幸せな魔法

「そういえば、君の名前をまだ聞いていなかったね」


 魔法使いさんはココアの入ったコップをことりと置いた。


「ましろです。椿屋つばきやましろ」


「ましろ、ね。いい名前だ」


 魔法使いさんはうんうんと頷いて、私の名前を復唱した。


「よろしくましろちゃん!」


「よろしくお願いします」


 彼が差し出した左手を握った。私の手を包み込むように彼の右手が被せられた。思っていたよりも大きな手で、可愛い顔をしているけど、男の人なんだなと握られた手を見て思った。


 彼はぱっと手を離すと言った。


「ましろちゃんは行くところある?」


「行くところですか?」


「うん、そう。住む家とかそういう感じの」


「ごめんなさい。まだここがどんな所か分かってなくて。私多分違う町から来たと思うんですけど」


「あぁ、そっか!なるほどねそこからか」


 彼は顎の下に手を置いて目を細めた。


「よし!じゃあまずはこの街を一緒に回ってみようか。ちょっと待っててね」


 そういうと立ち上がって奥の部屋に入っていった。


 数分たった頃、彼は奥の部屋から戻ってきた。ベージュ色のコートといかにも魔法使いって感じの帽子を被っていた。コートは新品みたいに綺麗だけれど、帽子は少し汚れていた。


「お待たせ!そのままじゃ肌寒いかもね。えい!」


 杖を振ると光の粒が周りを覆い、私の服は白色のワンピースとラベンダー色のカーディガンに変わった。


「可愛い……。ありがとうございます!」


「よかった!服には自信がなくてね。似合いそうな可愛い色を選んでみたんだ」


「ふふっ、ありがとうございます。魔法使いさんからすると私は可愛い女の子なんですね」


 私がそう言うと彼は耳朶を赤くして、えへへと笑った。あら、可愛い。私も釣られて笑った。


「ましろちゃんはそうやって笑っていた方が可愛いね」


 器量の良い顔を綻ばせてそう言った。今度は私が赤くなる番らしい。恥ずかしくなって視線を落とした。



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