迷子の魔法少女
徐々に日が沈んで、町の明かりが目立ち始めた。
僕たちは宿探しのためにキュトリーの街角を歩いていた。
町のことに詳しいということで、イーストウッド三人目の転生者であるマツも同行している。
「どこに行ってしまったのだか。すぐに見つかりそうにないな……」
「トーマスさん、さっきの女の子なら町の中にいれば大丈夫っすよ。この町は警備兵もいるっすから」
「……うん、そうか」
マツの言わんとすることは理解できる。
記憶の限りでも、キュトリーの治安に問題はない。
……ただ、理由の分からない胸騒ぎがしていた。
「トーマス、心配なら宿を確保して、それから探せばいい」
「セイラ……ありがとう」
それから、僕たちはマツが勧めてくれた宿に向かった。
「ああっ、ここっす。おいらの住居が決まるまで、ここに滞在してたっす」
それはイーストウッドにもありそうな普通の宿だった。
マツに値段を聞いてみても、さほど高くはない。
「それじゃあ、ここにしよう」
「顔なじみなので、おいらに任せてほしいっす」
マツはそそくさと宿の扉を開けて中に入って行った。
「部屋は空いてるっす。宿の主人には事情を説明しておいたので、このまま探しに行けるっす」
「ああっ、ありがとう」
僕たちは宿の前を離れて、エリカの捜索を開始した。
「……あれっ、おかしいっすね」
「……エリカはどこに行ってしまったんだ」
マツに案内してもらいながら、夜に入りかけたキュトリーを探し歩いた。
しかし、エリカの姿は見当たらず、有力な情報も出てこなかった。
「――あの、珍しい身なりの女の子をお探しですか?」
「彼女は茶色い髪の毛で色白なんですけど、この辺りを通りましたか?」
「ええ、少し前に見ました。私と近所の人で盗賊にさらわれた娘さんの話をしていたら、場所を聞かれて……」
声をかけてきた女性は少し青ざめた表情だった。
……もしかして。
「彼女はそこへ向かおうとしたということですか?」
「ええっ、そうです。止めようとしたんですけど、勢いよく飛び出して行ってしまったもので……」
胸騒ぎの正体はこれだったのかもしれない。
エリカの安否が判断できず、セイラの言葉を待つ。
「きっと、大丈夫だろう……と言いたいところだが、盗賊は徒党を組むところが厄介だ」
「そうですか……」
「どちらにせよ、助けに行くしかないだろう」
「……もちろん、そのつもりです」
セイラと意見が一致した。
彼女は頼もしい表情でこちらを見ている。
「トーマスさん、申し訳ないっす。おいらは非戦闘員なんで一緒には行けないっす」
「気にしなくていい。宿の主人には遅くなるかもしれないと伝えておいてくれ」
「りょ、了解っす」
マツは畏まった態度で敬礼した。
彼が戦いに不向きなことは知っているので、無理強いはしたくない。
「ふむっ、夜の戦いになるか……」
「道具屋で明かりになるものを買った方がいいですか?」
「いやっ、私は魔法が使えるから、それで問題ない」
優れた剣技だけでなく、魔法も使えるとは心強い。
「……あれっ、もしかして」
「どうした、何か気になることでも?」
「いえ、セイラが魔法を明かり代わりにできるなら、エリカも同じことができそうだなと」
「たしかにその可能性は高いな」
エリカは圧倒的に強いが、おそらく無謀ではない。
闇夜でも盗賊のアジトを攻め落とせる自信があって行動に移したはずだ。
「彼女は魔法で空を飛べるから、もうアジトについてしまったかも」
「そうか、私も飛行魔法が使えたならよいのだが……」
「気になさらないでください。アランが町の近くにいるかもしれません。いれば馬車に乗せてもらって、いなければ走って向かいましょう」
「わかった、そうしよう」
僕とセイラはマツと別れて、アランを探すために移動した。
幸運なことに、すぐに彼の姿を見つけることができた。
町の中心から離れたところを一人で歩いているところだった。
「おう、何かあった雰囲気だな」
「エリカが一人で盗賊のアジトに向かってしまって」
「それを助けに行こうってのか」
「馬車で近くまで乗せてもらえませんか?」
アランにはほとんどメリットのない提案だと分かっている。
しかし、彼の反応は予想に反するものだった。
「いいだろう。こっちに馬車が止めてある」
アランは軽い身のこなしで歩いて行った。
僕とセイラはそれに続いた。
最初にキュトリーに入った時とは別の入り口のところに馬車があった。
馬はその近くで地面に座りこんでいる。
「余力はなくはないが、そんなにたくさん走らせることはできないぞ」
「馬車ならそこまで遠くありません」
先ほどの女性からアジトの場所を聞いていたが、ここからわりと近い。
アランが手早い作業で馬と荷台を接続した。
「さあ、出発だ」
「お願いします」
僕とセイラは荷台に乗りこんで、その場に腰を下ろした。
「……あっ」
エリカのことで頭がいっぱいで、旅の荷物を背負ったままだったことに気づく。
それなりに重量があるので、盗賊と戦いになったら動きを制限しかねない。
「トーマス、どうした?」
「いや、荷物を宿に置いてくればよかったなと」
「そうか、私と違って荷物が多いものな」
セイラは荷袋を肩に提げていて、僕のものと比べるとずいぶん小さかった。
必要最低限の着替えと日用品しか入っていないように見える。
「それだけで不便じゃないですか?」
「いや、特にそうでもない。荷物は増やしたくないし、現金が必要になれば魔物の討伐などをしたりして得られるから」
「ああっ、なるほど」
セイラの話に納得してしまった。
町役場の事務官だった僕からすれば、自分の腕一本でお金を稼げるというのは立派なことだと思えた。
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