第13話 保育参加、ご苦労様でした
その後園児達は各自好きな事をして遊んでいる。
私や茜先生はそれを見守りつつ、子供達に誘われたら一緒に遊んだりもした。
園庭内にある滑り台などの遊具で遊ぶ子もいれば、砂遊びをしている子もいる。
動き足りなかったのか、かけっこや鬼ごっこをしている子達もいた。
そして子供達はその勢いの衰えぬまま、園庭での自由遊びは終了したのだった。
その後はしっかりと手洗いなどを済ませたら、保育室に戻って室内遊びの時間だ。
このクラスは約二十名の園児がいるのだが、大体四人から五人ぐらいのグループに分かれて色んな遊びをしている。
折り紙を折っているグループやお絵かきをしているグループ、ブロックを組み立てたりおままごとをしているグループもある。
そんな中さっちゃんは佳奈ちゃん、結衣ちゃん、翔くんと一緒にお絵かきをしていた。
私はおままごとのグループから、一緒に遊んで欲しいとお願いされたのでお母さん役として一緒に遊んでいた。
それが終われば折り紙のグループに誘われ、さっちゃん達にも自分達が描いた絵を見て欲しいと誘われた。
ただ、ブロックで遊んでいた男の子だけのグループは恥ずかしかったのか、私ではなく茜先生に声をかけていた。
こうして室内遊びが終わったら、子供達が待ちに待った給食の時間だ。
今日の献立はごはんに鯖のごま味噌煮、小松菜の煮浸しにかき卵汁だ。
子供向けにしてはやや渋いが、栄養バランスの取れたメニューだ。
「それじゃみんな、せーの、いただきまーす」
「「「「「いただきまーす」」」」」
食事の様子も様々だ。
男の子の一部は競い合うように食べて茜先生から
「こ~ら!良く噛んで食べなきゃ駄目でしょ!」
と怒られていた。
一方女の子の方はお友達とおしゃべりしながら食べていたり、黙って黙々と食べていたりと大きく騒いでいる子はいなかった。
これは女の子の方が早熟な部分が多いからかもしれない。
そんな食事も終われば、お昼寝の時間だ。
すぐに寝付く子もいれば、なかなか寝付けないでいる子もいる。
子供達が寝ているから、この時間はゆっくりできるかといえばそうでもない。
子供達に何か異変は無いかと、注意深く観察する必要があるからだ。
起きていても寝ていても、子供達から目を離す訳にはいかない。
本当に保育士という仕事は大変で、先生方には頭が下がる思いだ。
(先生達はこれがほぼ毎日なのよね。本当に尊敬するしかないわ)
とにかく子供達は元気一杯で、こっちが予想もしていない行動をとる事も多い。
私の子供時代を思い出してみるが、ここまで元気に走り回っていただろうか?
大人になった私がついてゆくのがやっとなくらい、タフでパワフルでエネルギーに満ち溢れている。
私も子供好きだとは思っていたが、それだけではこの仕事は勤まらないだろう。
私の保育参加は給食を食べたところで終了だ。
子供達にお別れの挨拶をすると
「ええ~、ほのか先生もっといてよ~」
「やだ~、ほのか先生帰っちゃやだ~」
と子供達に引き止められたが、それじゃもう少し……とはいかないので残念がられつつもさよならした。
一部の子が大泣きしていたので抱きしめてあやしていたら、結局全員とさよならのハグをする事となってしまったが、これもいい思い出だろう。
その後園長先生との個人面談でさっちゃんの様子などを詳しく聞いた。
そして一時帰宅して夕飯の準備を済ませつつ、頃合を見てさっちゃんのお迎えだ。
私がお迎えに行くと子供達が私を見つけて
「「「ほのか先生だーー!!」」」
とはしゃいでいたので、頭を撫でたり少しお話していたら結構な数の子供達が集まってしまい、ちょっとした騒ぎになってしまった。
そしてさっちゃんの帰宅準備が整い帰ろうとすると
「「「「ほのか先生、さようならーーー!!!」」」」
と子供達に言って貰えたのは凄く嬉しかったな。
さっちゃんと手を繋いでの帰り道で
「ねえ、なんで今日ほのちゃんが来てくれたの?」
「公平くんが来れなかったので、園長先生や茜先生ともお話して私が行ってもいいか聞いてみたんです。……さっちゃん、嫌でしたか?」
「ううん!そんなことないよ。幸、ほのちゃんが来てくれてすごく、すっごくうれしかったよ!」
とそんな話をした。
そしてその帰り道の途中で
「……あれ?こうちゃんだ。お~い、こうちゃ~ん!」
スーツ姿の公平くんが息を切らせながらこっちに向かっていた。
「どうしたんですか、公平くん?研修はどうしたんですか?」
「お、思ったより早く終わったんで、お迎えくらいはできるかなって。そ、そうしたら二人の姿が見えたもので……」
照れくさそうに笑う公平くんの姿に、私とさっちゃんも笑顔になる。
「それじゃ皆で帰りましょうか。今日の晩ごはんはホットプレートでお好み焼きですよ」
「やったー!幸、おこのみやき大好き!ほら、こうちゃんもはやくはやくッ!」
「……はいはい。それじゃ三人で帰ろうな」
さっちゃんの右手を公平くんが、左手を私が握って三人でおうちに帰る。
きっと今日の晩ごはんは保育参加の話で盛り上がるだろう。
そんな中、私は園長先生との個人面談の事を思い出す。
『最近はよく笑うようになりました。……本当に心配してたんですよ。急にご両親が亡くなられて、見るからに落ち込んで。橘さんも慣れない子育てで疲れていましたから。私からもお願いします。どうか二人を支えてあげて下さい』
……もう少しだけ、いいよね?二人の傍にいても。
こんな風に温かい家族のように振舞っていても。
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