第18話 戦闘終了イベント
ドリアードを戻したことにより拘束の解けた三人に俺が近づく。三人は身構えはするものの逃げるそぶりを見せなかった。
俺はそんな彼らの行動を見て、先ほどのようにデッキブラシを右手首を軸にペン回しのように振り回す。
「逃げようとしないだなんて殊勝な心掛けですね」
俺が三人に声をかけると、それぞれが一瞬だけ俺を見上げ、再び視線を地面に戻した。
「我々は逃げても無駄だ」
口を開いたのはジャガイモ顔。
声には覇気など一切なく、完全に諦めている。
「無駄とは?」
「ダークメタル・マンティスを苦も無く倒すことができるっすよね?そんなのから逃げられるって思う方がどうかしてるっす」
「あぁ……」
ナス顔の男の言葉に俺は納得する。
実力差が分かったから逃げなかった。それ自体は正しいし、ここで逃げるよりは彼らの罪も軽くなるだろう。
「まあ逃がすつもりは無いんですけどね♪」
笑顔を三人に向けてから、振り回していたデッキブラシを止めて三人の方に突き出す。
「安心してください。皆さんは賢明で利口な方々です。ここで逃げなかったことを後悔しないように一瞬で終わらせてあげます」
笑顔で告げられる死刑宣告に三人の顔に影が落ちる。それでもワンチャン狙って逃げないのは凄いな。どれほど強かったんだろうダメマンティス。
「おいおい!こいつらはギルドに引き渡す!勝手に殺され……」
「はぁ?」
ライザックの訴えを低い声で制する。
精一杯の睨みを利かせ、ドスの利いた声を意識しながら言葉を発する。
「ふざけないでください。ジーナさんとコリスさんは四人の身勝手な正義に殺されたんです。この三人をそのまま生かすだなんてそんな真似できるはずがないでしょう?」
「お前の気持ちはわかる!だが、お前が気づいていないだけでこいつ等は……フグゥッ!」
余計な事を口走りそうになったライザックをヒルダへのアイコンタクトで止める。具体的に言うと後ろから羽交い絞めにして口をふさぐ。
どうだ。堅いだろう鎧の感触は!後ろから女性に抱き着かれたのに思った以上に柔らかさを感じないだろう!
これがッ……、鎧という身を護るアイテムのデメリットだ!
心の中で余計な叫びを上げつつ、俺はエイルのスキルリストからスキルを選択し、発動を命令。
同時にエイルが三人の前に歩き出し、杖を掲げて魔力を溜め始める。
暴れるライザックは腕力の勝利なのかヒルダの拘束を抜けることができない。
三人はもうすべてを諦めたかのように幼い神官を見上げていた。
「マスター、じゅんび。おっけー」
「エイル。やりなさい」
「やめろォォォ!!!」
ギリギリで拘束を外したライザックが叫びながらエイルに突っ込んでいくが、リーヴが間に入り込みライザックを転ばせた。
そうして断罪の瞬間が訪れる。
「『サークレッド・ヴァニッシュ』」
エイルが魔法名を唱えた瞬間、杖から眩い光の球が放たれる。
光球はそのまま地面へと落ち、そこから光が周囲に拡散。俺らの視界をホワイトアウトさせた。
「え?」
自分の身に何が起こったのかわからず、声を上げたのはゴーヤ顔。他の二人も自分が生きていることに驚いている。ついでにライザックも暴れるのをやめて目を剥いていた。
「エイル、魔法は問題なく発動しましたか?」
「うん。その三人にかかってた魔法は消えたよ」
その言葉を聞いて、俺はしゃがみ込んで三人に視線を合わせた。
「気分が悪いとかありませんか?」
「い、いや……なんともありません」
「なにが……起こったんすか?」
「これは……我々の魔力が消えている?」
んー、予想は大正解ってところか?
