第11話 幼馴染、温もり!
お金持ちで生まれれば恵まれた生活を送れるってのは、必ずしもそうじゃない。そんな事はないと言われても現に俺が体験して実感した事だ。なにもかもやって貰う事で感覚は鈍るし、近寄ってくる周りも俺、尾関翔也ではなく尾関家が持っているお金目当てだったか。
友達が欲しくて最新のゲーム機を揃えた。友達が欲しくて最新のゲーム機を貸したりして、壊されてもすぐに新しいのを買って貰って、それで友達ごっこをして満足していた。浅はかだった俺は、それでもそれが1番効率が良いと思っていた。みんなが笑って集って、楽しい時間には変わりなかった。
そうすることでゲーム以外でも、映画とかゲームセンターとかにも誘われるようになって、その時も俺がお金を出す事の方が多かった。そんな上辺だけの関係でも楽しく過ごしてたとある日に、高校生くらいの不良グループ5人に絡まれた。
「え……?」
みんな俺だけを残して逃げて行った。2発殴られて、恐怖でお金を渡して逃げかえって風呂場で泣いた。次の日に学校に言ったら誰も近寄ってこなかった。
「最初からお前なんか友達だと思ってねーから」
昨日の事を話すとそんな言葉を言われた。お金がある、だから遊ばれてイジメられる。お金があるから手に入れられる物がたくさんある、さけど本物は手に入らない。仲間も友達も、お金で買えない価値がある物は何もかも手に入らない。
俺はずっと孤独なんだ……
「……ペトラ?」
「翔也、すごいうなされてた」
ペトラの顔が真正面にあり、俺が膝枕をされていると理解した。
「そっか。ちょと恐い夢を見たからかな」
「そんなに恐かったの?」
「そうだね。もう二度と体験したくないくらいには恐かったかな」
「そっか」
そう言ってペトラは俺の頭を優しく撫でてくれた。心地よい一定のリズムで、その時間は温かく、先ほどの過去の苦い思い出を少しづつ緩和させてくれる。
「私は翔也の味方だから、私はずっと傍にいるから」
「うん、ありがとね。ペトラ」
「お礼は要らない、私の好きでやってることだから」
本当に、俺の家の家政婦はできた子だった。いつまでも甘えてる訳にはいかないけど、今日くらいは、今この瞬間くらいは甘えていたかった。
「ねぇ、ペトラ。わがまま言ってもいいかな?」
「はい」
「このまま俺が眠るまで、頭を撫でていて欲しいんだ」
「分かりました」
そして俺は段々と深い眠りに誘われていく。ペトラがずっと頭を撫でてくれたかは分からないけど、俺の記憶がある中では、ずっと頭を撫でていてくれた。
▼
「バイトですか?」
「うん、いくら援助されてるとはいえ、自分でも稼がないと申し訳ないし、そもそも自分一人でどうにか生活していくつもりだったからね」
「私には止める資格はないけど、無理はしてほしくない」
「そんな過密に働く訳じゃないし大丈夫だよ。コンビニとかファミレスとかで探そうと思ってるから」
「分かった」
朝食を食べながらペトラにアルバイトの事を話した。元々やるつもりだった事だし、ペトラが来たからやらないって選択肢はないけどね。それでも、俺が帰るのをずっと玄関とかで待たれたくないから情報としては伝えとくべきだと思った。
「正式に決まったらまた教えて」
「うん、ちゃんと伝えるよ」
アルバイトなんか今までしたことがない。お金の大切さを改めて学べるし、接客業を選べば今後の交友関係作りにも活かせるはずだ。
「目星はついてるの?」
「何個かはあるけど、連絡して面接してみないとわからないから」
「それもそうですね」
「まぁ、焦らず気長に探すよ」
焦って探して変な所でバイトすることになっても嫌だし、そこら辺は上手く良い所を探したいとは思っている。それこそ七瀬さんに相談してみるのも良い機会だし、大学で会った時にでも相談してみようかな。
「翔也はどうしてそこまで1人暮らしに拘るの?」
「え?」
「1人暮らしをした方が生活は苦しくなる。そうでしょ?」
「確かに、それはそうかもね」
裕福に、不自由なく暮らしたいなら1人暮らしなんかするべきじゃない。だけど、それは孤独と一緒だから。どんなに最新のゲームがあったって、どんなに高級な料理があったって、それは誰かと一緒にやらなきゃ、誰かと一緒に食べなきゃ美味しくも楽しくもないと知っているから。
