第45話 親族会議と昔の話
俺の挨拶に真っ先に反応したのが、あの恰幅の良い男性だった。
「……ほう、お前さんがほのかちゃんの婚約者かい。こう言っちゃなんだが、随分と普通に見えるな。……おっと、自己紹介がまだだったな。儂は『坂田家』当主、坂田
「そうですね。『橘』とは聞いた事がない家ですが、何をされていらっしゃるのでしょうか?……ああ、申し遅れました。私は『卜部家」当主、卜部
続けて口を開いたのが、紳士然としたあの男性だった。
……そうか。この二人が『坂田』と『卜部』か。
時次郎さんははっきり言って、かなり見た目が怖い。
顔つきなどはその筋の方かと思うほど厳ついし、体型もしっかりと筋肉がある相撲取りのような体で圧迫感がある。
口調は堅苦しくなく気のいいおじさんっぽいが、とにかく圧が凄い人だ。
武敏さんの方は、細身の長身で口調も穏やかな方だ。
見た目も柔和で落ち着いた雰囲気のある、これぞ紳士といった人物だ。
良くも悪くも、好対照な二人ではある。
次に話しかけてきたのは、渡辺本部長とその父親だった。
「ほのか嬢、橘、久し振りだな。いや~、まさか二人がそんな関係になってるとはな。昨日連絡をもらったときは驚いたぜ、本当にな」
「……なるほど、君が橘くんか。私は『渡辺家』当主、渡辺
「馬鹿息子はねーだろ、親父。それに橘とほのか嬢がこうなっちまったのは、自然の流れってもんだろ?俺を巻き込むなよ」
「元々お前が最初に変な頼みをしなければ、このような事態にはなっておらんのだ。少しは反省せんか!」
「反省する気はねーよ。俺は上司として適切に行動しただけだからな。それにほのか嬢が不幸だってんなら文句言われても仕方ねーけど、どっちも幸せそうじゃねーか。むしろ感謝されてもいいぐらいだろ?」
「……全く、お前という奴は」
真玄さんは、本部長が年を重ねて落ち着いたらこうなるだろうなって感じの人だ。
見た目は親子だけあってかなり似てるし、厳しさもあるが優しさもあるようなそんな雰囲気の持ち主だ。
「あまり気にされないで下さい。俺としては本部長の計らいは本当にありがたかったですし、ほのかさんとこうなれたのは確かに本部長のお陰でもありますから」
「ほら見ろ。あ、それと橘、本部長は止めろ。遠縁とはいえ親戚になるんだし、俺の事は剛志でいい。代わりにお前の事は公平って呼ぶからな」
と、会社ではそれなりに威厳のある人なのだが、どうやらこちらの方が素らしい。
非常に砕けた様子で、気軽に俺に話しかけてくる。
そんな俺達の会話を聞いて立ち上がったのが、『碓井家』の連中だった。
「待てッ!それでは、このような事態になった原因は剛志にあるのか?」
優一がそのように糾弾すれば
「貴方がこんな余計な真似をしたのねッ!そうでなければ、優一がほのかさんを妻に迎えていたというのにッ!!」
「百合子の言う通りだ!。このような
『碓井家』の当主と、その妻の百合子という女性が真玄さん達に詰め寄る。
だが
「
真玄さんがそう『碓井家』の当主に返すと、剛志さんも負けじと
「言いがかりもいいとこだな。それに原因って事なら、『渡辺』じゃなくて『碓井』にこそ原因があるだろうが!」
と言い返した。
優一は
「『碓井』に原因がある、だと?それこそ言いがかりだ!このような連中と『碓井』には何の関係もないッ!」
と言い切った。
それを聞いた剛志さんは頼彦さんに
「……頼彦様。丁度良いので、この度の顛末を皆に説明させていただきたいのですが構いませんか?」
そう問いかけると
「構わん。調べた事を全て話せ」
頼彦さんが許可を出して、今回のきっかけから話し始めた
「まず最初のきっかけは、正彦がほのか嬢との婚約を断わったからだ。なぜ断わったかといえば……」