自分の予想が当たってちょっとした愉悦感に浸っていると、後ろからライザックが俺の肩を掴み、引っ張ってくる。
「お前さん、三人に何をしたんだ?」
その質問にキョトンとする。
そして、ちょっと間が開いてから立ち上がって質問を質問で返した。
「え、ライザックさんは気づいてらしたんですよね?」
「こいつらの裏に誰かが暗躍しているって事か?」
なんだ。ちゃんと気付いているんじゃん。
「お、オレたちは国を裏切ってなんかいないっす!」
そこで声を上げたのはナス顔。他の二人もその言葉に首を縦に振って同意している。
俺はその姿を見てから視線をライザックに戻し、会話を続ける。
「ええ。その人物はこの三人に魔力を渡しています。なので、先ほどジーナさんやコリスさんが受けたような魔法を仕掛けておいて、三人に利用価値が無くなったり、自分たちに関する情報を話そうとしたらサクッと切り捨てるのではないかと思いまして」
「まさか……さっきの魔法は」
「ええ。三人に掛かっている魔法を掻き消すためのものです。まぁ、それ自体がトリガーとなって私たち全員が巻き込まれる可能性もありましたけど」
それを防ぐために『サークレッドヴァニッシュ』を選んだわけだし。
『サークレッドヴァニッシュ』。ゲーム内に登場するすべてのバフ・デバフ・状態異常・付加効果および魔法効果をすべて掻き消すスキル。効果範囲は自身を中心に円形。ゲーム内では防ぐ手段のない最高峰の解除魔法だが、デメリットとしてこちらの強化状態も解除されてしまう。さらに詠唱時間は長く、消費MPも300と大きめなので、あんまり覚える人がいない。
「それをちょっとでも相談しようとか思わなかったのか……」
「監視されている前提だったので、この場での相談は相手の思うつぼかと。逆にああやって殺そうとした上で魔法効力が消えたのなら、余計な勘繰りをされる確率は最低限で済むかなとも思いました」
「……なるほどな」
ライザックは頭を掻きながら、三人に近寄る。そして、さっきまでの俺と同じようにしゃがみ込んでから低い声を出した。
「お前らをこれから連行する。ダーカスに関しては後でどうにかするが、お前らも同罪だ」
「ライザックさん。私たちは決してギルドを裏切るような真似はしていません」
「そうっすよ!今まで以上に役に立とうとした結果で!」
二人の言い訳を遮るかのようにライザックは立ち上がって、剣を抜き、その剣先を二人の方に向けた。
「寝言は寝て言え。どんな思惑があろうとジーナとコリスを殺している時点でお前らは殺人者だ。基本的に国から特別な賞金の掛けられている奴や盗賊連中を除いて国内にいるすべての人間が国によって守られている。その人間をお前らは殺した。そこだけ理解しろ」
カッコいいなぁ。
丸顔だからかあんまり締まらないと思ったけど、声を低く出すと渋さが増してていい。
そんな事を思いつつ、リーヴに近づいて彼女の顔を手で引き寄せてからマップを広域に拡大してダーカスの動向を見る。リーヴの鼻息が荒くなっていくのがちょっと気になる。
しかし、そんな余計な考えも一瞬で吹き飛んだ。広域マップの一辺は約5km。だけど、その中にダーカスらしき人影がいない。
俺はリーヴから離れ、三人の方を向く。そこ、残念そうに声を漏らさない。
「あの~、お三方に聞きたいんですけど」
「なぁ、ちょっとは空気を読んでくれ」
「ダーカスさんって高速で移動する手段を持ってらっしゃいます?」
「無視か。おい、お前無視か」
ライザックの言葉を現在進行形で無視しながら、三人に問いかける。三人はそれぞれが顔を見合わせた後、ジャガイモ顔が口を開いた。
「ライザックは『パワード』の使い手だ。あれで逃げたのだろう」
「パワード……ってなんですか?」
「え、パワード知らないんすか?」
え、知らなきゃマズいレベルのモノ?
「なんで冒険者やっててそんなことを知らないんだお前さんは」
「いや、ギルド冒険者始めてまだ一週間です!」
「ギルドに入ってからの長さは関係のない話だ。パワードなんぞどの国に居ても知ってて当然の……」
と、そこでライザックは言葉を止める。
そして、俺の目を見つめ、先ほどまでの呆れ顔も引っ込め何事も無かったかのように話をつづけた。
「事だぞ。魔力による純粋な身体強化。魔法使いは千人に一人の逸材と言われるが、パワードを行えるのはその中でも千人に一人。それほど、才能に溢れていたって事だ。あの馬鹿は」
才能に溢れていたはずの男。なのに、あの程度?
