第28話 幼馴染、オトナ


《栗橋さんに構い過ぎ。私のこと放ったらかし。それは平等じゃない。不公平》


 そんな事を言われてしまったけど、個人的にはそんなつもりは毛頭ないし、ペトラと栗橋さんに優劣を付けているつもりだってサラサラない。

 だけど目の前にいる女の子は依然として俺の扱いに納得していない様子で、今日は翔也の時間を私にちょうだいと言って有無も言わさず手を引かれながら歩いていた。


「ちなみにどこに向かってるの?」

「決まってない」

「じゃあ、散歩って事?」

「散歩じゃなくてデート」

「いや、まぁそれはどっちでもいいんだけどさ」

「どっちでも良くない。私は翔也とデートがしたいの。だからこれはデート」

「あ、はい……」


 ペトラの言い分を素直に受け入れて本日はデート中です。前々からペトラの俺に対する恋心とか愛情表現? みたいなのはストレートに気持ちぶつけてくるからペトラが俺を好きなことはもう重々承知だ。流石にそんな勘違いはしないけどさ。


 ただ自分の中でも明確に答えが出ていないのは確かだった。それだけは前と何も変わっちゃいない。

 ペトラは可愛いと思う。掃除、洗濯、料理と家事はこなせるし一緒に暮らしていて不自由だって何一つない。何も困らないけど、だからと言ってそれを理由にペトラを選ぶのはどうなのかとは思う。


 恋心はお互いの好きって気持ちが一緒じゃなきゃいけないと思うんだ。片方は好きだけど片方は好きじゃない。でも一緒に居て問題がないから付き合うってのは違うと思うんだ。

 その気持ちは真剣に好きになってくれている相手の気持ちを否定する行為だと思うからだ。


 中にはそんな恋愛をしている人もいるかもしれない。惰性や妥協で作られている恋心もあるかもしれない。でも俺はそんな恋愛ではなく、お互いが好き同士の恋愛をしたい。


「ぺ、ペトラ……」

「なに? 翔也」

「ペトラが俺のこと好きなのは知ってる」

「うん。言ってるしぶつけてる」

「でも……俺はすごい中途半端でごめん……」

「中途半端?」

「ペトラの好きって気持ちに……中々答えが出せてなくって」

「うん」

「ペトラだってそんな待てないだろうし、だから無理やり答えを出そうとすると……やっぱり今の俺には明確な行為は――」

「私、言ってない」

「え……?」


 俺の言葉を遮って、ペトラがそう言い放った。その声音は怒っているでもなく悲しんでいるでもなく、ただ穏やかな表情をしていた。


「私、無理やり答えを出してなんて言ってない」

「えぇっと……」

「私は私で翔也に好きって気持ちをぶつけてる。だけどそれはすぐに返事が欲しいって事とは繋がらない。私はいつも確認してる。翔也がどう感じたか感想は聞く。でも答えを求めた事は一度だってない」

「…………」

「焦って答えを出さないで。今の翔也の気持ちには私への気持ちが無いことは分かってる」

「ペトラ……」

「だから、私はこれからの翔也に意識させる為に行動してる。今の翔也じゃなくてこれからの翔也に。だからそんなに気負いしなくていい。ただ、私の好きを感じながら翔也の答えが出たタイミングで気持ちを聞かせて。あと構って欲しいのは私のわがまま。ごめんなさい」


 ペトラはそう言って申し訳なさそうに苦笑いをして、また俺の手を取って歩き始める。

 ペトラは俺が思うよりよっぽど大人なのだと感じた。






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