第11話 嘘も方便
「ええぇぇぇぇ!!なんで、どうしてほのちゃんが?」
「え~と、さっちゃん?今日の私はほのか先生だから、そう呼んでくださいね」
少し困った顔でそういうほのちゃん。
みんながこっちを見ているが、そんなのどうでもよかった。
「ねえねえ、あの人さちのママ?すっごくきれいな人だね」
「……いいな~、さっちゃん。うらやましいな~」
「すげー!あかね先生とはくらべものにならないよな!」
「……
かなちゃんとゆいちゃんがほのちゃんにみとれてる。
かけるくんは、ほのちゃんとあかね先生のおっぱいを比べてあかね先生に怒られている。
かけるくん、そういうのは『でりかしー』がないってママがいってたよ?
「今日一日みんなと一緒に過ごさせていただきます。仲良くしてくださいね?」
「「「「「はーーーーーーい!!!!!」」」」」
みんなが大きな声でへんじをする。
……すごいなー。ほのちゃん、これまでで一番人気があるんじゃないかな?
でも、どうしてほのちゃんが来たんだろう?おともだちでも良かったのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二週間前の夜、公平くんと保育参加について話していて
「私が有給を取って、公平くんの代わりに保育参加に行きますよ。それならさっちゃんも寂しくないですよね?」
「……いや、ほのかさん?流石に保護者以外は難しいでしょ。保育園だって無関係の人間を園内に入れたら問題になるでしょうし」
「……酷いです、私って公平くんやさっちゃんにとって無関係な人間なんですか?」
「いや、そういう意味ではなくてッ!血縁関係じゃないって意味ですよッ!!」
「それなら大丈夫です。すぐに血縁関係は結べませんが、似たような立場なら問題ないはずでしょうから」
「似たような立場って……。ほのかさん、どうするつもりなんですか?」
「ふふふ、それはですね……」
私の案を伝えると公平くんは驚いて反対していたが、私の
『さっちゃんを喜ばせたいんです。駄目だったら諦めますから』
という言葉に折れて、私の案を試させてくれた。
そして保育園はそういう事情ならばと、私の保育参加を認めてくれたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
園児達を後ろから見守りつつ、茜先生と一緒に園庭に向かう。
まずは他の年齢の園児達と一緒に体操をするのだそうだ。
すると茜先生が園児達に聞こえないように小声で話しかけてきた。
「それにしても驚きました。まさか橘さんにこんな美人の婚約者さんがいただなんて。幸ちゃん、ご両親を亡くした時凄く落ち込んでたから心配してたんですよ」
「……私が婚約したのはその後ですからね。あの時のさっちゃんが放っておけなかったって言うのもあったんです。それと、この事はさっちゃんにはまだ内緒ですので」
「分かっています。でも水本さんに良く懐いているみたいで安心しました」
茜先生の笑顔に対して、若干心が痛む。
そう、私の案とは私が公平くんの婚約者になればいいというものだ。
そうなれば身内も同然だし、保育参加も可能だと考えたのだ。
そして私が別の日に保育園を訪ね、園長先生や茜先生を交えて話し合うと
『そういう事情でしたら水本さんが参加されても構いませんよ。その方が幸ちゃんも喜ぶでしょうし、私達もあの件に関しては心を痛めていましたからね』
『……良かった。橘さん、最初の頃は明らかに無理してましたから。このままじゃ幸ちゃん共々どうなるのかなって心配してたんですけど、途中から余裕ができたみたいですし、幸ちゃんも見違えるくらい元気になったので何かあったのか聞いてみたんです。そうしたら『あのね、ほのちゃんていうおともだちができたの!」って嬉しそうに言ってました。同年代かと思ってたんですが、水本さんの事だったんですね』
と、自分達の事のように喜んでくださった。
……良い保育園だな。ここはさっちゃんのご両親が亡くなられる前からから通っているそうだが、先生方が子供が好きなのが伝わって来る。
そんなわけで、私は無事保育参加に行く事が決定したのだった。
『さっちゃんには婚約した事はまだ内緒なんです。もう少し時間を置いて話すつもりなので』
という理由でこの件は私、公平くん、保育園の先生方のみが知っている。
だが、婚約の件は嘘、というか方便だ。
本来部外者である私が保育参加に行く為には、最低でも『将来身内になる』という婚約者という立場は必要だっただろう。
いくらなんでも会社の同僚やただの知人では、保育園も許可が出せなかっただろうしこの判断は間違っていなかったと思う。
だからもし間違いがあるとすれば
(さっちゃんが保育園を卒園するまでこのまま婚約者という事にして、その後性格の不一致などで婚約を解消した事にすればいいかな)
と思っていた私の判断の甘さだろう。
茜先生の信頼を向ける笑顔が眩しい。
言外に
(良かった。これで橘さんと水本さんが結婚すれば、幸ちゃんも幸せね)
と思っているのが伝わって来る。
いや、公平くんとさっちゃんに幸せになって欲しい気持ちは嘘じゃないんだけど。
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