ココア

 魔法使いさんはポットのお湯を注ぐとこちらを見た。


「魔法使いなのにココアは自分で入れるんだって思った?」


 私は頷いた。


「ふふっ、だよね。よく言われるんだそれ」


 形のいい唇を三日月型に動かしてそう言った。


「僕ね、全てに魔法を使いたくないんだ。物を引き寄せたり動かしたりする時は便利だから使っちゃうけど、動きの完結は自分の手でやりたいんだ」


「なるほど、だから粉は自分で入れたんですね」


「そうそう。魔法が使えるなら全部魔法使っちゃえばいいのにってよく言われるけどね」


 彼はふふっと笑いながら言った。


「でも、分かる気がします。自分の手でやって初めて感じることとかあると思うんです」


 私がそう言うと彼は目を丸くした。


 どうしよう。なにか変なことを言ってしまっただろうか。


「あぁ、ごめんね。昔似たようなことを言われたことがあるんだ」


 不安が顔に出ていたのだろうか。微笑みながらそう答えてくれた。よかった。気分を害しているわけでは無さそうだ。私はふうと息を吐いた。


「いえ、こちらこそすみません。何か気に障るような事を言ってしまったかと」


「全然!そんなことないよ!ただ、嬉しかったんだ。この考え方を分かってくれる人ってなかなかいないから」


 ありがとう。そう言って彼は微笑んだ。

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