第8話 幼馴染、激おこ!

「ねぇ、ペトラ」

「はい、なんでしょうか?」

「その髪飾りさ、出かける時とかに付ける物じゃないの?」

「そうかもしれませんね」

「なら、外した方がいいんじゃないかな? 今は家の中だし」

「翔也さん。これは翔也さんから私へのプレゼントという認識ですが、間違っていませんよね?」

「そりゃ間違ってないけどさ」

「なら、所有権は私にある事になります。なら、私がいつ、どこでどんな使い方をしようが私の自由だと思うのですが?」

「そう、ですね……」

「はい、そうです」


 ペトラのしている髪飾りは俺がペトラへ贈り物としてあげた物だけど、すごく気に入ってくれたみたいでずっと身につけていた。流石に寝る時とかは付けてないけどさ。


 買った側としてすごく嬉しいし、ちゃんと身に付けてくれてるのを見ると嬉しい限りなんだけど、いかんせん恥ずかしさもあるんだよ……


「翔也さんから贈り物を貰えた。そして何より私の事を大切な人だと思ってくれている。それだけで気持ちがいっぱいです」

「死にたくなるから言わないでそんな事……」


 なんか現在進行形でイジられてるんですけど。従順なペトラは少し居心地は悪いけど、イタズラモードのペトラもそれはそれで厄介ではあった。


「でも本当に嬉しかった気持ちは嘘じゃありません。とても大切に、大切にします」

「それなら、良かったかな……?」

「あの時の約束を覚えてくれてた事、本当に嬉しかったです!」

「あの時の約束?」


 俺がそう言葉を発すると、ペトラはへっ? って表情になり、なんだか先程の明るい表情から一気に修羅のような表情になった。あれ、これなんか俺やらかしちゃったかな?


「ぺ、ペトラ?」

「早く食べてくださいね。片付けをしたいので」

「あのー、なんか声音にトゲがあるんですが?」

「なんでもありません。早く食べてください」

「いや、あきらかに態度変わり過ぎでしょ……」


 ペトラは見るからに不機嫌になり、その原因も俺はイマイチ理解できていなかった。あの時のやくそく? そんな約束したっけ? ってレベルで記憶をどれだけ辿ってもそれらしき思い出には辿りつけなかった。


「なんでもありません。ただ、私の態度が変わったと言うのなら、翔也さん自身の胸に聞いて見ればいいのではないでしょうか?」

「ぐへ……」


 分かりやすく不貞腐れて、緊張感が増す。無機質なロボットではなく感情的になる様は見ていて安心はできるが、それでもこの現状はどうにかしなくてはならい。


「もう、翔也さんなんて知りません……!」


 俺は幼馴染もとても怒らせてしまったらしい。とりあえずマカロンでも買って落ち着かせようかな。ほら、女の子スイーツ好きでしょ?









 大学の授業は高校の時とはまた違った。入学早々居眠りをしている人もちらほらいるけど教授も過度に指摘することはなく淡々と講義を進めていく。高校では毎回先生が起こしていたが、それらも含めて単位って物に繋がるはずだから、反面教師として俺はそうはならないぞと気を引き締め直す。


「けど、退屈だよな~」


 食堂で1人カフェオレを飲みながらそんな愚痴を零す。生憎とまだ友達なんかできていないし、絶賛1人で行動中。今はまだそんな人たちがちらほらいるけど、だからと言ってこのまま何もしないとボッチ確定になってしまうのでそれだけは避けたいと思っていた。


 あの1人でいる男に人に話しかけてみようか。いや、なんかものすごく影を帯びている感じで近寄りがたい……じゃああの人はどうだろう? いや、金髪でピアスしてるし見た目が恐そうだから話かけるのはやめとこう。じゃああの人はどうだろうか? 筋骨隆々だけど、過去にも体育会系の人は苦手なのでパスしておこう。


 そんな風に好き嫌いが止まらないからいつまで経っても友達ができないんだろうな。人間不信って訳ではないけど臆病になっているのは確実だった。


「翔也くん!」

「く、栗橋さん?」

「どうしたの~、そんな浮かない表情して? なんかあった?」

「いや、特に大した事ではないんですけど。栗橋さんこそどうしたんですか?」

「私は見ての通りご飯食べようと思ってさ~。前座っていいかな?」

「はい、どうぞ」

「じゃあ失礼するね~」


 もう二度と絡むことがないと思っていたた相手と出会い会話をした。見ているだけで癒されるほどに美貌をまた間近で見られることが少しだけ嬉しかった。


「それって弁当だよね? 翔也くんって料理とかするんだ~」

「いえ、これはペト……」


 ペトラに作って貰ったと言おうとしたがすぐに言葉を飲み込んだ。今ここでペトラの存在を明かすとめんどうにはならないだろうか? 自分がお金持ちであることを隠したいからペトラの事をメイドなんて言えないし、かと言って女子高生の女の子と家で同居している事だって言えない。妹にしても見た目が違い過ぎて怪しまれるだろうし……


「1人暮らしなので、できた方が良いかなって練習してまして……!」

「そうなんだ~、えいっ!」


 すると栗橋さんが俺の弁当箱から卵焼きを1つ取っていく。身を乗り出していた為、Tシャツと首元との間から栗橋さんの谷間が……慌てて視線を逸らしたが、見てしまってはいた。当の栗橋さんはそのまま頬張り美味しいと笑みを浮かべる様にこちらもつい口角が上がってしまう。


「すっごい美味しいね~。翔也くんって料理得意なんだね!」

「そ、そう言って貰えると嬉しい限りです……!」


 嘘をついてしまう罪悪感はあるが、別に変に特定されることもないだろうし今だけの辛抱だ。今後も食堂で食べていると栗橋さんに見つかってしまう可能性があるから場所は変えよう。


「翔也くんは友達はできた?」

「今ここで1人で居る事で察してください」

「そっか~。まだできてないのか~」

「人付き合いが元々苦手で、あまり話しかけられないんです」

「私とは話せてるよ?」

「話かけられれば話せるんですよ。向こうから話題を振ってくれて、そうやって何度か会話をすれば自分から話せるようにはなるんですけどね……!」


周りが自分に対してどんな評価を抱いているのかが気になってしまう。めんどくさがられてないかとか、話しかけて欲しくないと思われていないかとか。そんないちいち気にする事じゃないかもしれないし、自分が思ってる以上に周りはそんな自分の事を見ていないのかもしれない。それでも難しい物は難しい。簡単ではなかった。


「なら、私と友達にならない?」

「友達、ですか?」

「ここで出会ったのも何かの縁だしさ、私も翔也くんと友達になりたいと思ってるし。ダメかな?」


こんな美人な先輩と友達になれるのは大歓迎ではある。癒されるし今後の大学生活とかでもアドバイスが貰えそうだし。それでも裏は無いかと疑ってしまう気持ちはあった。どこかで俺が金持ちだと知って声をかけて来たんじゃないかとか、このまま薬物とか紹介されるんじゃないかとか。卑屈過ぎるのは自覚してるし治したいとも思っている。


「栗橋さんが、良ければ」


俺は殻を破る事にした。けど、今はまだ様子見だ。お友達体験と言った方が良いのかもしれないけど、そうやって本当に信じられると思った時は、改めて友達になってもらう。


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