第4話 シュトラーゼンの夜
【カタロニア国 シュトラーゼン城下街】
夜の行軍は馬車という最強の乗り物のおかげで呆気なく終わりを告げ、シュトラーゼン城下街という街に通された。
道中はアルバートさんと楽しくおしゃべり。大まかな国のイメージ像や評価を聞いていた。
ヒルダの翼の件とかちょっと不安もあったんだけど、亜人に対して国家規模で迫害するような動きは無いとの事で少し安心。
ただ、亜人に対して偏見が無いわけではなく、はちょっと対応が雑になる事が多いらしい。だから、ヒルダ単独で出歩く事はあまりお勧めしないって言われた。
街に入ってすぐの建物の前で馬を降りるとアルバートが目の前の建物を手が指し示す。
「今日はこちらにお泊りください」
先にはしっかりとした建物があり、その表の看板には読めない文字で“宿屋”と書かれていた。まったく文字が読めていないという感覚があるにもかかわらず意味が分かるという不可思議な出来事に困惑しつつ、アルバートに向けて一礼する。
「宿の手配までしてくださり、ありがとうございました」
「いえいえ、むしろ時間がなく素泊まりの宿しか手配できなかった点を謝罪致します。それとこれを」
「これは?」
小さな袋を受け取り、中身を見ると銀色と銅色のお金が数枚ずつ入っていた。銀色は小さくて、銅色のは小さいのと大きいのがある。
「明日の朝食代や宿でのチップにでも使ってください。」
「よろしいんですか!?」
「ええ。地図のご用意も間に合いませんでしたのでそのお詫びも兼ねて。ああ、あとこれが報酬と言うつもりもありませんのでご安心を」
なにこのイケメン。俺がリアルな女だったら歳が10以上離れてても惚れてそう。
「ありがとうございます。手持ちが心許なかったので本当に助かります。えっと、明日は朝に迎えに来てくださる感じですか?」
「ええ、そのつもりです。ただ、準備もありますので昼前くらいになると思います。11時ごろにこの宿屋の前で待っていてくだされば、待ち時間で街の中を散策されていても構いません」
コンソール上、今が0時過ぎ。
アルバートの言う11時ってのが、このコンソール上の時間と同じなのかを確かめる必要があるな……。
起きたら少しずつ検証でも始めるか。
「はい。わかりました」
「地図の方も明日お迎えに上がる際には持ってくるようにします」
「そうして頂けるとありがたいです」
「それでは。ごゆっくりとお休みください」
アルバートともう一人の兵士はそのまま馬に乗って去っていく。
残された俺とヒルダは宿屋へと入っていった。
宿屋の従業員に話をするとつつがなく手続きが進み、ツインのちょっと広めの部屋に通される。
「ごゆっくりお寛ぎください」
「ありがとうございます」
先ほどのアルバートの発言のおかげで案内してくれた従業員にチップを渡すため袋を開く。純日本人にチップ制度はイマイチ理解できないが、海外旅行経験者としての知識を生かして、大きい銅貨を一枚渡す。
従業員は少し笑みを浮かべるだけでそれを握り締め、去っていった。頼むから相場を教えてくれ。
俺は言いようもない不満をぶつけるべくボフンと体重をかけてベッドに腰掛ける。そのままコンソールを起動し、ヒルダの装備を拠点衣装に切り替える。もちろんゲーム仕様で一瞬の出来事。
う~ん、改めて見ると美人さんだ。鎧やレギンスなどの無骨な装備を全て取り払った拠点モードの姿。黒のぴっちりしたシャツに強調されたお胸様、程よく筋肉が付きこれまたぴっちりと肌に寄りそうジーパン。もうそれだけで夜のオカズに追加できる。靴がスニーカーというのもいい。美女のラフな格好に相応しく、ヒルダの個性を殺していない。
そんな美女は少し目を伏せてこちらを見つめていた。
「ブリュンヒルド、どうした?」
「い、いえ……。監視は付いていると思われます。気を抜くことは厳禁という事も理解しています。た、ただ……」
「ただ?」
首を傾げる俺にヒルダは可愛いの爆弾を投下してくる。
「マスター、今はあの三人がいないので……存分に甘えても、よろしいでしょうか?」
「さぁ、私の胸に飛び込んでおいで」
「はい!!!」
爆弾投下から受け入れるまでの時間に1秒も要らなかった。そして、許可を出してからヒルダが俺の胸にその顔を埋めるまで1秒も無かった。
女性としては乏しい胸の俺の胸に頬を擦り付ける柔らかな美女。お腹のあたりに押し付けられた柔らかく重量感のある感触が劣情を煽られる。クッ……、今ほど男の体を欲したことは無い!
あと、背中に小さくたたまれた翼は意外にも表面が堅かった。もうちょいフワフワだと良かったのに……。
ヒルダの翼の予想外な感触を楽しみつつ、俺は再度コンソールを起動。一応、ログアウト画面が出てないかを再度確認する。
ログアウトできないことを再認識してから、他の機能に目を移す。自分の拠点装備、ヒルダの拠点装備はゲーム内でのものと変わらず。
あのゲームで俺が一番ハマったのはこの拠点装備だろう。ステータスアップ欄のない可愛いだけを集められる素敵仕様。自分の服もヒルダを始めとする召喚獣たちの服も可愛いのをできるだけ集めた。
しかし、今のこの場所では別の服に着替えるという事はできないらしい。試しに自分の上半身装備を変更しようとしたら、変更先が空欄になっていた。
バッグに入れておく必要のないアイテムだったからアイテムボックスとかゲームの拠点にいないと表示されないのかもしれない。この世界にいる間の再実装は絶望的。
ちょっと残念な気分になる俺をよそにヒルダはゴロゴロと甘えながら、俺の事を呼ぶ。
「マスター、マスター、ますたぁー」
「このまま抱きしめたまま寝てもよろしいでしょうか」
「ふわッ!?」
赤面するヒルダを見て、俺は心の声が口から出ていた事を知る。なんというセクハラ発言!ポリスメンの登場待ったなしのこの状況、俺は真っ白になった頭で静かにパニクっていた。いや、甘えた声を出す可愛いヒルダが悪い。
すると、彼女はが俺の耳元に唇を寄せて恐ろしい言葉を告げる。
「ご、ご一緒に寝てもよろしいのですか?」
なにそのはにかんだ顔!なにそのうるんだ瞳!もう知らない!ポリスメンよ!来るなら来るがいい!俺はこの可愛い娘と一緒に寝りゅ!
その後の事は記憶にない。
ただ、朝起きた時には天使のような寝顔のヒルダが目の前にいただけだ。掛け布団をめくると二人の着衣に乱れはなく、なぜか二人とも汚れなきバスローブ姿だった。
綺麗な吐息を規則正しく行っているヒルダ。その潤んだ唇を見ていると何かを思い出すかのように体の奥が熱くなる。
何をしたかって?おいおいそんなのわかる訳ないだろう。
ええ、まったく記憶にございません。
非常に残念でならない。
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