第12話 先輩、友達!



 大学終わりに七瀬さんから連絡が入り、近くのコンビニの前で待ち合わせをしてから七瀬さんの知り合いのお店まで行くことにした。


「七瀬さんの知り合いがバイトしてる場所ってどこなんですか?」

「ここからだと歩いて15分くらいかな~。個人経営の喫茶店なんだけど、デザートとか紅茶とかも美味しくてね、それに雰囲気とか良いんだ~!」

「そうなんですね。喫茶店とかあまり行ったことないので興味ありますね」

「そうなんだね~。でもきっと翔也くんも気に入ると思うな~」

「なんだか楽しみになってきました!」


 七瀬さんに言われた通りに15分くらい歩くと、住宅街の角に喫茶店らしきお店が見えてきた。


「ここですか?」

「うん。話はしてあるし、とりあえず中に入ろっか」

「そうですね」


 七瀬さんに誘導されながら店内へと入っていく。店内は外よりも薄暗く、でも周りが見えない程ではない。ゆったりとしジャズ音楽が流れていてお客さん達も静かに時間を過ごしていて、確かに雰囲気は良いお店だった。


「いらっしゃいませ。お好きな席を選んで座ってください」


 ここの店主らしき白髪のダンディーなおじさんにそう言われたので、ここも七瀬さんの誘導で窓際の席へ向かった。すると、俺たちの座った席にポニーテールの髪形をして、なんだかいかにもかったるそうにしている女の子がバインダーを持ちながらやってきた。


「アールグレイでいい?」

「うん! 今日は砂糖も付けてね! それとチーズケーキ。翔也くんは?」

「あ、えっと……コーヒーをブラックで1つと、ショートケーキで」

「この人がナナが言ってた紹介したい人?」

「うん、そうだよ」

「一息ついたら面接するから、テキトーに準備しといて」

「は、はい」


 そう言って七瀬さんの知り合いの店員さんはお店の奥の方へと向かった。七瀬さんの知り合いにしては少し地味な印象だったけど、人を見た目で判断するのも良くない事だ。


「さっきのが幼馴染で月島つきしまりんって名前。ここのお店は凜のおじいちゃんがやってるお店なんだぁ」

「そうなんですね。じゃあさっきの男に人が月島さんのおじいちゃんって事ですか?」

「うん、そうだよ。先月バイトの子が辞めちゃったらしくて新しい人探してるって言ってたからさ」

「いろいろと協力してもらってすみません」

「私と翔也くんの仲なんだから気にしなくていいよ~!」

「はい、これ」


 俺が七瀬さんと話をしている最中に月島さんが注文した品物を持ってやってきた。


「あれ、モンブランなんか頼んだっけ?」

「これはあたしの」

「え? 凜も一緒に食べるの?」

「めんどくさいからここで面接する」

「は、はぁ……」

「凜は相変わらずめんどくさがりだね~」


 店主の人と1対1での面接を想像していたが、相手は店主ではなく店主のお孫さんで、しかも店内の一角で他に人が居るタイミングでやるってことに驚きを隠せなかった。いや、むしろこのやり方の方が主流なのかもしれない? 俺がただ単に無知なだけかもしれないからなんとも言えない。


「土日は入れる?」

「え? あ、はい。入れます」

「週4くらいで入れる?」

「大丈夫です」

「じゃあいいよ。採用。明日からよろしく」

「え……、えぇぇ!?」

「なに? 採用しない方が良かった?」

「いや、採用してもらえて嬉しいんですけど……もっとなんかこう……調べてきた面接と違うなって思いまして……」

「人手は欲しかったし、ナナの紹介だから悪い人ではないだろうし」


 そう言われて七瀬さんを見るとウインクしながらVサインを見せてきた。可愛いしお茶目っ気な破壊力が半端ないけど、なんとか精神を保ちつつ、その後も月島さんに具体的な仕事内容を聞いたりする。


