第27話 クリスマスプレゼント

 時間は少し遡って、先週の事となる。


 幸のプレゼントは、既に予約しておいたので問題は無い。

 なので問題は、ほのかさんへ贈るサプライズプレゼントの方だ。

 これまでの感謝を込めて贈り物をと考えたのだが


(……困ったな。何を贈ればいいのかさっぱり分からん)


 こういう時、これまでの人生で彼女を作る余裕がなかった自分が恨めしい。

 残念ながら学生時代は学業にバイトにと忙しく、恋愛している暇がなかったのだ。

 そのお陰で女性に何を贈れば喜んでもらえるのか、全く分からない。


 正確に言えば、化粧品とかお菓子を贈るのが無難なのは分かっている。

 だが、ほのかさんは幸を救ってくれた恩人だ。

 その感謝を表す品が、無難なものというのはどうかと思うのだ。


(……仕方ない。ちょっと反則ぎみではあるが、ここは助っ人の力を借りよう)


 そう考えて、俺は助っ人と相談すべく電話をかけるのだった。





       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 そしてクリスマス当日、助っ人の力を借りたほのかさんへのプレゼントをお店に取りに行く。

 個人的にはこんなものでいいのだろうかと思うが、助っ人曰く


『幸平さんからの贈り物だったら、あの子なら大体喜ぶわよ。個人的には指輪とかでも全然良いんだけどね。まあ、実用性が高くていつも使えるものの方が良いわ』


 との事だった。

 それを踏まえて品物を選んだのだが、選んだものを伝えると妙に楽しげだったのが気になる。

 ちなみに助っ人への報酬は、あちらが用意した幸用のサプライズプレゼントを渡す事だった。

 ……その程度で良いんですかね、巴さん。


 俺とほのかさんが用意した幸へのプレゼント、巴さんから預かったプレゼント、そしてほのかさんへのプレゼントを持って家に帰る。

 まだ幸を迎えに行くには早い時間なので、帰ったらほのかさんへプレゼントを渡して、幸用のプレゼントは空き部屋に隠しておいて今晩枕元に置いておこう。


「ただいま帰りました」


「お帰りなさい。……って、何ですかこの荷物は?」


 ほのかさんが呆れているが、それも仕方ない事だろう。

 俺達が選んだのは抱き枕を兼ねた大きめのぬいぐるみだが、巴さんが用意したのは包装されているが、中身は某ウサギの家族の人形(家付き)だ。

 ……詳しく知らないが、確かこれってそこそこのお値段がしたような気がする。


 俺とほのかさんで選んだぬいぐるみは別にあるので、じゃあこれは誰のプレゼントだって話だし、表情を見るに既にほのかさんは察しているようだ。


「公平くん、一応聞いておきますが、これは一体なんですか?」


 誤魔化す事など不可能なので、その原因となったほのかさんへのプレゼントを先に手渡す。


「すいません。これまでのお礼にとほのかさんにプレゼントを用意したんですが、巴さんにはその相談に乗ってもらったんです。それでその代わりに幸へのプレゼントを渡す約束をしまして……」


「……これを、私にですか?」


「はい。開けてみてください」


 リボンが結ばれた紙袋を開けると、その中には


「エプロン、ですか」


「はい。こういう贈り物ってした事ないので、お菓子か化粧品にしようかとも思ったんですが、駄目でしたか?」


 俺はよく知らないが、一応ブランド品ではある。

 何故エプロンなのかといえば、ほのかさんはいまだにうちで料理する時には綾姉の使っていたエプロンを使用していたからだ。

 綾姉とほのかさんではサイズが大分違うので、俺としては使いにくそうに見えたのも理由の一つだった。


 値段は一万円程で、デザインはシックな色合いながらも大き目のリボンで可愛らしさもあるものだ。

 他のエプロンの中には、派手な柄だのフリルが一杯ついたものだの色々あったが、ほのかさんならこっちの方が似合うと思った。


 そのほのかさんだが、エプロンの入った紙袋を抱きしめながら何故か照れた様子でこちらを見ている。


「……その、どうしてエプロンだったんですか?」

 

「ん~、特に理由は無いんですが、やっぱりほのかさんは台所で料理してる姿が印象に残っていたので贈るならエプロンかな、と」


「……それじゃ、母様から話を聞いた訳ではないんですね?」


「形の残らないものより、形に残るもので実用性が高い方が良いとアドバイスは受けました。それで直感でエプロンにしたんですが……まずかったですか?」


「いえ、公平くんが選んだのなら問題ありません。ありがとうございます。使わせていただきますね」


 よく分からないが、喜んでもらえたのなら幸いだ。

 他のプレゼントを空き部屋に隠し戻ってみれば、ほのかさんも紙袋を持ってこちらを待っていた。


「えっと、どうぞ公平くん。こちらが私からのクリスマスプレゼントです」


 手渡された紙袋を開けると、中には暖かそうなマフラーが入っていた。


「これを、俺にですか?」


「はい。今年の冬は寒いらしいですから、暖かくして風邪を引かないようにと」


「ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」


「……本当はさっちゃんが寝た後にでも渡そうと思っていたんですけど、まさかこのタイミングで公平くんからプレゼントをもらうとは思っていなくて」


 少し恥ずかしげなほのかさんが可愛い。

 その後、二人で飾りつけなどパーティーの準備をして、幸を迎えに行くのだった。




「ただいま帰りました」


「たっだいまー!」


「お帰りなさい。公平くん、さっちゃん」


 帰ってきた俺達をほのかさんが出迎える。

 いつもの様に幸がほのかさんに抱きついて、ほのかさんに抱きしめられている。


「あちらのパーティーは楽しかったですか、さっちゃん?」


「うん!お料理も美味しかったし、みんなでいっぱい遊んだんだよー」


「そうですか。良かったですね、さっちゃん」


「あのね、かけるくんがね……」


 そのまま今日の事を話そうとする幸だが


「とりあえずここは寒いから部屋に行こう。幸の話はそこで聞くからな」


「二人とも、その前に帰ってきたら……」


「「うがい手洗いを忘れずに、です」」


「はい。良く出来ました」


 よし、今度はうちのクリスマスパーティーだ。

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