったんだろう?彼の言動にドキドキしっぱなしで心臓が持たない。このまま無事に帰れるのか少し心配だ。
胸の高鳴りに気づかないふりをして辺りを見回した。沢山のお店が道に沿って並んでいる。お店ごとにアレンジされている様子は見ていて楽しい。ロゼさんのお店も薔薇があしらわれていたし、観光地のような感じだ。
ふと、張り紙が目に付いた。ピンクの線で囲ってあり、中には"お手伝いさん大募集"と書いてある。何のお手伝いさんだろうか。目を凝らしてよくよく見ると、"パン屋さんのお手伝いをしてみませんか?"と小さい文字で書かれていた。パン屋さん!楽しそうだ。やってみたい。
「ましろちゃーん!離れると危ないよー」
遠くの方で魔法使いさんが手を振っていた。
「はーい!今行きまーす!」
彼の方へ走る。明日にでもパン屋さんに行ってみよう。いつまでもお世話になる訳にはいかないもんね。
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