第13話 夜の楽しい女子会(ジーナ)
夜を見張り隊。最初の隊員構成は俺とリーヴ。
まぁ、ここに関しては何も言うことは無い。いつも通りにほぼ無言で淡々とした見張りが続いた。まぁ、多少の愚痴をこぼしたりもしたけど普段とあまり変わらない会話量。
南西にいる人間?はこちらに近づくでもなし、監視体制を貫いている。なんで“監視”と断言しているかというと、リーヴがスキル外の方法で街を出る時から気づいていたから。
情けない事に俺は気づいていなかったが、ずっと付かず離れずにこちらのそばに居たらしい。リェラの言葉を考慮すると、ギルド関係者である可能性が高いと見ている。
リーヴの見解としては、こちらとの距離を測って移動している事から明確な敵ではないとのこと。だからこそ緊急性は低いとみなし、このタイミングでの報告になったそうだ。
昼間は昼間で大変だったのでそういう判断をしてくれたのは本当にありがたい。
本当にギルド関係者かどうかは近づいてきてから確認すればいいし、現状は放置で問題ないとなった。
んで、二組目は俺とジーナ。
ジーナは眠り眼をこすりながら焚火の前に腰を下ろす。
「これどうぞ」
「あ。ありがとー」
俺がちょっと濃いめに淹れたお茶のカップを差し出すと、ジーナはそれを受け取ってフーフーと冷ます。カップを少しだけ傾けてお茶を飲むと、熱かったのか顔をしかめてから舌をチョロッと出した。
あざとい仕草ではあるが、エイルの方が断然可愛い(親バカ)。
「ねぇマナさんってもしかして貴族の方なの?」
「貴族?いえいえいえ、そんな位の高い身分はありませんよ」
「またまたぁ~。従者を三人も連れてて貴族じゃないって事ある?」
どうなんだろう……。
まぁ、確かに俺もジーナ側だったらそう疑う……か。
「彼女たちは従者なんですけど、私は貴族ではないですよ」
「そんなこと言って~。あ、もしかして貴族印を剥奪されてたりとか?」
「貴族印?」
「マナさんは演技うまいなぁ。貴族が持ってるっていう貴族の証の事じゃない」
そんなものがあるのか。
剥奪されるって事は親に捨てられたり、自分から家を捨てたりしたって事か。今んところはあんまり興味湧かないなぁ。
よし、適当に話を変えてうやむやにしよう。
「そう言えば、ジーナさんはコリスさんと同郷なんですか?話を聞いているとずっと一緒にギルドで働いているんですよね?」
「え?あ、うん。アタシたちは同じ村で生まれて育ったの。めちゃくちゃ田舎の田舎者なんだよね~」
なんだか嫌そうに溜息を吐いている姿を見て、俺は首を傾げる。
「田舎者だと何か問題なんですか?」
ジーナは苦笑いを浮かべてハァッと大きなため息を吐く。
「その発言がもうお貴族様だよ」
え、そうなの?今のどこに貴族要素あった?
本気で意味が分からず困惑していると、ジーナが語りだす。
「田舎はさぁ、ほんっとうに何にもないんだぁ。オシャレなお店もレストランも宿も無くて。欲しいものは毎月やってくる行商人に野菜とか燻製肉とか渡すなんて時代遅れのやり方だけ。お金も街に出てようやく触れたんだよ?信じられる?」
「あー……そんな感じなんですね」
俺としてはそれほど気になる所でもないけど、信じられないものを見るような表情を作る。
ジーナはそんな俺の反応を見て満足したようにフッと笑みを浮かべ、お茶をひと啜り。
「しかも、アタシたち女は朝から晩までずぅっと畑仕事に家族の食事作りにお裁縫。朝から晩まで暇な時間なんてほとんど無くて、男が昼間に寝ている時も必死に働いてて。なのに、男どもは偉そうに命令してくるし、お父さんもこっちの苦労も知らないで怒鳴りつけてばっかでさ」
だんだんと声がイライラしてくるのが分かる。これが思い出し怒りというヤツか。
話を変えたはずなのに、知らずに別の藪を突いてて勝手に毒蛇が出てきた感じだ。
正直、下手な事を言って機嫌を悪くすると面倒なので、俺はジーナの言葉に相槌だけ打つだけの人形となる。
「そのくせ風邪とか引いたらお母さんにべったり甘えててね。本当に気持ち悪いよ。ちょっと気分が悪いだけで、弱弱しく甘えてくるの。大の男がよ?信じられる?」
「それはちょっと想像できませんね」
「でしょ?」
何も思うな、何も感じるな。俺は人形、俺は人形。
「お母さんはお母さんでアタシが一生懸命にやった裁縫とかに文句出してくるし、何度もやり直しって言ってきて突き返してくるし。やること多くて忙しいって言ってんのに無理やりでも何かやらせて来るんだよ?そうやって娘には強気なくせにお父さんの理不尽なことにはまったく口答えしないし、本当に気持ち悪い人形みたい!」
最後、感情が爆発したように大声が出た。思わずビックリ。
俺のビックリに気づいたジーナは両手を顔の前で合わせて少しだけ頭を下げる。
「あ、ゴメンちょっと声大きかった」
「いえいえ、ちょっとびっくりしましたけど気にしないでください」
「うん。でも、そういうムカつく毎日をずぅっと我慢してたら、コリスが街で有名な“小説”を行商人から貰ってきてね」
反省の色が見えない!