そうして正彦さんと綾姉の事、結婚相手として『碓井家』が綾姉を認めず正彦さんが『碓井家』と絶縁した事、幸が生まれた事、そして二人が事故で亡くなった事まで話し終えた。
「公平は綾音ちゃんの弟だ。両親を亡くした幸ちゃんを引き取って暮らそうって時にそこの優一と弟の賢二が葬式に来て、随分な暴言を吐いたらしいな、お前等」
それを聞いた優一は
「ち、違う!そのような事実は無い!出鱈目だッ!」
うろたえながらも反論したが
「往生際が悪いんだよ!それとも『渡辺』が調べた事が嘘だって言うのか、お前?」
そう剛志さんに言われると黙り込んでしまった。
後に知った事だが、『渡辺家』は情報収集やそのセキュリティーの専門家だそうで、水本グループでは絶大な信頼を置かれているのだそうだ。
「公平、何を言われたか話してくれ。……優一、俺はこの報告を受けた時お前等兄弟をブン殴ってやろうかと思ったぞ」
剛志さんに促されるが、俺は一度幸を見る。
……正直、あの時の事を幸に思い出させたくない。
だけど幸は、俺の手をぎゅっと握り
「大丈夫だよ、こうちゃん。幸にはこうちゃんとほのちゃんがいてくれるもん」
と、微笑んでそう言った。
「……分かりました。あの時の事をお話します」
幸の笑顔に後押しされて、俺はあの葬式の日にあった事を話し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
正彦さんと綾姉の葬儀はつつがなく進んでいった。
今回は俺の身内も幸以外いなかったので家族葬で執り行う事となり、それ以外の参加者は正彦さんが社長を務めていた会社の人達だけだった。
俺一人ではどうしようもなかったので、会社の皆さんや葬儀会社のスタッフさん、お世話になっているお寺の住職さんには感謝してもし足りない。
そんな中、一つ問題が起こった。
正彦さんと綾姉を火葬する事を幸に告げると、幸は泣き叫んでしまったのだ。
これまでも二人が亡くなった事を告げた時も、二人の遺体と対面した時も泣いていたのだが今回は
『やだッ!止めてよッ!パパとママが熱くてかわいそうだよッ!!』
と、半狂乱になってしまった。
まだ幼い幸を言葉で納得させられるはずがない。
どうにか泣き止まそうとしたが、幸の気持ちを考えれば泣き止みはしないだろう。
結局葬儀会社の女性スタッフに残ってもらい、俺を含めた他の全員で火葬場に向かった。
幸を残したのは、二人が骨になる姿が耐えられないと判断したからだ。
俺も二人のあまりに急すぎる死に精神的にもギリギリの状態であったし、他に頼れる親族がいなかったというのも理由の一つだった。
そのまま二人の骨を拾い、繰上げで初七日の法要も行う為に葬儀会場に戻った。
そこで俺が見たのはスタッフに制止されているにも関わらず、口汚く正彦さんと綾姉の悪口を言っている男達の姿だった。
「馬鹿な弟だ。あのような女と結婚などするからこのような目に会うのだ」
「全くだな。素直に縁談を受けていれば良かったのに。俺達の忠告を聞かないから、こんな貧乏臭い葬式しか挙げられない家の女に引っ掛かるんだ」
「止めてください!ここにはお二人のお子さんもいらっしゃるんですよ。その場所で死者を罵倒するなど、貴方達には情というものが無いのですか?」
幸を預けた女性スタッフが必死に訴えるが、男達は薄ら笑いを浮かべ
「情ならあるぞ。もっともあの女のように、何処の馬の骨とも知れない人間にかける必要を感じないだけだがな」
「当然だな。我々『碓井』の人間とこの女が同等のはずがないだろう。全く、そこのガキにも『碓井』の血が混じってると思うと吐き気がするぞ」
そう言って、呆然としたままの幸に汚いものを見るような目を向けたのだった。
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