第19話 モテるほのかと友人バレ
はっきり言えばほのかさんはモテる。
容姿端麗、性格も穏やかで優しく家事全般もそつがない。
やや背が低い事が悩みらしいが、プロポーションは抜群でその大きな胸はいやでも男性の視線を引き寄せる。
仕事もきっちりこなすし、俺にとっては公私共にお世話になっているとても頼れる先輩だ。
そんなほのかさんなのだから、会社の内外での男性人気は高い。
だが、何故かは知らないが恋人はいないらしい。
そして俺が本人に直接その理由を聞けるはずもない。
ほのかさんに恋人がいたらこんな生活は送れるはずはないし、この三人での時間を壊したい訳はないのだから。
ただ、言い寄る男性社員がほぼ居ないのはおかしいんだよな。
確かに高嶺の花である事には間違いないのだが、それにしたって駄目元で告白する連中がいてもおかしくないのに。
可能性としては、従兄だといっていた本部長の目を恐れているくらいしか思いつかないんだけど。
(と言っても、本部長も性格の良い人だし本当に理由が分からんな)
下手に探って他の連中を焚きつけるのも嫌だし、俺がそんな事を嗅ぎまわっていると知ったら、ほのかさんも良い気分はしないだろうし打つ手は無いな。
そんな風に考えていたある日の事だった。
俺が外回りから帰って会社のロビーに入ると、ほのかさんと同期で受付嬢の小笠原愛子先輩がなにやら困った顔をしていた。
「ただいま戻りました。どうしたんですか小笠原さん?なにかトラブルですか」
「ああっ、橘くん!丁度良かった。ちょっと本部長を呼んで来てくれないかな?」
「本部長ですか?構いませんけど、何があったんですか?」
俺がそう聞くと
「……ちょっとね。他社の営業がほのかにちょっかいかけてるのよ」
と苦々しい口調で答えてくれた。
「正直チャラい感じで最初は私を口説いてたんだけど、ほのかを見たらそっちに向かって行っちゃってね」
「水本先輩だったら上手くあしらえませんかね?そういうの多そうですけど」
「まさか、全然よ。ほのかを口説くなんて無謀な奴いる訳ないじゃない」
う~ん、まあ告白しても可能性は限りなく低いだろうしな。
「それにそいつ、取引先の社長の息子だって自慢してたのよ。だから手荒に扱う訳にもいかなかったんだけど。……そうでなければビンタくらい食らわしてたのに!」
かなり本気の様子でそう言う小笠原さん。さぞ鬱陶しかったんだろうな。
……そしてそんな相手に言い寄られてるのか、ほのかさんは。
「……そいつどっちに行きました?俺が直接行きますよ」
「でも、橘くんが行ったら目を付けられるわよ?」
「水本先輩にはいつもお世話になってますから。それで先輩が嫌な思いしないで済むのならそのくらい何でもないですよ」
俺がそういうと訳知り顔で
「……ふ~ん、そっかそっか。ま、高嶺の花だけど頑張りなさい。お姉さん応援してるからね」
とニヤニヤしながら向かった方向を教えてくれた。
その方向に向かうと、資料室がある通路の陰になっている場所から声が聞こえた。
「いい加減にしてください!私は仕事の最中なんです!忙しいんですよッ!」
「え~、そんなのサボればいいじゃん。僕と話してた方が君にとっても会社にとっても有意義だと思うよ?」
珍しくイラついたようなほのかさんの声と、それを流して話を続けようとする確かにチャラそうな男の声が聞こえた。
(……何でだろう?妙に胸の中がモヤモヤするな)
多分お世話になっている先輩を困らせてる奴がいるからだろう。
さっきから、ずっとほのかさんは迷惑だって言ってるのにな。
足早にその場所に近付くと
「あー、やっと見つけた。探しましたよ、水本先輩」
と、わざとらしく声をかけてやった。
男の方は不機嫌そうな顔をこちらに向けたが、ほのかさんが嬉しそうにしてたのは見間違いじゃないよな?
「本部長が探してました。結構時間経ってるんで急いだ方がいいですよ」
「分かりました。ありがとうございます、急いで向かいますね」
ほのかさんがこちらに駆け寄っていて、そのまま立ち去ろうとしたが
「ちょっと待てよ!今、僕達は大事な話をしてたんだぜ!」
と、男が食い下がってきたが
「……私、仕事中だから忙しいって言いましたよね?聞こえてなかったんですか?」
と、笑顔なのに威圧感を放つほのかさんが怖い。
「そういうお話なら業務時間外にしてください。……まあもっとも」
そういうと、ほのかさんは俺の腕に抱きつくようにして
「私、恋人がいますから応じられませんけど。それじゃ失礼しますね」
そのまま俺を引っ張るように歩き出した。
……いや、ちょっとほのかさん?胸、思いっきり当たってますけどッ!
それに恋人ッ、恋人って何ですかッ!!
戸惑う俺を強引に引っ張って歩くほのかさん。
少しの間があって、そんな俺達の横を男が駆け抜けていった。
「うわあぁぁぁん!覚えてろよぉぉぉ!パパに言いつけてやるからなぁぁぁ!!」
チラッっと見たが目の端に涙を浮かべてた。
しかしいい年した男がパパに言いつけるって……。
その後、俺達がロビーまでやってくると
「ねえ、あいつ泣きながら走って出て行ったけど、あんた達何かし……」
小笠原さんがそこまで言いかけて止まってしまった。
……なんだ、どうしたんだ一体?
すると小笠原さんがニヤニヤしながら
「ふ~ん、なるほど。そりゃそんなの見せ付けられたら泣くわよね~」
そう言って俺達の方を指差した。
その先に視線を向けると、そこにはほのかさんの豊かな胸に挟まれた俺の腕があった。
お互いに顔を見合わせ、あっという間に顔を真っ赤にする俺達。
急いで離れると
「ち、違います!これはあの人を誤解させるためにあえてこうしたんです!そうですよね、公平くんッ!」
「は、はい!小笠原さんの勘違いです!俺とほのかさんは決してそういう関係じゃありませんッ!」
俺達が恋人同士に見えたのだろうが、二人で必死に誤解である事を説明した。
……それは良いんですが、何で小笠原さんに見えない場所をつねるのでしょうか、ほのかさん?
まあその甲斐あって無事小笠原さんの誤解は解けた。
「分かった分かった。アレは演技。二人はただの先輩後輩なのよね?」
「そうです。だから愛子、ある事ない事言いふらさないで下さいね」
「分かったってば。だから……」
小笠原さんは人差し指を唇に当てて
「二人が普段は『公平くん』『ほのかさん』って呼び合ってるのは内緒にしてあげるわね」
「「……あッ!!」」
楽しくって仕方がないって顔でそういうのであった。
……ちなみにほのかさんに言い寄っていた男は、帰って親に事情を話したらこっぴどく怒られたらしく、後日菓子折りを持って謝罪に来ていたそうだ。ざまーみろ。
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