これは俺が経験してきた紛れもない事実で、現実だ。そんな事を気にしない人だっているかもしれないけど、俺はそうじゃなかった。中途半端でも上辺だけでも、例え友達ごっこだとしても、その瞬間は楽しかったから。その楽しさを知っているからこそ、またそんな日常を手にしたかったんだ。
傷ついた。たくさん悔やんだし泣いたりもした。それでもまた掴みたいって思ったから、俺は父さんにも母さんにも頼んで頭を下げて、こうして家を離れることができたんだ。俺はこの選択は間違っているとは思ってない。一度きりの人生なんだから、俺がしたいように、やりたいように生きたかった。シンプルにただそれだけの理由だった。
「憧れだったから。どうしてもね」
過去苦い思い出は話さなかった。そんな事を話してペトラに余計な心配をかけたくなかったからだ。慰めて欲しいわけでも同情して欲しいわけでもない。ただ優しく見守っていて欲しいだけだから。
「それが翔也の夢なんだね」
「夢、かな。そうかもしれないね」
「なら、私は応援する。翔也の夢を応援してるから」
「ありがとう、ペトラ」
「私も私の夢の為に頑張ります」
「ペトラの夢って?」
「それは内緒のお話です」
「内緒か~」
「いつか……いつかその時が来たら、ちゃんと言うね」
「ん? うん、待ってるよ。その時は聞かせてね、ペトラの夢を」
昔の事を思い出すだけで嫌な気分になるのは今も昔も変わらない、けど、前とは違う事だけが一つあった。昔は独りぼっちだった俺も、今は少なからず幼馴染のペトラが居る事だった。
▼
「ってなわけでアルバイト先を探してるんですけど、何か良い所あったりしますかね?」
「アルバイトね~」
大学でのお昼時、俺は恒例になった七瀬さんとの昼食の間に良いアルバイト先が無いかを聞いてみた。世間を知らない俺よりも七瀬さんの方がいろいろと詳しいだろうし、もしそのあてががあるのなら是非ともあやかりたい気持ちもあった。
「私もアルバイトってしたこと無いからな~」
「七瀬さん、アルバイトしたこないんですか?」
「うん。そんなに意外だった?」
「初対面だった俺にも普通に話しかけてくれたりしてたのでてっきり接客業とかで働いているのかと思ってました」
「あの時は翔也くんが困ってたからだよ。困ってる人に手を差し伸べるのは普通でしょ?」
「普通を普通にこなすのって結構難しいことだと思いますよ」
そうかな? っと七瀬さんは言いながら微笑む。アルバイトをしていないことは意外だったけど、きっと誰にでも人見知りせず話せるのは昔からなのだろう。羨ましい気持ちもあるけど、七瀬さんの容姿とかも考慮した上でだと、俺じゃどう足掻いても同じステージには立てなそうだ。
「そうだ、知り合いにアルバイトしてる子いるんだけど、そこにお願いしてもらおうか?」
「いいんですか?」
「採用されるかの保証はできないけど、紹介くらいはできそうだからねっ!」
「あ、ありがとうございます!」
「あーお礼なんて気にしないで! 今日大学終わったら時間ある? 私その子と会う予定あるから直接話しよっか?」
「あ、ありがとうございます!」
やはり七瀬さんは優しい人だった。このまま変なセールスに……なんて不安もあったけど、そこは七瀬さんを信じるしかないと思ってお願いをする。それに七瀬さんの知り合いとなると同じくらい美人な人なのかもしれない。そうなってくるとバイト先って結構オシャレな飲食店だったりするのかもしれない。
「とりあえず終わったら連絡するから、そしたら待ち合わせして一緒に行こうね!」
「分かりました! 連絡待ってます!」
何度も見た別れ際の七瀬さんは美しい。そんな先輩の後姿に見惚れてしまうのは無理もない話だが、ここで一つ疑問が生まれる。
「そういや七瀬さん、俺以外の人と話してる姿見た事ないな」
もしかして友達いないとか? いや、七瀬さんに限ってはそんなことがあるはずがない。現に七瀬さんの知り合いのバイト先を紹介してもらうし、きっと昼以外は仲の良い人と楽しげに過ごしているに違いない。俺とお昼を食べてくれるのはまだ俺がここに慣れていないからの恩情なのだろう。
それでも嬉しい事には変わりがないから、大学が終わるまでの授業は1人そわそわしてまともに受けられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます