第3話 術者の存在


 「俊哉君!良かった…無事で…」


 俺は由紀を連れて二年D組前までワープしようとした時声が聞こえた。


 女教師だ。見た感じ年齢30前後で髪を後ろに一つに纏めていて全体的にピシッとした印象の女教師。


 「…二年A組担任の佐藤先生。俊哉が…厳密には俊哉じゃないけど…その…飛び降りたのよ屋上から…」


 由紀が俺の耳元で状況を説明してくれた。


 「…なるほど。ありがとう」


 由紀に倣って小さな声で由紀の耳元で囁き返した後、


 「佐藤先生、ご心配をお掛けしました!!ちょっと屋上からピョーンってしてみたらスタッッと着地を決めることに成功し、無事無傷で生還しました!!」


 即興で言い訳を考えたのでどう考えても頭がおかしいとしか言えない言い分しか返せなかった。さすがにこの言い分には由紀もどうフォローしていいのかわからずあたふたとしている。


 「ピョーンっ…って!あなた!!一歩間違えてたら死んでたのよ!ちょっと…生徒指導室に来なさい!」


 「あ!!あそこに俺の次に飛ぶ予定だった田中が!!」


 「え!?」


 「今だ!行くぞ由紀!!」


 由紀の手を繋いで走りだす。


 「ひゃっ!う、うん!!」

 「ま、待ちなさい!!」

 

 すまない佐藤先生。今は後回しにさせてくれ。

    

     佐藤先生<清見一輝だ。


 角を曲がった瞬間に俺と由紀以外の時間を全て止めて2ーDの教室前にワープする。誰かにワープを見られるのはかなり厄介だ。


 「え!?みんな…"時"が止まってるみたい…」

 「あー時間停止したんだ。あまり俺の能力を公にするのは普通にまずいだろ?」

 「そんなことも出来るの!?」

 「あぁ。正直出来ない事の方がずっと少ないかな」

 「…やっぱり俊哉って何者!?」

 「まぁまぁ、お喋りはこの辺にして、どいつだ。その"清見"って奴は」

 

 この教室(2ーD)には20人以上の人がいる。今は昼休みらしくいない生徒もいるみたいだ。


 「いないかな…アイツの顔を忘れる訳が無いから…」

 

 由紀は少し怒りの感情を露にしてしまった。


 「そ、そうか。了解だ。…連れて来ない方が良かった?」

 「いや、全然!欲を言えば二度と人を操れないような体にしてやりたいかな…」

 「お、おう。…でも教室にいないとなると何処だ?」

 

 そいつを見つけれない限りは残念ながら手のつけようがない。

 

 「あ!」

 「ん?」

 「屋上じゃない?」

 「なるほど。ワープしてみるか」


 由紀と屋上にワープした。

あ、居た。こいつでしょ。屋上にワープしてすぐ気付いた。もっとも相手は時間が止まってるのでこちらに気づくことは無いのだが。


 どう見てもいじめる側だ。そいつはいかにもな悪人顔だった。


 「こいつよ。一発殴ってきていい?」

 「ど、どうぞ」

 

 時間は停止しているだけで物体はあるので表情が変わったり動いたりはしないが停止を解いた瞬間鋭い痛みを味わうことになるだろう。

 由紀が清見への鬱憤を晴らしている間に情報収集をしておくか。


 ◦桜波高校 二年 D組 清見 一輝

 ◦学力D ←(ノーチート状態の俺をAとするとこれぐらい)

 ◦運動B ←(以下略)

 ◦容姿ZZZ←(すまんが俺は男に興味は無いんだな)


 「でなになに〜3サイズは上から…ってこれ前もやったわ!というか誰得だよ!!」

 

 一人でノリツッコミをしてると由紀がやりきった顔でこちらに戻ってくる。


 「私は取り敢えずこの辺で許してあげるとしましょう」

 「おぉ……」

 

 あれ、おかしいな…最初から一輝こんなボッコボコだったっけ…?というか設定上時を止めてる間はボコボコにはならない筈なのだが!?…由紀さん設定無視しないでください!

 

 まぁ今、時を戻すのは公平さに欠かすような気がするがもともと相手が先に仕掛けて来たのでおあいこだろう。


 由紀もとりあえず満足してたので時を戻した。


 「うぉぉいってぇ!!チ○コいってぇ!!って誰だ!!お前ら!!って……ッ!!なんで俊哉が生きてんだよォ!。黒羽くろばァ!、命令した筈だぞッッ!!俊哉を殺せとォ!!」

 

 「俊哉今日暇?パフェ食べに行かない?」


 清見は激昂しているが由紀は完全にこの男を無いものとして扱っている。

 

 「おい黒羽!!そんなにまた痛い目見たいのかァ?」


 「はぁ…ゴキ◯リが吠えてるわ…俊哉、やっておしまい!」


 「よしっ!やるぞ!!と言いたいところだが色々ゴ……清見に聞きたいことがある」


 「お前ら俺を舐めてるよなァ!?ってか俺が話すと思ってんのか?頭湧いてんなァお前。今度はちゃんと殺してやるからなァ?クソ野郎!!」


 「じゃあまずは頭の治療から始めるか」


 「え?おい…なんだよソレ!」


 空中から聖剣を取り出した。これもこっちの世界に付いてきちゃったのか。


 「何って、魔王をも斬っちゃう聖剣『名前未設定』だぞ〜?安心しろ、ちゃんと死んでも生き返らせてやるから」

   

 聖剣の鞘を抜いて黄金の刀を見せつける。


 「は?テメェマジで頭沸いてやがんのか?おい、やめろ…ヤメロォォ!!」


 両手で聖剣を構え一振りする寸前、


 「分かった!話す!言う事聞きます!なんでも聞いて下さい!!なんでも話しますから!」


 と、清見は土下座した。


 「まぁ話し合えるなら助かるな」


 と聖剣を鞘に入れた瞬間。


 「馬鹿がヨォォ!!」


 俺の足元に魔法陣が出現し彼の術式が展開された。それは見事避ける素振りすらしない俺に命中する。


 由紀は俺が術式を解除できることを知っているのでなんら驚かない。というか男の屑さ加減に呆れて物も言えないような状態だ。


 「クソ俊哉、お前に命じる。今すぐ屋上から飛び降りて死ねぇぇええ!」



 「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない」

 


 「……はァ!?」



 男の気の抜けた声が屋上に反響していた。

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