第22話 巴、デレる
「ねえねえ、ともえママ。ほのちゃんって小さいときどんな子供だったの?」
「……そうねえ、ほのかは子供の頃から負けず嫌いだったわね。遊びで負けたら自分が勝つまで『もう一回、もう一回』ってしつこかったもの。そのくせこっちが手加減したのが分かったら不機嫌になるんだから大変だったわ」
「……母様、あまりさっちゃんに変な事吹き込むのは止めてくださいね」
「ほのかさん、落ち着いて。大丈夫、幸はほのかさんの事大好きですから」
あの後家に入ってもらい、もう一度自己紹介をした。
『改めまして水本巴です。いつも娘のほのかがお世話になっています。どうか今後とも仲良くしてやってくださいね』
『ご丁寧にどうも。橘公平と申します。ほのかさんには会社でも家の事でもお世話になりっぱなしで、こちらの方こそ大変ご迷惑をおかけしています。姪の幸も大変よく懐いて、いつも美味しい料理まで作ってもらっています。どんなにお礼を言っても足りないくらいの恩人で、いつも本当に助けていただいています』
『えっと、橘幸です。四歳です。ほのちゃんとはお友達です。いつも美味しいごはんを作ってくれて、遊んでくれるほのちゃんが大好きです!』
このような自己紹介を済ませた後、昼食の時間だという事でほのかさんが手早く作ったお昼ご飯を食べて、お茶を飲みながら雑談している。
その際に
『しっかし、どう見てもほのかさんのお母さんには見えませんよ。完全にお姉さんか従姉だと思ってましたし』
『まあ、お上手ね。ふふふ、ほのか。お姉さんだって』
『……公平くん、母様が調子に乗るのでそういうのは言わなくてもいいですよ』
それを聞いた幸が
『かあさまってママのことだよね。それじゃ『ともえママ』って呼んでもいい?』
と言い出し、巴さんが許可を出してみたところ
『えへへ。ありがとう、ともえママ!』
そう幸が呼んでみると、巴さんは少しよろめいた後
『……ねえ、さっちゃんをうちにお持ち帰りしたいんだけど駄目かしら?』
大真面目な顔でそう言ったのだった。
俺が反対、ほのかさんが大反対、幸も
『ごめんね、ともえママ。幸のおうちはここだから』
とお断りをいれたので、その代わりと言ってはなんだが、現在幸は巴さんの腿の上に座って後ろから抱きしめられている状態だ。
「あ~、もう!可愛いわ~、可愛いわ~。さっちゃん本当に可愛いわ~」
「えへへ~。くすぐったいよ~、ともえママ」
幸もほのかさんのお母さんという事で、巴さんにすんなりと懐いた。
そして巴さんは幸の事を大層気に入られたようで、ニコニコしながら幸を可愛がっておられる。
「……何というか、こんな母ですいません、公平くん」
「いえ、幸も楽しそうですから。俺もご家族の方に一度挨拶したかったので、むしろありがたかったですよ」
「そう言っていただけると、本当に助かります」
ほのかさんは凄く申し訳なさそうにしているが、俺としては本当にありがたい。
ほのかさんの事でお礼を言っておきたかったし、幸も巴さんに可愛がられてあんなに楽しそうにしているし。
「でもほのかさん、そろそろ買い物に行かないとまずい時間ですよね」
「そうですね。平日なら夕飯だけでいいので余裕があるんですけど、今日はカレーも作らないといけないので結構ギリギリですね」
隣に座っているほのかさんと話した後、向かいでじゃれあう幸と巴さんを見る。
「はい、さっちゃん。あ~ん」
「あ~ん。えへへ~、おいしいね、ともえママ」
巴さんにクッキーを食べさせてもらいご満悦な幸。
そして幸にクッキーを与えて、その可愛さを満喫されている巴さん。
……どうするかな、これ。
買い物するには献立を決めているほのかさんは必須。
そして土曜日なので荷物持ちとして俺も必要だ。
いつもなら、幸を一人で留守番させるのも忍びないので一緒に連れて行くのだが、今日は巴さんというお客様がいる。
流石に巴さんだけ残して買い物という訳にもいかず
「なあ、幸。そろそろ買い物に行かないといけないんだが、今日は巴さんと留守番しててくれないか?」
「ええ~~!!やだよ、幸もお買い物行きたいよ!」
「いや、でもな、幸。巴さん一人残すのも可哀想だろ」
俺の言葉を聞いて、幸は悲しそうな顔で巴さんを見る。
すると巴さんは
「だったら皆でお買い物行きましょう。もちろん私も一緒に」
と笑顔で仰ったのだった。
「おっかいもの、おっかいもの」
「おっ買い物、おっ買い物」
「……母様、さっちゃんはともかく母様がするのは恥ずかしいので止めてください」
右手をほのかさん、左手を巴さんに握られて幸は上機嫌だ。
「ねえ、さっちゃん。まずはどこに行くのか教えてくれる?」
「うん!えっとね、さいしょはおばあちゃんのお菓子屋さんだよ!」
そして幸が嬉しそうなので、巴さんもまた上機嫌だ。
こうして皆で商店街へと買い物に向かった。
「あー楽しかった。商店街の人達も良い人ばかりで済みやすい町よね、ここ」
「すごかったねー。ともえママ、皆におまけしてもらってたもんね!」
「……ううぅ、今度からどんな顔してお買い物すればいいんでしょうか?」
「えっと、ほのかさん。大丈夫ですよ、お店の人達も楽しんでましたから」
巴さんはどのお店でもほのかさんの母親である事で話題を掴み、持ち前の人当たりの良さであっという間に親しくなって、ほとんどのお店でおまけしてもらっていた。
その度にほのかさんが恥ずかしそうにしていたのだが、多分それも含めてお店の人はおまけしてくれたのだと思う。
こう言っては何だがあの商店街、皆ノリはいいからな。
そして俺達は大量の荷物と共に帰宅するのであった。
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