薔薇の花

「ましろちゃんここに来てから動きっぱなしで疲れたでしょ?お風呂に入ってきなよ!」


 家に帰った後、貰った空き部屋で服を広げていると、声が掛かった。


 確かに疲れたし、動き回って汗をかいたかもしれないからシャワーで流したいと思っていたところだった。


「じゃあ、早速入らせてもらいます」


 あ、でも下着とかパジャマ買ってない。どうしよう。いくら魔法使いさんでもそこまでお願いできないな。


「これ、ロゼからましろちゃんがお風呂に入る時に渡せって言われたんだ。使ってね!」


 困っていると、茶色の紙袋が目の前に置かれた。


「ロゼから中は見るなって言われてるから見てないよ!」


 聞いた訳では無いのに教えてくれた。少し耳を赤くし、目を逸らして言うものだからこちらまで恥ずかしくなってしまう。なんだか、思春期の男の子みたいだ。


 私も少し目線を下げてお礼を言い、紙袋を受け取った。


 脱衣所で紙袋を覗くと赤いテープで封がされていた。覗いても中が見えないように工夫されていて、ロゼさんの優しさを感じた。テープを剥がし中を見ると、下着3枚とパジャマ2セットが入っていた。


 カンっと音がして袋の奥を探ってみると、小瓶が2本入っていた。1つは透明な液体、もう1つは白い液体だった。おそらく化粧水と乳液だろう。用意が良すぎてロゼさんには頭が上がらない。


 服を脱いでお風呂場に入るといい香りが鼻をくすぐった。湯船には薔薇が浮かべられておりお湯はピンク色をしていた。


「ふふふっ」


 魔法使いさんが薔薇のお風呂に入っているところを想像すると面白可笑しいな。


 ~~✧~~✧~~✧~~✧~~✧~~✧~~✧


 お風呂を出ると、籠の上にバスタオルが置いてあった。きっと魔法使いさんが置いてくれたのだろう。至れり尽くせりで申し訳ない。


 タオルで身体を拭き髪の水気を取る。タオルからもいい匂いがして、なんだか私よりも女子力が高い気がした。


 貰った下着の中から、今日1番よく見た赤色のものを選んだ。パジャマはピンク色にした。ふわふわだから綿かもしれない。


 化粧水と乳液を顔につけて脱衣所を出た。


「ありがとうございました。いいお湯でした」


「ゆっくり浸かれたかい?」


「はい!私、今薔薇の香りですよ」


「ふふっ、それは良かった!何にしようか迷ったかいがあったよ。おや、髪の毛がまだ濡れているじゃないか。僕が乾かしてあげるよ」


 と魔法使いさんは杖を持ちながら言った。


「ヴェント」


 風が吹き髪の毛が揺れた。


「カルド」


 もう1つ呪文を言うと風が暖かくなった。


「はい!終わったよ」


「え!もう終わりですか?」


「うん!ちゃんと乾いたよ!」


 手櫛で確かめるとちゃんと乾いていた。ものの数分で乾くなんて魔法は便利だな。


「疲れただろう?今日はもう寝るといいよ」


「はい!おやすみなさい」


「ちゃんと歯は磨いてね!」


「はーい!」



 保育園の頃のお母さんとのやり取りを思い出し、布団を頭まで被った。

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