俺の心の中の叫びをマルッと無視して、ジーナは語りを続ける。
「それを二人で必死になって読んで。すっごく楽しかったし、こんな風になりたいって思った」
ちょっとは笑顔になったから気も晴れたかな?
せめてもう少し明るい話題に転換して欲しい。
「どんな内容の本だったんですか?」
「女騎士リバティースって小説なんだけど……知らない?」
リバティース?
いや、その単語は知っているけど……。
俺はキョトンとした表情を浮かべて首を横に振る。すると、ジーナの弁に熱が入った。
「主人公はリバティースって田舎の女の子。田舎をモンスターに滅ぼされた彼女が復讐のために一生懸命修行しながら旅をしていたら、途中で魔導師エンデュラスに出会うの。そこで魔法と剣術を本格的に学びつつ、首都まで旅を続ける。それで首都の騎士学校に入学して軟弱な男どもを薙ぎ倒していって、更に軍内で伸し上がっていくってお話なの」
なんだろう。成り上がり系の小説かな?
「それはそれは胸が熱くなるお話ですね」
「そうでしょ!?あ、ゴメン……」
そのゴメンは大声出してしまったことに対して?だとすると、もっと前から大分アウトだよ。
そんな雰囲気は一切出さずに俺は諦観の笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。それがきっかけで二人は故郷を出てきたんですか?」
俺の言葉にジーナはこくりと首を縦に振る。
「そ。連弩の訓練は村で必須だったし、リバティースも最初は連弩と剣で戦ってたしね。魔法は才能ないと使えないのは知ってたけど、剣には自信あったしどうにかなりそうな気がしてたから」
怖ッ!?
見切り発車にもほどがある……し、故郷のご両親も心配してそう。
いや、思考を切り替えるんだ。考え出すと止まらなくなる。
「ジーナさん体格いいから剣の才能もありそうですもんね」
「そうなのよ。この辺じゃ割と褒められるんだけど、村じゃ女に剣はいらない~なんて言われてさ。ザマミロって感じ」
心優しい人たちもいたもんだ。
まぁ、下手に地雷踏み抜いたらうるさいし迷惑そうだからな。機嫌取りっていうのならわかる。
「魔法の使える使えないはどうやってわかるんですか?」
「そんなことアタシは知らないわよ。だって使えない側の人間だし。でも、あのギルドにいるオッサンたちも魔法を使えるのは一部だけって聞いた事ある」
「へぇ、そうなんですね」
「マナさんは魔法使えるんでしょ?」
「ええ。使えますよ」
二人の前で魔法を使ってはないけど、ウソをつく理由も無いので正直に答える。しかし、ジーナの方はちょっと嫉妬心を抱いたようで不満そうに頬を膨らませた。
「いいよなぁ魔法。それさえあればアタシたちもリバティースみたいに戦えるのに」
「そのリバティースってシュトラーゼンでも有名なんですかね?」
「え?興味ある?」
「ええ。ジーナさん達がハマった本に興味出てきました」
「嬉しいなぁ。あの本、結構な量の写本があるから本屋に行けばすぐに手に入るわよ」
「じゃあ、シュトラーゼンに戻ったら本屋に直行ですね」
「そうね!」
その後は交代まで女騎士リバティースの話をずっと聞いていた。
ストーリー的にはラノベでありがちな主人公成長&成り上がり系。まっとうに修行して強くなって、軍人になってからは召喚石を用いて悪事を働く悪人たちをバッタバッタと薙ぎ倒して出世していくような話。
リバティースはこの世界に来る前に俺がやっていたV-MMORPGのゲーム名だ。
聞いたストーリーは本編にも掠りもしていないけど、展開や出てくるサブキャラには聞き覚えのあるキャラが使われていた。
偶然同じ名前ってことは無さそう。シュトラーゼンに戻ったら宣言通りに本屋に行ってみよう。
時間になったタイミングで起きてきたヒルダと交代。テントに入ってエイルを起こし、事情を説明。その後は彼女を抱きしめつつ眠りについた。
悪い子じゃないんだけどなぁ。直情的で、自信家で、ちょっと短絡的ってだけ……。
まぁこれからよろしくやっていくわけだし、いつも通りうまい具合に動こう。たった一週間だけど久しぶりだなこの感覚……。
あぁでも、久しぶりだからかめっちゃ疲れた……。
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