お茶会

「さあ飲みたまえ。菓子もあるから食べるといい」


 ロゼさんは深紅のバラが描かれたカップに紅茶を注ぎ、下に専用のソーサーを敷いた。


「いただきます」


 と、皆で言うと思い思いに紅茶を味わった。爽やかな飲み慣れた味わいでアールグレイだろうと思った。白い光沢のあるテーブルの中央には、木でできた丸いお皿に山盛りのクッキーが入っていた。


 いかにも手作り感のあるクッキーを手に取り口の中に放り込んでみた。1度噛んでみると口の中でパチパチと音が鳴った。


「んーっ!」


 私は驚いたけれど、人様が作ったものを吐き出すことも出来ず、唸りながら両手で口元を抑えた。折角ロゼさんが入れてくれた紅茶だが、この不思議なクッキーを流し込むことが出来るのはそれしか無かった。


 えっどうして?クッキーだよね?それは、小さい頃駄菓子屋で食べたパチパチするキャンディーみたいだった。


「あははははっ!久しぶりに引っかかってくれたよ!」


 ロゼさんは口を大きく開け豪快に笑った。目から涙まで出る始末だ。どうやら、これは彼女の仕業らしい。


「このクッキーには魔法がかかっているんだよ。食べるとパチパチするだろう?彼女は他にもフワフワしたり、味が変わったりするお菓子を作ってるんだ」


 人差し指を立てながら魔法使いさんが教えてくれた。皆、クッキーの魔法について知っていたのにわざと私に話さなかったようだ。


「最初に食べる時、言うのはいけない決まりなんだ。すまない」


 と、続けて口元に笑みを携えてネロさんが言った。ララちゃんとルルちゃんも頭を上下させ、うんうん頷いていた。


「私はまんまと引っかかったってことですね」


「あははっ!ゼノは引っかからなかったから面白みがなかったもんな!久しぶりに楽しめたお礼に、このクッキーを君にあげよう」


「明らかに怪しい雰囲気のクッキーを誰が食べるんだい?」


 訝しげな顔をして魔法使いさんが言った。


「私とかですね!!ありがとうございます!」


 魔法使いさんの失礼な疑問に答え、ロゼさんにお礼を言った。ロゼさんはベルトに刺していた杖をクルンっと回し、クッキーを透明な袋に包んだ。


「じゃあ、今回のご用件を伺おうかな?」


 クッキーを包んだ後、ロゼさんは見定めるような目をして訪問の理由を問うた。

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