薔薇色の店
今日は魔法使いさんとメインストリートに来ている。そろそろ生活用品が無くなってきたからだ。ロゼさんに貰った化粧水や乳液も底が見えてきたし、この機会に新しいものを買いたい。
魔法使いさんは全部お金を出してくれるって言ってるけど、なんだか申し訳ない。家に住まわせて貰ってるのに、物まで買ってもらうなんて穀潰しと変わらないと思う。今回は甘んじて好意を受け取ることにする。なんてったって一銭も持っていないから仕方ない。
「じゃあまずはましろちゃんの物を買おうか!化粧品のお店はここら辺の通りが多いかな」
魔法使いさんは今歩いているメインストリートの右側にある通りを指さした。そこはかとなく良い香りが漂っているし、他の通りより色鮮やかなのは化粧品を扱っているからだろうか。
その中でも一際目立っているお店があった。赤色の日差し避けの下には薔薇の花が植木鉢に埋められていた。赤い薔薇だけでなく黄色い薔薇や黒い薔薇もあった。黒色なんてあるんだ。ちょっと魔女っぽい。
「魔法使いさん、あそこの赤いお店が気になります」
「オッケー!入ってみよう。お先にどうぞ」
そう言うと、お店のドアを開けて手のひらで私が通るのを促した。話し方や動作は子どものようだけど、紳士的な一面もあるのだと思った。
「あ、ありがとうございます」
私は少し恥ずかしくてドアノブを見ながらお礼を言った。だってこんな事してくれる人今までいなかったもん!少しの罪悪感と嬉しさが胸の中でごちゃ混ぜになった。
お店の天井にも魔法の力だろうか薔薇の花が浮かんでいた。壁を見ると蔓薔薇が張り巡らされていた。このお店の主人は薔薇が好きみたいだ。
「いらっしゃい!ちゃんと見ていってくれよ。お?」
「あれ?」
「ロゼじゃないか!」
私たちは三者三様の表情をみせた。
「なんでロゼがここにいるんだい?」
「あたしの店だからさ」
ロゼさんは何でそんな簡単なことを聞くのかと言いたげな顔をしていた。通りで薔薇の花が沢山あるわけだ。これだけの薔薇好きは彼女しか見たことがない。まだあまり幽霊街に馴染んでないけれど。
ロゼさんは妖しい笑みを浮かべながらスタスタとこちらに歩いてきた。
「あの時のかわい子ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」
「化粧水が無くなったので買いに来ました!」
「なるほど。確かにそんなに量は入れてなかったな。前渡したものはここにある化粧水だ。他の物もあるから良かったら見ていってくれ」
「そうします!ありがとうございます」
取り敢えず目の前にある薄ピンク色の瓶を取った。Testerと書かれたシールが貼ってあるから、試しに使ってみることにしよう。蓋を開けると薔薇の香りが広がった。ロゼさんに貰ったものより芳醇な香りがする。
手の甲に数滴垂らして指で広げてみると、化粧水なのに乳液のような質感がした。私の肌は乾燥するからこのくらいが丁度いいかも。匂いもキツ過ぎず優しく香る所が気に入った。これとセットで乳液も買ってしまおう。
「魔法使いさん!私これにします」
「早いね!大丈夫かい?僕は急いでないからゆっくり決めてもいいんだよ?」
「大丈夫です!ロゼさんの化粧品は使ったことがあるので信頼してますし、この香りが気に入りました」
「ならいっか、うん、じゃあそれを買おうか!という事で、はいお願いします!」
魔法使いさんは私が持っていた瓶を掴むとカウンターに置いた。
「はいよ。ありがとな!2つで2400ゴートだよ。お試しでヘアオイルも付けといたからまた感想を聞かせてくれたまえ」
「ありがとうございます!」
魔法使いさんは財布から金貨のようなものを出し、ロゼさんから薔薇の絵が描かれた茶色の紙袋を受け取った。
「あ、私持ちます!」
「大丈夫!僕に持たせて」
「うーん、買ってもらったので荷物くらい持ちます」
「ましろちゃんは僕が紙袋も持てないくらい貧弱に見えるのかい?」
「違います!」
「じゃあ、僕が持ってもいいよね?」
「う、お願いします」
魔法使いさんは満足したように笑みを浮かべた。なんか負けたようで悔しい。たまによく分からない圧を出してくるのだ。今回もそれに押された。
「じゃあまた来るねー!」
「私もまた来ます!」
「ああ、待ってるよ」
ロゼさんはカウンターに片肘をついて微笑みながら手を振ってくれた。
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