亀に乗せられて
ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬)
鶴とカメ
「なにこれ、千羽鶴?」
「うん。昨日クラスの子たちが作ってくれたのを届けてくれたんだ。すごいよね」
病室の白い壁の中で、まるで主役みたいな面した千羽の折り鶴が身を寄せ合っていた。よくできていると思う。自分がやってもこんなにキレイにはできないな。
だけど、
「あんまり好きじゃないな、こういうのって」
「どうして・・・?みんなあたしのこと想ってこんなに作ってくれたんだよ。そんなこと言ったら、みんなに悪いよ」
「そうかな?勝手に作るだけ作って押し付けてるみたいに感じるけど」
「そんなことないよ。みんな一生懸命作ってくれたって言ってくれて、あたしも嬉しくなったんだ」
「ふ~ん、じゃあ自分も一つ作っていい?それで元気になるっていうならさ」
見る間に表情が明るくなる。やっぱりきれいだな。
「うん!お願い」
折り紙なんて普段から持ち歩かないからルーズリーフを四角に切り取って、それで折ることにした。クラスメイトが持ってきた鶴みたいにカラフルじゃないだろうし、あんなに綺麗な形は出来ない。
それでも折り方を一つひとつ確認しながら、丁寧に折っていった。
「えっと、これって・・・」
「うん、カメだよ」
「千羽鶴の話をしてたから、鶴を折るのかと思ってた。ごめんね、ちょっと笑っちゃった」
別に気にしない。むしろ、笑ってくれるならなんだって作ってあげる。それくらいしか今はできないから。
「でも、どうしてカメなの?」
「うん、さっきさ、千羽鶴はあんまり好きじゃないって言ったじゃん。あれを見た瞬間、鶴が集まってあんたのこと遠くに連れて行っちゃう気がしてさ。だから、折るなら鶴以外にしたかった。それで歩くのが遅いカメにしたんだ。遠くまで飛んでったりしないし、歩くのが遅いカメならさ、あんたと離れたりしないで済む気がして」
意外だな、って
そりゃあ、ずっとぶっきらぼうなところしか見せてこなかったかもしれないけど、これでも早く元気になってこんな所抜け出して欲しいって思っているんだ。
「おかしいかな?」
「ううん!?ぜんぜんおかしくなんかないよ!でも、意外だなって。案外文学的なところあるんだなって思った」
「それバカにしてる?」
「あたしがそんなこと言ったりしないって分かってるくせに」
「そうだったね、ごめんごめん」
一緒に笑いあう。自分の声に比べて、声が小さいのがやっぱり気になる。
辛いってのはもちろん知ってる。
救いがないのかもしれない。もうダメなのかもしれない。
それでも
「だからさ、ゆっくりでいいから生きてほしいんだ。一人で勝手に行ったりしないで」
「ぷっ、ふぅ!」
「え?ちょっと今の噴き出すところ!?」
「だって、らしくないんだもん。急にどうしたのさ、びっくりしちゃった」
「もう、こっちは真剣だってぇのに」
「うん、ごめんごめん」
そう言って手にしたカメを大事そうに指先で撫でる。本当に生きているみたいに。
「ずっと優しく撫でてるからさ、なんかカメが生きてるみたいに見えてきた。カメのお母さんだね」
「あたしがお母さんっていうより、この子はあたしの使いなんじゃないかな?」
「使い・・・?それってしもべってこと?」
「ほら、浦島太郎って憶えてる?あのお話ではカメは竜宮城の使いだったでしょ。だからあたしは、乙姫ってところかな」
「自分から乙姫って、恥ずかしくない?」
「じゃあ、カメさんを連れてきてくれたから・・・浦島太郎に任命!」
「え!?」
自分を指差して高らかに宣言した。
自分が浦島太郎・・・?
そりゃあいくらなんでもおかしいでしょ。
「いいじゃない、
「そ、そうかもしれないけど」
「それとも実久は乙姫のほうがよかった?」
いや、それはもっと恥ずかしい。
「お、乙姫は
「ありがとう」
今日一番の笑顔。
やっぱり咲生は、笑っているときが一番かわいい。
亀に乗せられて ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬) @Stupid_my_Life
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