第20話 お見合い話と事情聴取
とある平日の夜、橘家から帰宅した私に一本の電話がかかってきた。
スマホのディスプレイには『母様』の文字。
……珍しいな。滅多に電話をかける人ではないのだけれど。
「……もしもし、こんな時間にどうしたんですか、母様?」
『出るのが遅い!何かあったのかって心配したでしょう?』
「……いえ、急にそんな事を言われましても……」
母様らしいといえば母様らしいけども。
『まあいいわ。それよりほのか、元気にしてる?何か変わりはない?』
「ええ。元気ですし特に変わった事もありませんよ」
私がそういうと、母様の口調が変わった。
『……ふ~ん、そう。ほのかに恋人ができたって聞いてたんだけど、勘違いだったのかしら』
「……ちょっと待って下さい。それってどういう事ですか。誰に聞いたんですか?」
『ん?剛志くんよ。ほのかに恋人ができたみたいだって言ってたけど、違うの?』
……そうですか、そうですか。
「違いますよ。恋人なんてまだいません。……ちなみに、それって父様も知ってるんですか?」
『知ってる訳ないでしょ。もしそうなら、私より先にほのかに連絡してるわよ』
「……そうですね。父様ならまず間違いなくそうするでしょうし」
『そうそう。あ、それとたまには家に帰ってきなさい。ほのかがあまり帰らないってぼやいてたわよ』
確かに最近は、公平くんとさっちゃんの事で忙しくて帰っていなかったな。
「分かりました。近々顔を見せに帰りますよ。用事ってそれだけですか?」
『まあ半分はね。それよりほのか、恋人がいないのならそろそろお見合いの件進める事になるわよ。貴女だってもういい年齢なんだから』
「……待って下さい。どうしてそういう話になるんですか、母様」
『恋人いないのよね。なら親として心配するのは当然でしょ?』
「心配していただかなくても結構です!お見合いの件も断わってください!」
大体、お見合いなんてしてたら公平くん達と居られる時間が減るじゃないですか。
それに、結婚するつもりもないのにお見合いだなんて不誠実ですよ。
……候補者だってまだ子供だとか、性格に難ありとかそんなのばっかりだし。
『は~、我が娘ながら本当に頑固よね~。別にお見合い即結婚って訳じゃないんだから、一度くらいいいじゃない』
「い・や・で・す!私忙しいのでそんな事してる暇がないんですよ。話は終わりですよね?それじゃ切りますね」
……全くもう、母様は。何を言うのかと思えばお見合いだなんて。
いや、確かに結婚を考える年齢であるのは間違いないですけど。
だけど、まださっちゃんが立ち直りきれていない今、私が離れる訳にはいかない。
自惚れではなく、まださっちゃんにも公平くんにも私は必要なんだ。
(……それに結婚するなら……って、ああもう!何考えてるんですか、私は!)
頭に思い浮かんだ顔を振り払うように、私は着替えてベッドに向かうのだった。
「それで、どういう事なのか説明して頂けますか、渡辺本部長?」
「……待て。いきなり来てそう言われても何の事か分からん」
翌日、会社のお昼休みに渡辺本部長に会いに行き、開口一番そう言ったのだが残念ながら私の言いたい事は伝わらなかったようだ。
なので昨晩、母様から電話があった事、その内容を説明すると
「……すまん!つい口が滑って話しちまった。許してくれ!」
と頭を下げてきた。
「……まあ、悪気があった訳ではないみたいですし、頭も下げたので許しましょう」
「そうか。本当にすまなかった。ほのか嬢には迷惑ばかりかけてるな」
「いいですよ、もう。それよりどうして私に恋人がいるって話になったんですか?」
「……いや、まあ、そのな。とある筋から最近ほのか嬢と仲のいい男性社員がいると聞いてな……」
「誰ですか、そんな事言ってたのは。訂正してきますから名前教えて下さい」
「その、こちらにも守秘義務というのがあってだな。名前は出さないという約束なんだよ」
口ごもる渡辺本部長に、私は笑顔でこう告げた。
「……分かりました。愛子に話した時の状況を含め確認してきます。ああ、その結果を千春さんにも報告しますけど構いませんよね?」
「待て、待て、待てええぇぇ!!な、何で小笠原だって知ってるんだよ?それに千春は関係ないだろ!」
「あ、やっぱり愛子だったんですね。ちょっとしたカマかけだったんですけど」
……そうですか、そうですか。真犯人はやっぱり愛子でしたか。
「やましい事がなければ別にいいですよね?まさか剛志さん、妻子ある身で二人きりで食事だとか飲みに行ってたりしてませんよね?」
「…………」
「嫌ですねえ、目を逸らすなんて本当みたいじゃないですか。まあ、千春さんがどう判断するか知りませんが、本気で悲しませるような真似だけはしないでくださいね」
「いや、これは、そのな、男なら仕方ないんだよ!本能なんだよ!」
「それは千春さんに言うべきですね。それと、人間でしたら理性で抑えてください」
にこりと笑って部屋を出る。
……全く、完全に尻に敷かれてるのにどうしてああいう事するんですかね?
大体本能って、どう考えても言い訳でしょうに。
少なくとも、公平くんはそういうタイプじゃないでしょうし。
「さて、それじゃお
そしてその週の土曜日、いつもの様に橘家に向かう準備をする。
(実家には明日帰るとして、今日は何作ろうかな?……最近作ってなかったし、久し振りに肉じゃがにしようかな)
そんな事を考えていたら、インターホンが鳴った。
誰だろうと不思議に思いながら画像を確認すると
「……母様?」
何故なのか、母様が訪ねて来たのだった。
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