第26話 幸とクリスマスパーティー

 あれから少し経って、十二月となった。

 特別大きく変わった事は無いのだが、強いて言うなら一時期ほのかさんとの距離が微妙な時期があった。

 何故か話しかけても会話が続かず、あまり目を合わせてくれなかったのだ。


 幸に


『……こうちゃん、ほのちゃんに何かしたの?』


 と、疑いの目を向けられたが全く身に覚えがない。

 ほのかさんに直接聞いても


『なんでもないんです。……ちょっと心の整理が足りてないだけなので』


 との事で、しばらくしたら元通りになった。

 ……結局何だったんだろうな、あれ。



 そして後二週間ほどでクリスマスという頃


「あのね、かなちゃんとゆいちゃんとかけるくんと一緒にパーティーしたいの」


 幸が夕食後にそんな事を言ってきた。

 なんでも保育園で三人で遊んでいたところ、結衣ちゃんが


『ねえねえ~、みんなクリスマスはどうするの~?』


 と聞いてきたので


『うちは、夜にケーキとかちょっとしたご馳走食べて終わりかな』


『おれんちもだな。ふつうそんなもんだろ』


『幸もそうだよ。こうちゃんとほのちゃんと一緒においわいするよ』


 三人がそう答えたら、結衣ちゃんが


『だったら、おひるはうちでパーティーしない?パパとママがおともだちをよんでもいいっていってたの~』


 と言ったらしい。

 翌日三人の母親と一緒に話させてもらうと


『結衣がいつも遊んでる三人を招待したいって言いまして~。もしよろしければどうかと思ったんですよ~。丁度日曜日がクリスマスですから~』


 と、結衣ちゃんが成長したらこうなるだろうな、って感じのおっとりした篠原さんが話すと


『うちは構いませんが、ご迷惑じゃありませんか?年末の忙しい時期ですし』


 これまた佳奈ちゃんを大人にしたら、という感じの生真面目っぽい斉藤さんと


『うちの翔がお邪魔してもいいんですかね?よそのお宅でご迷惑をおかけしないか、それが心配で心配で……』


 なかなか豪快な感じのする結城さんが、その辺りを心配していた。


 もちろんうちだってそうだ。

 幸の事を思えば、友達と一緒にパーティーはさせてやりたい。

 だが、その負担を篠原さんに押し付ける形になるのはどうかと思うのだ。

 そして話し合いの結果


『それではうちで基本的な食事は用意しますので~。子供と一緒に決められた料理を一品と~、交換用のプレゼントを持って来てくださいね~』


 結局チキンやケーキ、飲み物といったものは篠原さんが用意して、斉藤さんはサンドイッチ、結城さんはポテトサラダ、うちはミートパイを用意する事となった。

 当然俺に作れるはずがないので、ほのかさんに相談した上でだ。


 当日は篠原さんのお宅に十一時に集合、子供を預けて保護者は一時帰宅。四時頃の解散を目処に迎えに行くといった寸法だ。

 それを聞いた子供達は


「「「「やったあああぁぁぁ!!!!」」」」


 と大喜び。後日俺とほのかさんは幸のプレゼント選びに付き合わされたのだが、俺が疲労困憊であったのに対しほのかさんは平気だったあたり、男女の買い物に対する性能というかこだわりの違いを感じさせられた一件ではあった。




 そしてクリスマス当日、幸はいつもよりも気合を入れておしゃれしている。

 本来であれば日曜なのでほのかさんが来る日ではないのだが、


『カレーを作らなくていいですし、前日に下準備しておいて当日作った方が美味しいですから』


 との事で、土曜日に下準備して日曜日の朝にうちに来てミートパイを作っている。

 そして俺は幸を送り届けた後、幸へのクリスマスプレゼントを買いに行く予定だ。

 出来れば何が欲しいか教えてくれれば良かったのだが


『ないしょだよ。サンタさんへのお願いだから、こうちゃんには教えられないもん』


 俺はおろかほのかさんまで撃沈してしまったので、ほのかさんと相談して幸の好きな動物のぬいぐるみを贈る事に決まった。

 その間にほのかさんは今晩用の料理を作って幸の帰りを待ち、三人だけでささやかなクリスマスパーティーを行う事となっている。


 ちなみにうちでのパーティーに関しては、巴さんが強く参加を希望したが


『父様にはまだ内緒なんですよね。なのに母様が子供向けのプレゼントとか用意してたらおかしいじゃないですか。という訳で母様は参加禁止です』


『ずるいわよ、ほのかばっかり!私だってさっちゃんにプレゼントしたいの!喜ぶ顔が見たいのよ!』


 というやりとりがあり、幸の写真を送る事を条件に泣く泣く諦めたらしい。


 そうこうしている内に、幸の準備が整い篠原さんの家に向かう時間となった。


「準備出来たか?忘れ物もないな?」


「うん!プレゼントもあるし、お料理もこうちゃんがもってるよ!」


「よし。……それじゃ行ってきますね、ほのかさん」


「行ってくるねー、ほのちゃん!」


「はい。行ってらっしゃい、公平くん、さっちゃん」


 ほのかさんに見送られて、篠原さんの家を目指す。

 立地的に保育園から遠い順に、橘家、斉藤家、篠原家、結城家の順になる。

 行く途中で斉藤さんと合流したのだが、佳奈ちゃんと一緒になった幸のテンションは高まる一方だ。


 俺と斉藤さんはそんな二人を見守っていたのだが、二人に聞こえないように


「……元気になってよかったですね。佳奈も結衣ちゃんも翔くんも、さっちゃんが落ち込んでた時、泣きそうなくらい心配してたんですよ」


 斉藤さんが小声でそう教えてくれた。


「……ご心配をおかけしました。まだ完全に、とはいかないですけどどうにかやっていけてます」


「困った事があれば相談してくださいね。さっちゃんは佳奈の親友ですから」


「ありがとうございます。幸もきっと喜びます」


 篠原さんの家に到着した時、篠原さんと結城さんにも同じ様な事を言ってもらえた時には、少し目頭が熱くなった。


「それじゃ、幸の事よろしくお願いします」


「は~い、それじゃ四時頃に迎えに来て下さいね~」


 こうして篠原家を後にして、俺は幸へのプレゼントを買いに行くのだった。

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