違和感が俺の中に生まれ、口から出て行く。
「本当に才能に溢れていたんでしょうか?」
俺の言葉を聞いてカチンときたのか、ナス顔が叫び出す。
「アンタに何が分かるんすか!ダーカスは本物だったんすよ!?アンタみたいな化け物級の奴らがわんさかいるからダーカスも自信を失って……!」
「落ち着けベルジン。おい、どういう意味だ?」
ジャガイモ顔がナス顔を諫め、俺に真意を問うてきた。
「いや、本当に才能に溢れているのであれば、なんで今この時点で使わなかったんでしょう?」
うちの召喚獣を除く皆が驚きの表情を浮かべているけど……、え?そういう風に考えない?
困惑を隠しつつ、俺は自分の考えの引き続き話す。
「仲間がここにいて、相手は女子供優位の五人。本当に強いなら仲間を連れて逃げるくらいの事をしませんか?」
「パワードっつっても肉体強化だからな。お前さんに付き従っているその三人に加えて、召喚獣まで出されちゃ分が悪いって思うのはわかる気もするが……」
ライザックの言葉には俺は静かに頷き、マップで確認した事実を述べる。
「確かにそう思うのはわかります。ただ、リーヴに逃走したダーカスさんを監視させてましたが、無視できない短い時間で監視範囲外に逃げられたという報告を受けました」
「その監視範囲内ってのがこの短時間で逃げられる距離じゃなかって事か?」
「ええ。仮にパワードで逃げていたとしても、仲間を助けるという考えは全くなかったと思われます」
あるいは切り捨てるつもりの仲間だったとかか……。
俺の言葉に三人は意気消沈で項垂れている。信じて付いて来たはずのリーダーに見捨てられて嘆いているのか、自分たちの信頼をぶち壊されて嘆いているのかは知らないけど気の毒な事で……。
実際、ダーカスがパワードを使えたとして数分で5km県内から脱出できるほどの速度を出せるなら、人数差なんて関係ない。この場にいる敵を全て轢き殺せば終了だ。
それをしないで逃げたということはそこまでの速度は出せないと考えられる。だけど、ダーカスはこのマップ上から姿を消した。つまりは仲間がどこかに潜んでいて、転移でもしたか……。
戦闘終了後の方で問題がポンポンと出て来る。もう山積み……。
俺は今もなお生まれてくるたくさんの問題たちを見て、ふと我に返る。あ、これ俺が関わらなくていいタイプの案件だ…と。
そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺の行動は素早かった。パンパンと手を鳴らしてから、コンソールを起動する。
「さて。三人を亀甲縛りで拘束してギルドに提出して終わりましょう。ほら、ヒルダ、リーヴ、エイル手を動かして」
俺はバッグの中に入れていた拘束用ロープを取り出して三人に手渡す。
「おいおいおい!急にどうした?」
「いえ、このままここで話してても何の意味も無いですし、ギルドでまた同じ話をするのも面倒ですし」
「後半が本音だろ」
「そうですね。なので、あとは組織に任せます。一介のギルド冒険者、しかもカッパーの身分には余りある内容みたいですし」
「ここまで話の主導権を握ってた奴が言うセリフか?」
「アハハハ!話の主導権を握られていたの間違いでしょう?」
ライザックはウ……ッと言葉に詰まる。
そうこうしている内に三人の亀甲縛りプレイが完了。拘束が目的で体に痛みという名の快楽を与える類のものではないため、それぞれは割と楽にしている。まぁ、縛られてるんだけど。
「これ……運ぶの面倒ですね」
「縛るよう命令したのはお前さんだけどな」
「『ドリアード召喚』」
ライザックの言葉を無視して効率を重視。俺は呼び出したドリアードに三人を持たせ、移動を開始した。
ドリアードは走っている状態でもプレイヤー平均値の半分くらいの速度しか出せない。だから、召喚範囲外になると、召喚者の傍らに自動転送されるという召喚獣のルールがある。その自動転送に彼女らの持ち物も含まれるという事を検証で知ったため、それを利用した運搬術でシュトラーゼンまで連行した。
ホント、ゲーム順守の能力って使いやすくて便利。
異世界転移者がチートで楽して、女の子にモテるのもわかる気がする。ホント便利。
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