 一応説明はされたけど理解できる事もあれば理解できない事もあった為、あとは実際に仕事をしながら覚えてと言われた。緊張しっぱなしでコーヒーもショートケーキの味も全然覚えてないけど、無事にアルバイト先が決まったことには安堵した。


「じゃあ、これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします……!」


 最後に月島さんに挨拶をしてから七瀬さんと一緒にお店を出た。


「紹介してくださってありとうございます……! こんなに早く見つかったのは七瀬さんのおかげです!」

「私の推薦だけど、変な事はしないでよ~?」

「し、しませんよ!? 普通に真面目に働きますよ!」

「うんうん、たまに様子を見に行ってあげるから、頑張ってね~!」


 無事にバイトが決まったことは本当に嬉しかった。新しい生活環境に加わって初めてのアルバイト体験。慣れない事尽くしだけど世間一般では大半の人が通る道でもあるから、俺も頑張らなきゃいけないなと思った。






 ▼






「無事にアルバイト先決まったよ、ペトラ」

「どんなお仕事なの?」

「喫茶店での接客かな。まだ具体的には良く分からないけど、多分注文を取ったり料理を運んだり掃除をしたりだと思う」

「早く決まって良かったね。分からない事とかあったら聞いて」

「そうだね。そこに関してはペトラはプロだもんね」

「プロかどうかは分かりませんが」


 確かに家政婦に明確にプロだとかアマチュアだとかの区分はないと思うが、その行為で給料をもらっていればそれはもうプロなのだと思う。

 俺には他所様に見せても恥ずかしくない教養とか特に無い為、昔から作法等で間違えた事は多々あった。


「私の服、貸す?」

「ペトラのメイド服?」

「うん」

「いや、普通に着れないだろうしメイド服ってスカートじゃん?」

「スカートは本来、男性が着る物のはずです」

「だとしても現代では違うからね!? 普通に制服は支らしいからね」


 男がメイド服を着るなんて地獄絵図になるに違いない。しかもそんな姿で接客をしよう物ならお客さんは来なくなり、せっかく見つかったアルバイト先も真っ先にクビになってしまうだろう。


「時間はどのくらい働くの?」

「時間は聞いてないな~。喫茶店だしそんなに夜遅くにはならないと思うけど」

「そこには女の人はいるの?」

「女の人はいるよ。そこのお店のお孫さんが働いてるよ」

「翔也の好みの人?」

「こ、好み!?」


 とんだ話題をぶっこんできたペトラだが、当の本人は真剣な眼差しなんだけど……? 月島さんか、見た目的にも性格的にもなんだか馴染めなさそうな気はしている。それにまだほとんど会話もしてないからその状態で判断を付けるのがむずかしいし、どうしても判断しろって言うなら好みの人ではなくなるかな。


「今の現状だと、好みの人ではないかな」

「翔也はどんな人が好み?」

「どんな人?」

「恋人にしたいとか、お嫁さんにしたいとか」

「ん~」


 急にそんな質問をしてきてどうしたんだとも思ったが、ペトラはもう高校生で大人の階段を上っている最中だ。新しく馴染み始めてる高校生活を過ごす中で、色恋沙汰の話題があったって何もおかしくはない。そう言った事に興味を抱く年頃なのだろうと理解もしている。


「料理が上手で、一緒に居て楽しい人かな」

「好き?」

「ん?」

「私の料理は、好き?」


 ペトラが前のめりに聞いてきた。ペトラの料理はいつだって美味しいし、好きか嫌いかで問われたら断然に好きに決まってる。ほぼ毎日作ってくれるのだってありがたいし感謝している。


「うん、好きだよ」


 俺がそう言うとペトラはホッとしたように安堵していた。今の表情には変化があり、珍しくも緊張している様子は新鮮でよかった。


「翔也は、楽しい?」

「楽しい?」

「私と居て……楽しい?」

「そうだね。楽しいか楽しくないかで言ったら楽しいよ」

「そ、そうなんだ……ね」


 ペトラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。だけど俯きながらもその表情はうれしそうだった。



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