第6話 土曜日はお掃除
今日は土曜日。俺お手製の朝食を食べた後、幸と二人で家の掃除に取り掛かる。
ただでさえ幸と二人では大きすぎる家だ。
日頃仕事に追われる俺にとって、まとまった掃除は週末しかできない。
「よし、それじゃ俺は二階の掃除をするから、幸は自分の部屋の片付けだ」
「りょーかいです。幸は自分のへやのおかたづけをします」
シュタっと敬礼しながら答える幸。
……これ仕込んだの誰だ?綾姉か?そんな趣味なかったはずなんだがな。
まあ文句を言わないあたり、綾姉達の教育がよかったのだろう。
一階の掃除は、この家に越してくる時に買った全自動掃除機に任せてある。
俺はコードレス掃除機とはたきを持って二階に上がると、まずははたきで上の方のほこりやゴミを落とし、それらを掃除機で吸っていく。
同時に窓を開けて、普段使わない部屋の換気も行っておく。
このあたりは大学時代の寮生活や、一人暮らしの頃に手慣れたものだ。
幼少の綾姉と二人暮らしの頃も、なるべく手伝いはしてたからな。
まあ料理だけは綾姉が上手すぎたので、人並み程度にしかならなかったけど。
手早く二階の掃除を終わらせると、先に回してあった洗濯物を取り出す。
今日は天気も良いので良く乾く事だろう。
シワを伸ばしながら洗濯物を干すと、一度幸の様子を見に行く。
さて、幸はちゃんと片付けができているのだろうか?
「はい、アナタ。今日もお仕事ごくろうさま。美味しいごはんを作りましたからたくさん食べてくださいね」
……ドアの隙間から覗いてみたが、クマのぬいぐるみ相手に話しかけてる。
あれはママごとか?……おい、まだ片付けの途中じゃないか。
「……うん、おいしい。幸は本当にりょうり上手だな」
「うふふ、愛情いっぱいこめてますから」
……この元ネタ、まさか綾姉と正彦さんじゃないよな?
もしそうなら、身内のこういう部分は知りたくなかったな。
そしてそっと部屋に入るが、幸はまだ気付いていない。
「食べおわったら、おふろもわいてますよ」
「……いっしょに入るかい、幸?」
「もう、アナタ!なにをいってるんですか!」
「いいじゃないか、ぼくたちは夫婦なんだ。なあ、いいだろう?」
「……いい加減にしろ。どこでそんなの覚えたんだ、お前は」
あまり痛くないように、後ろからチョップでツッコミを入れる。
痛くはなかっただろうが、ビクッとした後幸は動きを止めた。
そのまま振り向かずに
「……こうちゃん?」
「おう、こうちゃんだぞ。それで幸、片付けはどうした?」
俺が問いかけると幸はゆっくりと振り返り
「……あのね、ちがうんだよ?」
「……ほう、どう違うのか具体的に言ってみろ」
「幸、ちゃんとお片付けしてたの。それでね、この子をお片付けしようとしたら、この子が『さっちゃん、ボクさびしいよ。いっしょに遊ぼうよ』って」
などと言い訳を始めた。
個人的には可愛らしいと思うが、責任を擦り付けられたクマが不憫でもある。
まだ幼い幸には酷かもしれないが、そういう事をしたら良い事が無いのを教えるのも大人である俺の役目だろう。
「そっか、なら仕方ないな。幸はその子と遊んであげないとな」
「……いいの、こうちゃん?」
「ああ。俺は掃除が終わったら、後で来るはずのほのかさんと一緒に買い物に行かなきゃいけないからな。幸はその子と留守番しててくれ」
俺の言葉に分かりやすくショックを受ける幸。
そうだよな、お前ほのかさんとの買い物楽しみにしてたもんな。
「片付けもまだ途中みたいだし、買い物が終わるまでにはちゃんと終わらせておくんだぞ。それじゃ俺はこれで」
「待って、待って、待ってええぇぇぇ!!やだよ、幸もお買い物行きたいよッ!」
「でも片付けもまだだし、その子が可哀想だろ。大丈夫、幸はその子と思う存分と遊んであげなさい」
「……ごめんなさい。すぐにおかたづけするから、幸もお買い物つれていってください」
シュンとした様子で少し涙ぐみながらそういう幸。
……ま、こんなもんか。これ以上やったらイジメだもんな。
「……ほのかさんが来るまでに一人で片付ける事。約束できるか?」
「うん。幸きちんととおかたづけする!やくそくする!」
「よし、それじゃ俺は掃除に戻るからな」
「うん!幸がんばるよ!」
なら最初から頑張れよ!とツッコミを入れたいが、四歳の頃の俺は間違いなく幸よりも出来ない子供だったので強く言えない。
遊びたい盛りなのは分かるけど、綾姉だったら厳しく躾けてるだろうからな。
俺なりにその辺はやっていかなくちゃな。
「……よし、掃除完了。隅々までとはいかないけど十分だろ」
一通りの掃除を終えると、俺は幸の部屋に向かった。
流石に二度同じミスを犯すとは思えないが、あいつ微妙に天然入ってるからな。
ドアをノックして
「幸、片付け終わったか?」
と声をかけると
「うん!幸がんばったよ!」
威勢の良い返事が返ってきた。
ドアを開けて部屋に入ると
「……おおっ!凄いな、ちゃんと片付いてる」
「ふふ~ん。幸がやるきになれば、このくらいらくしょーだよ!」
ドヤァという効果音が見えそうなくらい得意げな幸。
けど、確かに四歳の頃の俺がここまで出来たかといえば多分無理だっただろう。
そして綾姉の教育方針は信賞必罰。
良い事をすれば褒め、悪い事をすれば叱る。
俺もそうやって育てられたので、今回もそれに倣う事にしよう。
「幸、良く頑張ったな。偉いぞ」
頭を撫でてやると、幸は
「うん!これで幸もお買い物いってもいいよね?」
と、期待に満ちた目を向けてきた。
「ああ。三人で一緒にお買い物行こうな」
「やったああぁぁぁ!おっかいもの!おっかいもの!」
大袈裟に喜ぶ幸を見て、俺は買い物が騒がしくなりそうな事に苦笑するのだった。
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