第30話 先輩、無邪気!



 俺のアルバイト先でドラマの撮影が行われる。そしてそのメインヒロインが俺の知り合いで、しかも現在その人の女優業のマネージャーもやってるってどんな確率なんだろうな。


 栗橋さんに聞いた所、俺はここの喫茶店での撮影時のスケジュールの打ち合わせ、管理とかの補助らしい。全部一人じゃなくて補助なのがせめてもの救いだった。


「そもそもの原因は凜にあるんだけどね~」

「月島さんに?」

「ほら~、凜ってツンケンしちゃうタイプじゃん? ある程度面識無いと上手く話せなくて打ち合わせがスムーズにいかないじゃん?」

「ナナ、うるさい」

「え~、でも本当のことじゃ~ん」


 月島さんはコミュニケーションを取る事が苦手なのだろうか。言われてみれば確かに当たりは強いし言葉は短いし。けどそういう人なんだろうなって思っていたから、コミュニケーションを取るのが苦手な人だとは思ってはいなかった。


「だからここでバイトもしてて凜とも普通に話せる翔也くんの力が必要ってわけなんだよ!」

「別に私はこんな奴とじゃなくたって話せるから」

「この前の打ち合わせでも問題なく話せてたらこんなことにはならなかったんだよ!?」


 七瀬さんと月島さんの言い合いが続く。言い合いってよりは一方的に七瀬さんが月島さんに向かって痛い所突いている感じだった。


「何見てんのよ」

「い、いえ……なんでもないです……!」

「ったく」


 そう言うと月島さんは頬杖をつきながら俺たちから視線を逸らしてしまった。

 そんな月島さんを見ながら七瀬さんは悪びれもなく笑っていた。俺も一緒に笑いたい所ではあったけど、笑ったら笑ったで月島さんからものすごく睨まれそうだったから大人しく堪えることにした。


「まぁ、流れはどうであれもう決まったものは決まったから、早速打ち合わせしちゃおっ!」

「そうですね。分かりました」


 喫茶店を使いたい日の大まかな予定を、実際の稼働日に当てはめていき、お店の都合と合わせて日程を立てていく。

 丸一日使える時もあれば半日しか使えない日。限られた時間をどう有効活用していくかが重要だった。


「翔也くんばかりに負担はかけないけど、どうしても頼っちゃうことはあるからお願いね」

「任せてください!」

「ダメよこいつは」


 七瀬さんからは頼りにしてるからと言われ、月島さんは未だに機嫌が悪いのか否定的な言葉を投げつけてくる。

 まぁ、実際の所は仕事でミスをすることが無くなったわけじゃないし、あながち間違ってはいないのが胸に刺さるけど。


「とりあえず今日はこのくらいでいいかな?事務所には私から伝えておくから」

「うん。分かった」

「よろしくお願いします」

「うんうん、翔也くんもよろしくねっ!」


 そう言われながら七瀬さんは俺の手を掴んできた。一緒に頑張ろうと、えいえいおーと子供のような無邪気なやり取り。

 少しだけ恥ずかしい気持ちはあるけど、決して嫌な気持ちにはならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る