第42話 それぞれの言い分

「ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません」


「うむ。騒がしいようだったが何かあったのか、遥?」


「それに関してご説明させていただきます。その上でお父様に裁定をお願いしたいのですが」


 遥ちゃんの合図で俺と幸、優一、使用人と順番に部屋に入ってゆく。

 そして優一の姿を確認した水原家の方々は、一瞬眉を顰めた。

 まあ、どう考えても呼んで会いたい相手じゃないだろうからな。


 それに対し優一は


「ああっ、ようやくお会いできました。あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します、ほのかさん」


「……ええ。おめでとうございます、優一さん。よろしくお願いしますね」


 と、優一は満面の、そしてほのかさんは明らかな作り笑顔で挨拶していた。

 そして俺を横目で見て勝ち誇っていたのだが、哀れな奴だ。


 そして一同席に着いてからの事情聴取となったのだが


「お待ち下さい!何故私がその連中よりも下座なのですか?私は『碓井家次期当主』なのですよ?」


 優一が文句を言っていたが、頼彦さんに一喝されて渋々座った。


「それで、一体何があったのだ?大声で騒ぐ声がここまで聞こえたぞ」


 頼彦さんの質問に優一は


「お聞き下さい、頼彦様。まずこの使用人は……」


 と、いかに自分は正しく、周囲が間違っていたかを長ったらしく説明し続けた。


 まあ要約すると


『ほのかさんに会いに来たのに使用人が邪魔をした。その無礼さを優しく咎めながら二階に上がると俺がいて、自分を一方的に口汚く罵ってきたので叱責していたところに遥さんが来て、裁定を頼彦様に委ねようという事になった』


 という事だ。


 ……凄いな、こいつ。俺からの反論も目撃してた使用人の証言もある上に、少なくとも俺と幸に対して『捻り潰す』『地獄を見せる』って言ってたのは遥ちゃんも聞いてたのにな。


 続いて俺からの反論だが、事実をただ述べただけだった。


「洗面所から出て幸達を待っていたら、階段の方が騒がしかったので近づいてみると真田さんの制止を振り切って二階に上がろうとしてる奴がいた。それが優一で俺に対し『何故貴様如きがここにいる』的な事を言われたが、真田さんが騒がないように注意したから距離を取った。その後幸にまで両親を含め侮辱する言動があったので言い返したら、遥ちゃんが場を納めて頼彦さんに裁定を委ねる事になった」


 と説明したが、加えて


「言ったように、二階での騒動は主に俺と優一によるものです。真田さんはそれを止めようと動いていましたので、それに関しての責任は無いものと思います」


 と証言しておいた。

 だって、真田さんまで責任を問われる必要ないだろう?

 この馬鹿が勝手に侵入した挙句、俺と優一に因縁があったからこんな事態になったんだから。


 そして真田さんの証言が始まった。


「私が玄関ホールで仕事をしておりましたら、碓井様が訪れまして『ほのかさんが帰ってきたと聞いた。すぐに会わせろ』と申されました。アポイントもありませんでしたので『本日はすでにプライベートな時間となっております。翌日アポを取られてからお越し下さい』と申し上げたところ『使用人風情が生意気なッ!』と申されお止めしたのですが二階に上がられました。後は橘様の証言通りです」


 それを聞いた頼彦さんは優一に問いただす。


「優一、お前だけ二人とは言い分が違っているようだが、これはどういう事だ?」


「頼彦様、このような者共を信用してはなりません。大方私に罪を擦り付けようと、互いに共謀したのでしょう」


「……馬鹿か、お前。俺と真田さんが口裏合わせてないのは、遥ちゃんが確認してるだろうが。そもそも真田さんは、お前が二階に上がるのを止めようとしてたんだぞ。真田さんが嘘吐いてるって言うのなら、お前が止められた理由を言ってみろよ」


 俺の指摘に動揺を見せるが、それでも優一は


「そのような些細な事などどうでもいい!どうせ何を言ってもその女は私が嘘を吐いていると言うに決まっている。ここで重要なのは、『婚約者候補』である私がほのかさんに会いに来て、それを邪魔されたという事実だッ!」


 などと言っている。


 当然、水本家の方々は冷ややかな目で見ているし、そもそもこんな事で嘘を言って客を貶める人間が、この家で使用人をやれるはずがないだろうに。

 ここの使用人も元は『水本家』の家臣だっていう話だし、『碓井家』にとって自分達より格下で自然に見下してた相手だから、反抗されたのが許せないのだろう。


「……なるほど。つまり貴方は、うちの使用人とお招きしたお客様が嘘を吐いているとそう仰るのですね?……私も貴方が、公平義兄様とさっちゃんに暴言を吐いているのを目撃しているのですが?」


 笑顔なのに目は笑っていない顔で、優一に問いかける遥ちゃん。

 ……こういうところに『水本家』の血を感じるよな。


「い、いや、それはッ!そ、それよりも遥さん、今この連中の事を何とお呼びになって……」


 焦った様子で言い訳を始めそうになった優一だが、遥ちゃんが俺と幸の事を『公平義兄さま』『さっちゃん』と呼んでいる事にようやく気付いたが


「ああ、そういえば貴方に紹介するのは初めてでしたね。ご存知だとは思いますが、こちらは橘公平さん。正彦さんの義弟でです。そしてこのが橘幸ちゃん。公平さんと結婚したら私の義娘むすめになる女の子です。二人が大変お世話になったようですが、何か申し開きはありますか?」


 遥ちゃんと同じ顔をしたほのかさんに問い詰められて、青い顔をしている。

 さて、それでは『水本家』の方々によるお説教の時間だ。

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