幽霊街
一歩
カーテンの間から朝日が顔を出し、眩しさから顔を顰めた。もう朝か。昨日は部屋が暗くて気づかなかったけれど、薄ピンクのカーテンと花柄のベッドは私のために用意してくれたのだろうか。
魔法使いさんはこういう所で優しさを感じる人だなとつくづく思う。
ところで、なあなあのまま朝を迎えたが、ここは本当に何処なのだろうか。そろそろ真剣に考えなければいけない。まずは顔を洗いたいし洗面所に向かおう。
洗面所の水は魔法ではないらしく、捻って出すタイプの蛇口だった。私の家でさえ上下に動かすタイプの蛇口だったが、魔法使いさんの家は随分昔に建てられたのだろうか。
不思議に思いながら、ロゼさんがくれた化粧水と乳液を顔に滑らせる。肌が弱い方だから、化粧水や乳液を塗る時もなるべく刺激を与えないように優しく塗り込むのは昔からの癖だ。
木製の白いクローゼットから昨日貰った服を取り出す。今日の気分はジーンズと白いパフスリーブのブラウスだ。いつ服をクローゼットに入れたのかは考えないでおこう。きっと魔法の力だと思う。
螺旋階段を降りると香ばしい香りがした。
「あっ!おはようましろちゃん」
「おはようございます」
朝から元気で凄いと思う。低血圧の私には羨ましい。
「朝ごはんはベーコンと目玉焼きにパンだよ!デザートに林檎も用意してるからね」
「いっぱいですね。お腹に入り切るかな……」
「入らなかったらその時考えよう!」
と言いながら、魔法使いさんはお皿を手の平の上に乗せテーブルに運んでいた。
「私も手伝います!何すればいいですか?」
「じゃあ、そこの椅子に座ってほしいな!」
「え?」
「いいのいいの!運ぶだけだしね!美味しく食べてくれたら嬉しいな〜」
2つのカップを持ちながら、こっちに向かって言った。カップの中には紅茶が入っており、爽やかな香りがした。
「さあ!食べようか。いただきます」
ニコニコと言う擬音が似合いそうな顔で、真向かいの椅子に座るとそう言った。
「いただきます」
私も手を合わせると、紅茶を飲んだ。
猫舌の私でも丁度良い温度で、爽やかな香りと一緒に喉を流れた。目玉焼きは半熟で、黄身を崩すと白い部分に侵食してきた。
「今回半熟にしちゃったけど、ましろちゃんは目玉焼きはどのくらいの焼き加減が好き?」
「私は半熟が1番好きです!」
「よかった!半熟がやっぱり1番美味しいよね。ネロは固いのが好きらしいんだよ。分かってないよね!」
「ふふっ、好みですからなんとも」
白身を切り取り溢れた黄身を掬い取りながら答えた。パンにベーコンを乗せて食べると、パンの淡白さとベーコンの塩味が合わさって美味しい。最後に紅茶を流し込む。口の中がさっぱりするから紅茶は最初と最後に限る。
「「ご馳走様でした」」
「終わるタイミング一緒だったね!」
「そうですね!ふふふっ」
魔法使いさんと私は顔を見合わせて笑った。
「お皿は後で洗浄魔法にかけるから、シンクの中に置いておけば大丈夫だよ」
「分かりました!」
お皿をシンクに置いた後、椅子に戻ると林檎が準備されていた。兎の形で可愛い。
「どう?お腹にちゃんと入ったでしょ」
「ほんとですね。全部食べれてよかったです」
林檎を2、3個食べた所で聞いてみた。
「そういえば、此処って何処なんでしょうか?あまり考えないようにしてきましたが、そろそろ聞かせてください」
「やっぱり、気になるよね……。僕も話さなきゃいけないとは思ってたんだけど、きっと吃驚させるから此処に馴染んでからでもいいのかなって」
そう言うと唇を噛んだ。
「教えてください」
「分かったよ。落ち着いて聞いてね。
ましろちゃんは
……もう死んでいるんだ」
「やっぱり、そうなんですね。私考えないようにしてたけど、そうなんじゃないかって思ってたんですっ……」
「分かるよ。信じられないよね。ちょっと待ってて」
数秒後、魔法使いさんは新たに2つのカップを持って戻ってきた。カップを私の前に置く時に少し手が震えているのが見えた。優しいななんて他人事のように思った。カップの中には、最初に此処へ来た時に飲んだ甘いココアが入っていて、少しだけほっとした。
「ありがとうございますっ……私、ほんとに死んだんだって思うと、なんか、もうお母さんやお父さんに会えないんだって、感じて……。此処は私の住んでた所とは、似ても似つかないし」
「うん」
「うっ、すみません」
「いいよ。ゆっくり話して。取り敢えずココアでも飲んで落ち着いてからでいいよ。」
「ありがとうございます」
15分程経つと、落ち着いてきた。まだ、頭の中はごちゃごちゃだけれど、話せるくらいにはなった。
「ありがとうございます。落ち着きました」
「うん、よかった!えっと、説明するとね、ましろちゃんが言った通り此処はましろちゃんが住んでいた所では無い。俗に言う天国や地獄とも違うんだ」
「そうなんですか……?私てっきり天国なのかと」
「最初は皆そう言うんだ。皆の想像する天国と似てるのかな?」
魔法使いさんは微笑みながら言った。
「その、亡くなったら天国と地獄以外の場所があるって知らないので天国だと勘違いしちゃうんだと思います」
「そっか!それは盲点だった」
大口を開けて本当に驚いたと言う顔をした。
「じゃあ、まずはそこから説明しようかな」
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