第24話 幼馴染、お願い!
金髪碧眼の悪魔は、今日も俺の側から離れない。
「あの……ペトラさん」
「なに?」
「近くない?」
「だって狭いから、くっついてるしかない」
「今狭いって言ったよね? なら向こうの部屋に行けばその問題は解決されるよね?」
「細かい翔也は嫌いだけど好き」
「どんな理論なの……それ」
相も変わらずペトラは俺への恋心を抱いたまま、そして遠慮なく俺の理性を掻き乱してくる。
それだけ本気なんだってことは分かるけど、こうあからさまにこられると、なんだここう……少しだけ疲れちゃわない……?
「好きな人とはできるだけ一緒にいたいです」
「その気持ちは分からなくもないけど」
「翔也は、嫌?」
「え?」
「翔也は私とくっつくの、嫌?」
これだよこれ。ドストレートに聞いてくるのが困るし……ペトラらしいっちゃペトラらしいんだけど、そんな好きか嫌いかの2択しかない質問は苦手なんだよな。
それにほら、ペトラなんか今にも泣き出しそうに瞳がウルウルしてるし、ここで俺が嫌だなんて言ったら泣いちゃうじゃん。
結局否定することなんかできっこなくて、嫌じゃないよと答えて結局は平行線。この絡みが無くなることはないのだ。
「翔也は、優しいね」
「どうだろうね」
「私のわがまま、聞いてくれるから」
「ペトラのわがままはまだ、可愛い方だとは思ってるから」
「そんな翔也に、もう1つわがままを聞いて欲しい」
「なに?」
急に神妙な顔つきになるペトラ。今までこんなに鬼気迫るペトラの表情は中々見た記憶がない。
それほどまでに仰々しく、言いにくいことなのだろうか? 俺もついつい身構えてしまう。
「私、学校で友達ができたの」
「う、うん」
「それで、テストが近いから、一緒に勉強しようってことになって」
「うん」
「い、家に……呼んでもいい……かな?」
「は……?」
「だ、ダメ……かな」
別にダメだなんて言うつもりはなかったよ。
でも、俺が思っていた以上になんの変哲もない、そんな改って許しを得るようなことでもないと個人的に思っちゃったから、なんかこう、身構えちゃった手前アレなんだよね……
「別にいいけど、そんなに改まって言うことでもなくないか?」
「前にも言ったけど、私はここでは居候させてもらってる身。私個人の意思で誰かをこの家に上げさせるのはできない」
「妙な所で律儀なんだよな〜ペトラって」
「日本に来て初めてできた友達、だから」
「いいよ。日にちと時間を教えてくれれば、俺だって外に出てるし」
「翔也が出ていく必要はない。私は隣の部屋を使うから」
「もしかして隣を空けてたのって?」
「鋭い翔也は嫌いだけど好き」
「はぁ……だからその理論はなんなのさ」
最初から俺が断らないって分かってての作戦だったってことか。よく俺のことを見ていたペトラが俺の1枚上手をいったってことだね。
でもまぁ、ペトラが日本に来て初めてできた友達なら、俺も大事にしたいとは思うから。
ペトラが俺の幸せを願うように、ペトラの幸せだって俺は願っているから。
▼
「私の友達の関本奈緒ちゃん」
「は、初めまして……」
「ど、どうも……」
ペトラが連れてきた女の子、関本奈緒ちゃんは家に入るなり玄関の扉がぶつかり、玄関の段差で躓いて、なんだかこう……ドジっ子みたいな子だった。
流石に恥ずかしさが込み上げてくるのか、俺と視線を合わせようとせず、顔も林檎かってくらい真っ赤だった。
「へ、変に緊張しなくてもいいかりゃね……?」
「奈緒、大丈夫。お兄さんも緊張してるから」
「お、俺は別に……」
噛んでしまってるから何も言えないか。まぁ、ペトラの友達だから良い子なんだとは思う。だけど俺の印象次第でペトラを見る目も変わるんじゃないかと考えたら、妙に落ち着かなくなってしまったのだ。
「と、とりあえずペトラは部屋に案内してあげて」
「うん、分かった」
「ぺーちゃん、この人ってぺーちゃんの……お兄さん?」
「うん、そうだよ」
「違うわ」
え? ペトラさんえっ? いいの? これって兄妹にしてやり過ごすものなんじゃないの?
「違うの?」
「私が留学するにあたって、日本の知り合いの人の家に泊めさせてもらってるの」
「あ、そうなんだ。びっくりしたよ〜、全然ぺーちゃんと似てないから」
ペトラって友達からぺーちゃんって呼ばれてるんだ。んなことはさておいて、ペトラは友達の関本さんを部屋へと連れていったので、お茶菓子の用意を始めた。
せっかくペトラが連れてきた友達のだし、おもてなしをしないといけないから、事前に色々と買っておいたのだ。
今時の女子高生が食べそうな物は分からなかったから、無難に羊羹とお茶を出すことにしていた。
淹れ方もよく分からない、羊羹もどのくらい切れば良いのか分からないけど、試行錯誤しながら自分なりに挑戦してみる。
歪な形にはなってしまったが、出さないって選択肢はなかったので、申し訳ないけどこれで我慢してもらおうと思い、部屋まで持って行こうとするが……
「ぺーちゃんのお兄さん、カッコいいねっ!」
「うん、お兄さんはカッコいいよ」
「血の繋がりはないんでしょ? なら付き合えるね!」
「うん、そうだね」
「それとも私が貰ってもいい? 普通にタイプかもっ!」
「それはダメ、お兄さんは私のだから」
「もぉ、ぺーちゃん独り占めダメだよぉ〜!」
入り辛い。非常に入り辛いことこの上ないんですけど……勉強会するんじゃないの? 全然勉強の話してないじゃん。っとは言っても今は家に来たばっかりだし、何かしらの準備中なのかもしれないけど、それにしてます入り辛さは変わらない。
「でもお兄さん、ごり押しすれば落とせそうじゃない?」
「ごりおし?」
「すっごい攻めること! 色仕掛けとか使ってこれでもかってくらい攻めに攻めるんだよっ!」
「色仕掛け……」
「ぺーちゃんってほら、すごいスタイル良いしおっぱいも大きいじゃん!」
ペトラ、おっぱい大きいんだ……
「何カップだっけ? Dカップだっけ?」
「そんなに大きくない。Cカップ」
「Cカップは女の子敵だよ! Bカップしかない私の前では禁句だよ!」
「カップ数の話は奈緒ちゃんからしてきた」
ペトラってCカップなんだ……
関本さんもBカップなんだ……
女性の事情、みたいな会話を延々と聞かされていて、一向にお茶菓子を渡せないでいた。
このまま俺が入って行ったら聞き耳立てていたとか思われて変態扱いされないだろうか?
俺がどう思われようが別にいいのだが、そのせいでペトラの評価が下がることだけは嫌だった。
そんな自問自答を繰り返していると、さらにもっと刺激の強い会話が聞こえてきた。
「違うよ! もっとこう寄せるの!」
「こ、こう……?」
「ダメダメ! そんなんじゃ男の子は見向きもしないよっ! もっとこう胸を強調させるのっ!」
「は、恥ずかしいよ……」
「これも女子の特権なんだから使っていくしかないんだよっ!」
俺の思考回路はショート寸前だった。
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